第六十六話:開戦前
「実に不愉快な話だ。女の色香に惑わされおって・・・・」
ロザリオ侯爵邸にてハルバード王国王太子の突然の婚約破棄を耳にしたアルクエイドは毒づいた。ビビが帰国した事でガルグマク王国はハルバード王国よりも先に先手を打つ事に成功し彼の国と距離を置き始める国も表れるほどである。中でもガルグマク王国とハルバード王国両国と友好を結んでいるネマール国をこちらの味方につけた事でハルバード王国と徒党を組んでガルグマク王国を攻めいる事はなくなったが油断はできなかった
「(だが油断は禁物だわ、ハルバード王国が単独で戦争を仕掛けてくる可能性もある。)」
現に騎士たちも一層の訓練に勤しみ、国境の警備も厳重になった。ガルグマク&ハルバードと隣同士であるネマール国が鍵となる。ネマール国は今回のハルバード王太子の蛮行に距離を置いたが、もしハルバード王国が戦争が仕掛けるとなればネマール国に道案内を頼むだろう。もし拒めば真っ先にネマール国を襲いかかる。ネマール国にとっては甚だ迷惑な話である
「さてネマール国はどうするかね。」
一方、ネマール国は危機的状況に陥っていたんた。ハルバード王国から味方になるよう通達が来たのである。ネマール国の若き国王、ジョージ・ネマール【年齢28歳、身長182cm、色白の肌、漆黒の短髪、碧眼、彫りの深い気品漂う端整な顔立ち、聡明かつ慎重な性格】は悩んでいた。そこへ宰相のロング・ロドリゲス【年齢55歳、身長182cm、色白の肌、白髪交じりの黒髪短髪、碧眼、彫りの深い思慮深く聡明な顔立ち、ロドリゲス公爵家当主】と元帥であるプロイア・ヴァルカン【年齢55歳、身長185cm、小麦色の肌、碧眼、金色の短髪、彫りの深い傷だらけの精悍な顔立ち、ヴァルカン侯爵家当主】が意見を述べた
「陛下、今のハルバード王国は王太子ウルザの蛮行により孤立無援の状態にございます。」
「うむ、だが我が国はハルバード王国と違って小国だ。武力での衝突となれば真っ先に攻撃を受ける事になる。奴らの狙いはガルグマク王国であって我が国ではないと言うてきている。」
「騙されてはなりません!表向きはガルグマク王国討伐で実際は我が国を攻め入るつもりなのでしょう。」
「左様、奴等の口車に乗ってはなりません!」
「う、うむ。」
「万が一、戦争になったとしてもガルグマク王国に援軍の要請しております。それに我が国にはネマール河という天然の要害があるではありませぬか。戦争となれば彼の国とは水上戦が主戦となります!」
「う、うむ。」
ネマール国はハルバード王国と比べて国の面積が狭く、面積も人口も断トツでハルバード王国が上であるがネマール国にはネマール河という大河があり、古来より農業や漁業に活用すると同時に天然の要害の役割を果たしており、ハルバード王国との国境はネマール河によって定められていた
「騎兵と歩兵に長けたハルバード王国とは違い、我が国は水上戦に長けております。向こうは騎兵や歩兵が主流であり水上戦に不慣れな者が多く我等に十分、勝機がございます。」
元帥のプロイアは騎兵と歩兵が主流であるハルバード王国は水上戦に関しては素人同然である事を国王のジョージに説明をするとジョージは「そうか」と一言呟いた後、腰に下げている剣を抜き、目の前にあった壺を真っ二つにしたのである
「余は決めたぞ、ハルバード王国と死力を尽くして戦うぞ!」
「「ははっ!」」
まだ孤立無援になる前のハルバード王国はというと王太子ウルザ・ハルバード【年齢19歳、身長178cm、色白の肌、碧眼、赤髪短髪、彫りの深い端整だがキザな顔立ち、一人息子、プライドが高い上に思い込みが激しく癇癪持ちな一面がある。信じやすいが同時に猜疑心が強い】は苛立ちのあまり物を当たっていた
「くそ!あの時、牢に閉じ込めていれば!」
「ウルザ様、どうか落ち着いてください!」
「ふぅ~、すまんアルル。」
「悪いのはあのビビとかいうガルグマクが送り込んだスパイのせいなのですから。」
ウルザを宥め、ビビのせいだと責任転嫁をするこの女の名はアルル・ブリザリン【年齢18歳、身長160cm、肩まで伸びた金髪、色白の肌、碧眼、細身、巨乳、彫りの深い端整で清楚な顔立ち、腹黒い性格、ブリザリン伯爵家、反ガルグマク派閥の令嬢】である
「そうだな、君に嫌がらせをしたあの女とガルグマク王国と同盟を結ぼうとした父上自体が間違ってたんだ。」
「そうですわね(あのいけ好かない女を亡き者にするために自作自演をしたのに何て悪運が強いのかしら!)」
「あの女に手を貸した貴族たちも全員投獄し父上の命も残り僅かだ。私が国王になった暁には真っ先にガルグマク王国に攻め行ってやる!」
「その意気ですわ!」
「殿下、失礼致します。」
ウルザとアルルの前に現れたのはアルルの父であり宰相であるハンス・ブリザリン【年齢50歳、身長176cm、肩まで伸びた金髪、色白の肌、碧眼、彫りの深い神経質な顔立ち、反ガルグマク派閥筆頭】である
「何だ?」
「畏れながら陛下は御薨去致しました。」
「そうか・・・・それは目出度い!」
ガルグマク王国との同盟を推進してきた国王がついに亡くなったのである。ここにいる3人にとってはまさに吉報であった
「「おめでとうございます、ウルザ様(殿下)」」
「これで私はハルバード王国の国王だ。」
「やりましたわね、父上(小声)」
「あぁ(小声)」
ウルザが国王になれたのを喜ぶ傍らでアルルとハンスは薄ら笑いを浮かべていた。ハンスは予てからガルグマク王国との同盟に反対の立場であり、1度宰相の地位を解任され、屋敷に謹慎されていたが娘のアルルを使って王太子ウルザを誑し込み、何とか婚約破棄にこじつける事ができた。また国王が新たに任命した宰相が急死した事でハンスは宰相の地位を復職し、ガルグマク王国を贔屓にする貴族たちを全員、牢に入れる事に成功したのである
「(肝心のあの小娘を逃がしたのは失敗だったな。)」
肝心のビビは国外へ逃亡した事にほぞを噛んだがウルザの父である国王が死に、ウルザが国王になればもっけの幸いとばかりに幸先が良かった
「(これで私は正式にウルザの妻、つまり王妃よ♪)」
「(これでハルバード王国は私の思うままだ)」
「私がこの国の国王だ!!」
しかしこの3人は気付いていなかった。ハルバード王国が孤立無援になっている事に・・・・
それからは先王が死去した事とウルザが新たに国王に就任した事を各国に通達してから一週間後、ガルグマク王国から弾劾状&各国から絶縁状がハルバード王国に届いた
「どういう事だ、これは!」
「わ、私にもさっぱり。」
「ウルザ様!」
「まさかあの女、ガルグマクに辿り着いたのか!」
3人は突然のガルグマク王国からの弾劾状と各国からの絶縁状を見て驚愕したが、ウルザはすぐにビビがガルグマク王国に到着した事を悟った
「くそ!」
「面倒な事になりましたな。」
「ウルザ様、どうするのですか!」
「決まっている、ガルグマク征伐だ!」
ウルザの口からガルグマク征伐と聞いたハンスは驚愕しすぐに諌め始めた
「お待ちくだされ、まだ即位したばかり、しかも各国から絶縁状が届いた以上、今のハルバード王国は孤立無縁にございます!」
「それがどうしたというのだ!お前はガルグマク王国の事を悪し様に言うていたではないか!」
「お、仰る通りの私はガルグマク王国との同盟は反対でしたが戦争をしようとは考えておりません!」
「今になって怖気づいたのか!」
「め、滅相もありません。ただ今、戦争を仕掛ければ我等は真っ先に各国から攻撃を受けます!それこそ我が国は四方を敵に囲まれている状態なのです!」
ハンスの諫言にウルザも言い返せなかった。ここに来てウルザも自分たちが置かれている状況を理解したのである。アルルはというと腹黒い性格だが政治に関しては素人同然であり、黙って事の成り行きを見守るしかなかった
「殿下・・・・いや陛下、まずは各国にガルグマク王国が偽りの情報を提示した事を知らせるのです。全てビビという女の狂言であると。」
「う、うむ。」
「後、ネマール国に我が国の味方をするよう通達をするのです。共にガルグマクを滅ぼし領土を折半しようと持ち掛けるのです。」
「うむ、そうしよう。」
ウルザは早速、ネマール国にガルグマク王国討伐の協力を呼び掛けたがネマール国の返事はNOであった。この知らせを聞いたウルザは激高しハンスを呼び出した
「ハンス、ネマール国は我等の要請を断って来たぞ!場合によってはガルグマク王国と共謀するとな!」
「さ、左様にございますか。」
「もう許さん!ガルグマクよりも先にネマール国を叩きつぶしてやる!」
「なりませぬ!今、戦争を仕掛ければ我等は孤立致します!」
「喧しい!」
ウルザは剣を抜き、ハンスをその場で斬り捨てた。ハンスはというとまさかこの場で斬られると思っていなかったようでギョッとした表情のまま痛みを感じずにその場で倒れたのである。死ぬ間際、ハンスは「どこで間違えた」と心の中で呟き、息絶えた。ハンスが倒れると同時に偶然、その場に現れたアルルは父が目の前で死ぬ姿を目にした途端、悲鳴をあげた
「キャアアアアアアアアア!」
「黙れ!黙らないと貴様をこいつと同じ目に遭わせるぞ!」
ウルザは剣をアルルに向かって突きつけるとアルルは涙目になりながら頷くしかなかった。アルルの悲鳴を聞いた家臣たちが駆け付けると自分の主君が剣を抜いて、宰相を斬り殺した光景を目にし「うわ!」とか「ひい!」を悲鳴をあげた後、ただただ絶句するしかなかった
「良いか、私が国王になってからの最初の命だ!我が国をコケにしたネマール国とガルグマク王国を滅ぼす!これより出陣致す、逆らう者は宰相と同じ目に遭わせてやる!」
王宮は暴君の雄たけびのみが響き、戦争の火ぶたが切って落とされたのであった




