第六十五話:嵐の前の静けさ
「いよいよだな。」
「いよいよですな。」
「いよいよですわ。」
「いよいよ新しい年が来ますね。」
夜は真っ暗、時間でいうと夜23時55分頃、ロザリオ侯爵邸にてアルクエイド、ジュード、マリアンヌ、アン等は新しい年を迎えようとしていた。アルクエイドだけではなく他のお歴々も同じようでそれぞれ自分達の屋敷で新年を祝う。勿論の事、アシュリーも領地から来た祖父母、両親、兄と共にゴルテア侯爵邸にて新年を迎えるのである
「旦那様、そろそろ始まりますぞ。」
「ああ。」
もうそろろろ午前零時になる十数秒間、刻々と時間が過ぎていき、そして午前零時になった瞬間、王都全域に鐘がなり真っ暗な大空に大量の花火が照らした
「新しい年になったな。」
一方、ゴルテア侯爵邸でもアシュリー含め家族や使用人たちも夜遅くまで起きて、大空に花開く花火を眺めていた
「綺麗・・・・新しい年が私たちを祝福していますわ。」
「ただの花火だろう、アシュリー。」
「分からない御方ですわね、お兄様。新しい年を迎えるからこそ美しいのです。」
「そうか?」
「お兄様は本当にロマンがありませんわね。もしこの場にリネット嬢がいたら同じ事が言えますか?」
「ちょっ・・・・なんでリネット嬢が出てくるんだ!」
「はぁ~、本当にお兄様は女心が分からないのですね。」
「そうね、アシュリーの言う通りだわ。本当に誰に似たのかしら?」
「我が孫ながら情けないわね。」
そこへエリナとメーベルが現れ、アシュリーと同調するようにレオンに対して冷めた目で見た。レオンはというと祖母、母、妹からの冷めた目線に顔を真っ赤にして俯く他がなかった。その様子を見ていたルノー&クリフは息子(孫息子)に同情しつつ我関せずの態度を貫く他なかった。従者たちもルノーとクリフと同様に我関せずに仕事を続けるのであった
「国王陛下、新年明けましておめでとうございます。」
「うむ。」
新年の祝いの花火を終えてから朝となり、アルクエイド等の貴族たちは王宮に参内し国王グレゴリー等に対して新年の挨拶を述べた
「王妃陛下、新年明けましておめでとうございます。」
「えぇ。」
「王太子殿下、新年明けましておめでとうございます。」
「おめでとう、ロザリオ侯爵。」
「レミリア様、新年明けましておめでとうございます。」
「おめでとうございます、ロザリオ侯爵殿。」
アルクエイドは王族等に挨拶を済ませるとそこにレミリアの父であるレオナルド・ガルグマク公爵【年齢50歳、身長182cm、肩まで伸びた金髪、碧眼、口髭、細身、彫りの深い威厳のある風貌】とレミリアの母であるルージュ・ガルグマク【年齢50歳、身長165cm、金髪ロング、碧眼、美乳、細身、彫りの深い気品漂う端整な顔立ち】とばったり会った
「ガルグマク公爵閣下、ガルグマク公爵夫人、新年明けましておめでとうございます。」
「おめでとう、ロザリオ侯爵。」
「おめでとうございます、ロザリオ侯爵。」
挨拶を済ませたところで今年、王太子グランとその婚約者であるレミリアが結婚する事が正式に決まったのでアルクエイドは改めてお祝いを述べた
「此度、レミリア様が王太子殿下と無事に婚約が正式に決まりました事、お祝い申し上げます。」
「ロザリオ侯爵、そなたもゴルテア侯爵家の令嬢と今年、婚約を結ぶそうではないか。」
「はい、アシュリー嬢の誕生日と同時に結婚する予定にございます。」
「それはよろしいですわね。レミリアとアシュリー嬢が同じ年に結婚とは縁起が良いですわ。」
「ルージュ、一寸先は闇という諺がある。この先、何が起こるか分からぬのだぞ。」
「もう旦那様ったら・・・・」
「あはは・・・・」
今年になって娘と同い年の令嬢が同じ年に結婚する事になって、幸先よしと喜ぶルージュに対して、あくまで慎重に事をあたるレオナルド、ルージュは不満げに頬を膨らませた。アルクエイドは苦笑いを浮かべつつ、レオナルドが言った一寸先は闇という言葉にモヤモヤした感覚に襲われた
「(おいおい、お次は何だよ。)」
そのモヤモヤの正体が判明したのは数週間後であった。騎士隊と隠密と従者の護衛の下で一台の馬車が王宮に到着したのである。馬車を降りた2人の女性が国王グレゴリーに対面したのである
「御懐かしゅうございます、伯父上様!」
「ビビ、如何したのだ!」
国王グレゴリーの前に現れたのはグレゴリーの姪であるビビ・ガルグマク【年齢18歳、身長165cm、赤みの帯びた金髪ロング、碧眼、色白の肌、細身、美乳、彫りの深い端整な顔立ち、ハルバード王国王太子ウルザ・ハルバードの婚約者】である
「そなたハルバード王国におったのではないのか!」
「に、逃げて参りました。」
「逃げ・・・・どういう事だ!」
「経緯は私が説明致します。」
「ケイト、どういう事だ!」
ビビの守役であり乳母でもあるケイト・ブリャンスク伯爵夫人【年齢48歳、身長168cm、銀髪ロング、赤眼、色白の肌、細身、美乳、彫りの深い端整な顔立ち、未亡人】が説明をした。ケイト曰く、ハルバード王国王太子の婚約者としてガルグマクとの架け橋の役目を果たしていたが王太子ウルザが突然、ビビに婚約破棄を突き付けたという
「婚約破棄だと!」
「はい、何でもウルザの想い人にビビ様が嫌がらせをしたという理由だとか。」
「私はその御方の事は1度たりとも御会いした事がなく嫌がらせ等、身に覚えがございません!」
「それだけではございません、想い人を嫌がらせをした罪でビビ様を牢に入れようとしました。幸い貴族たちの反対により未遂に終わりましたが・・・・・」
「ハルバード王は如何したのだ!」
「それが病が重く寝込んでおり、婚約破棄の出来事は知らぬものと。」
グレゴリーはウルザの蛮行に怒りつつ、どうしてハルバード王国から脱出したのか気になった
「ビビ、どうやってハルバード王国から出たのだ。」
「はい、ガルグマク王国に誼を通じたハルバード王国の貴族たちの手引きによってハルバード王国を脱出致しました。」
「追手も来ましたが何とか国境を越える事ができました。」
「そうか・・・・ビビ、ケイト、よくぞ戻って参った。」
「「忝のうございます。」」
「今日はゆるりと休め。」
「「有り難き幸せにございます。」」
2人を下がらせた後、グレゴリーはすぐに宰相レスター・アルグレンと外務大臣ホルス・フォードと軍務大臣ランドルフ・ベルグーズと内務大臣ラオン・フレグランスと財務大臣ヘルゼン・ゴルティエを呼び出した
「「「「「拝謁致します。」」」」」
「うむ、楽にせよ。さて我が姪のビビが急遽、帰国した。」
ビビの帰国と聞いた5人は何か不足な事態が起きた事を悟った。5人を代表して宰相のレスターが尋ねて来た
「畏れながら陛下、ハルバード王国との同盟は解消されるおつもりにございますか?」
「それは向こう次第だ。ハルバード王は病が重く、王太子は他の女に現を抜かし婚約破棄まで仕掛けるからな。」
婚約破棄というワードに5人はギョッとした。まさか一国の王太子が同盟国の姫、特に国王の姪に対して婚約破棄を突きつける等、僭上の沙汰も甚だしいのだ。下手をすれば戦争にも発展しかねない程の国際問題なのである
「陛下、此度の婚約はハルバード王国側からの申し出であり、非は向こうにあります。」
「左様、今すぐにでも各国にハルバード王国の不行跡を通達し、かつ彼の国に弾劾状を送るべきかと。」
「万が一の事を考えてハルバード王国に隣接するネマール国にも知らせねばなりませぬ。ネマール国とハルバード王国が同盟を結べば我が国は双方から攻撃を受けまする。」
「戦争に発展すれば資金が必要になりまする!」
ラオン、ホルス、ランドルフ、ヘルゼンの順でそれぞれ意見を述べた。グレゴリーは全ての意見を聞き入れ、各国にハルバード王国の罪状を通達すると同時に戦争の準備も刻々と進めるのであった




