第五十七話:行儀見習い【2度目】
「ジオルド元殿下が亡くなったそうだ。」
「謹んで御悔やみ申し上げます。」
「あぁ。(心臓麻痺とか、他人事じゃないわね。)」
警備局からジオルドが心臓麻痺を起こして死んだと伝えられた瞬間、アルクエイドの背筋がゾクッとした。アルクエイド自身も前世の最期は心臓麻痺で誰にも知られる事なく亡くなったので内心、ヒヤッとしたのである
「まあ、あの男が死んでアシュリー嬢も安心したであろうな。」
「えぇ、おまけにサンドラ王国にて謀反が発生したとか。」
ジュードの口からサンドラ王国で起こった謀反について言及した。サンドラ王国の元国王ザオリクは実の息子2人に殺されたのである
「あぁ、まさに身から出た錆のような末路を辿ったな、サンドラ王国の元国王は・・・・」
一方、ゴルテア侯爵家の方でもジオルドが心臓麻痺を起こして亡くなった事が警備局より知らされた。ゴルテア侯爵一家はホッとした
「一時はどうなるかと思ったぞ。」
「これでアシュリーが狙われる心配もありませんわね。」
「不謹慎ではあるが私たちにとっては幸運でしたね。」
「・・・・そうですわね。」
クリフ&エリナ&レオンはジオルドの死に安堵する一方でアシュリーは複雑な気分であった。アシュリーの様子が変な事に気付いたレオンは問い掛けた
「アシュリー。どうした、難しい顔をして?」
「いいえ。」
「お前に執着していたジオルド殿下はもういないんだから、そんな顔をしなくてもいいんじゃないか?」
「ええ、分かってはいるのですが・・・・」
言い淀むアシュリーに今度はクリフとエリナが話しかけて来た
「アシュリー、何を考えていたんだ?」
「え、ええ、何と言えば宜しいのでしょうか、何だか哀れな御方だなって。」
「哀れ?どういう事なの、アシュリー?」
「あの御方は王子というお立場でありながら思慮の分別もなく、思うまま振る舞われました。よくよく考えるとジオルド殿下を叱る御方がいなかったのかなぁと思いました。」
アシュリーの率直な意見にクリフとエリナは「あぁ~」と納得した。クリフやエリナも家を残すために息子と娘の教育を熱心に行い、今日まで至った。それに比べてジオルドは手の掛かる子供がそのまま成長したような感じであった。おまけに王子という立場も相まって周囲も手を焼く存在となってしまった
「アシュリーの言う通りだ、あの御方のお振る舞いは母国でも同様であったであろうな。」
「そうですわね、サンドラ王国の国王はジオルド殿下のお振る舞いを見てみぬ振りをしている時点で親としてどうかと思いましたわ。」
「あぁ~、そういう事ですか。だとしたら相当甘やかされたんでしょうね。」
クリフとエリナは親の立場でサンドラ王国の国王ザオリクの子育てを非難した。レオンは最初は分からずにいたが両親の言葉でジオルドを溺愛している国王の不手際だと理解したのである。クリフとエリナは先に起こったサンドラ王国の謀反についても言及した
「それが原因なのかは分からないがサンドラ王国にて謀反が起きた。元国王は実の息子たちによって討ち取られたと聞く、普通であれば有り得ない話だ。」
「余程、恨みを買っていたのでしょうね。元国王を討った事による家臣と国民からも非難する声がなく、寧ろ王子たちが国を救った英雄として奉られる始末だわ。」
「サルマン王国とサンドラ王国は身内の謀反で国王が変わりましたよね。前者は元国王は退位して難を逃れ、後者は王子たちに殺された。何とも皮肉を感じざるを得ないですね。」
「・・・・ジオルド殿下だけではなく他の方々も哀れですわ。」
王宮ではサンドラ王国謀反の事が話題になっていた。国王グレゴリーは宰相のレスター・アルグレンと外務大臣のホルス・フォードとその事で今日も話し合っていた
「さてと如何致すか?」
すると先にホルスが率直に自分の意見を述べた
「畏れながら陛下、先の王が亡くなられた事で彼の国の結束が高まりましてございます。下手に攻めるとこちらに被害が及びますれば、しばらくは様子見が宜しいかと。」
「私もフォード侯爵殿と同じ意見にございます。」
「うむ。」
ホルスの意見に同調するようにレスターも賛成に回った。グレゴリーもこれ以上、サンドラ王国と関わるつもりは一切なかったのある。しかし歴史は皮肉なもので再び両国は関わりを持ち、同盟を結んだのは先の話である
「また行儀見習いですか、母上。」
「えぇ。」
ロザリオ侯爵邸に遠路はるばる訪れたユリアはアルクエイドにマリアンヌに続いて、貴族の令嬢を行儀見習いとして雇うよう通達してきたのである
「一応、尋ねますが家共々、問題ではありませんよね?」
「随分と心配性ね。」
「当たり前ですよ、ヌーヴェル男爵家の問題がありましたからね。」
「それは貴方が首を突っ込んだから問題になったんでしょう?」
「問題ありの案件を持ってきたのは他ならぬ母上ですよ。」
「まぁ~、口だけは達者になったわね。」
「褒め言葉として受け取っておきます・・・・それで問題ないのですよね?」
「私はその家の当主から口添えをしてほしいと頼まれただけであって雇うかどうか貴方次第よ。」
「そうやって人に押し付けるだから。」
「はいはい、それは悪うございました。はい、これ。」
反省ゼロの謝罪をするユリアから紹介状を渡してきた。アルクエイドはそれを受け取り、内容を拝読した
「(オルビア伯爵家・・・・)」
オルビア伯爵家は古くからガルグマク王国に仕える貴族の家である。領地経営も卒なくこなしており、そこの当主は冷徹な人物だと聞いている。行儀見習いとして雇ってほしいのはアン・オルビアという今年で16歳になる娘である
「アン・オルビア・・・・母上、このご令嬢に婚約者は?」
「いないわよ。」
「・・・・気になるのは母親について書かれていませんが・・・・」
「詳しい事は教えてくれなかったけど、恐らくは侍女か平民との間に生まれた子供じゃないかしらね。」
「・・・・成る程、愛人の子ですか。」
「それでどうするの?」
「取り敢えず調べて見ますよ。」
アルクエイドはジュードに命じてオルビア伯爵家の私生活について調べさせた。隠密の知らせによるとアン・オルビアはオルビア伯爵家当主のエドワード・オルビア【年齢52歳、身長176cm、色白の肌、栗色の短髪、鳶色の目、眼鏡、彫りの深い精悍な顔立ち、世間体を重んじる冷徹な男】と侍女(アンの母親、故人)との間に生まれた私生児であり、家では愛人の子供という事で世間には出さず日陰の生活を送っている。また愛人の子供という事で冷遇されており、行儀見習いという名の厄介払いをしたくてウチに押し付けたそうだ
「まぁ、会うだけ会ってみるか。」
後日、対面する旨をオルビア伯爵家に送るのであった




