第五十五話:ジオルドの暴走【3】
ゴルテア侯爵邸近くにて1人の男が姿を現した
「また、ここへ来てしまった。」
サンドラ王国第3王子のジオルド・サンドラが疲労困憊の状態でやってきた。今でも逃亡を続けた結果、空腹に襲われ、どうすべきか考えていると目の前には一度訪問したゴルテア侯爵邸であった
「ここで食事を頂く他はない。」
ジオルドはゴルテア侯爵邸に近付くのであった
「(やはり気になるな。)」
アルクエイドはゴルテア侯爵一家と共に夕食を頂いていた。ジュードにはゴルテア侯爵邸にて夕食を頂く旨を従者に命じて伝えさせたが、モヤモヤした感覚が未だに拭いきれていなかった
「閣下、どうされたのですか?」
アルクエイドの様子に不審を抱いたアシュリーが声をかけてきた
「ん、あぁ、いいえ。少しばかり考え事をしていたもので・・・・」
「そうでしたか、料理がお口に合わないかと思いました。」
「御心配かけて申し訳ない。」
「アシュリー、ロザリオ侯爵殿はサンドラ王国使節団、特にジオルド殿下の事をお考えなのだ。ジオルド殿下はお前にご執心だったからな。」
アルクエイドの考えている事を察したのか、クリフはアシュリーの説明をした。アシュリーはパーティーでのジオルド第3王子が自分にプロポーズした事を思い出した。あの時はアルクエイドが庇ってくれたおかげで難を逃れ、今はアルクエイドの庇護下の下にいるのである。クリフの説明を聞いたアシュリーは「そうなのですか」と尋ねた
「えぇ、御父上の仰る通り、ジオルド殿下の事を考えておりました。パーティーで見せた常軌を逸した御振る舞い、更にアシュリー嬢に会いたいがためにゴルテア侯爵邸に参った事、次にどのような行動をするか予測が出来ませんからね。」
「そうだったのですか・・・・申し訳ございません、このような事に閣下を巻き込んでしまって・・・・」
「お気になさらないで下さい。私が勝手にアシュリー嬢を狙う毒牙から守っているだけですよ。」
「閣下・・・・」
2人だけの世界に入り浸るアルクエイドとアシュリーにクリフとエリナとレオンは苦笑いを浮かべた。すると1人の執事が困った表情を浮かべながらクリフに話し掛けた
「旦那様。」
「ん、如何した?」
「はい、ジオルド殿下が参りました。」
ジオルドが訪問してきたと知らせが届いた瞬間、その場にいた者たちの背筋がぞくっとした
「アシュリー嬢を隠しましょう!」
すぐさまアルクエイドはアシュリーを別室に避難させようとした。エリナが「私の部屋に避難させましょう」とアシュリーを連れていこうとした瞬間、アルクエイドは「しばし、御待ちを」とエリナを制した後、マリアンヌを呼んだ。呼ばれたマリアンヌは「何でございましょう」と構えると、アルクエイドは「アシュリー嬢の側にいろ、外には絶対に出すな」と命じたのである
「閣下。」
「アシュリー嬢、後は私たちに任せて。」
「・・・・はい。」
「ではお願いいたします。」
「えぇ、さあ、アシュリー。」
アシュリーはエリナとマリアンヌと共に別室へと避難させた後、アルクエイドは側に控えていた隠密を使い、警備隊に知らせるよう命じた。その後、クリフとレオンと共にジオルドの下へ向かった。アシュリーはエリナとマリアンヌと一緒にの部屋に入った
「アシュリー、後は旦那様たちに任せてここにいなさい。」
「お、お母様は?」
「私はジオルド殿下が屋敷に入らぬよう侍女と執事と共に待ち構えているわ。」
そういうとエリナは護身用に置かれていた剣を持った
「アシュリー、ここで待っていなさい。マリアンヌ嬢、娘を宜しくね。」
「承知しました。」
「お母様。」
エリナが出ていった後、部屋に残ったのはアシュリーとマリアンヌだけとなった。不安にかられるアシュリーにマリアンヌが励ました
「アシュリー様、心配いりません。旦那様ならきっと上手く立ち回ります。」
「・・・・マリアンヌ嬢。」
「私もかつて元婚約者とその実家からの執拗な嫌がらせがありましたが旦那様が間に立ったおかげで私は今日までやっていけました。アシュリー様も旦那様を信じましょう。」
「マリアンヌ嬢・・・・ありがとう。」
「アシュリー様、御礼を申されるのは早うございます。」
「そうですわね。」
アシュリーとマリアンヌは静かに吉報を待ち続けるのであった
「(あ、あの男!何故、ここにいる!)」
ジオルドはゴルテア侯爵邸門前にて腹拵えをしようと待っていた。ふと玄関口に目をやるとそこにはゴルテア侯爵家の当主のクリフ・ゴルテア、その息子のレオン・ゴルテア、そしてアシュリーの婚約者であり【目の上のたんこぶ】とも言える存在のアルクエイド・ロザリンドが姿を現した
「これはジオルド殿下、当家に何用にございましょうか?」
「うむ、貴公の家の料理を頂きに参ったのだ。」
「殿下、申し訳ございません。生憎、食材は朝の分以外、残っていないのですよ。」
「なっ!う、嘘をつくとためにならないぞ!」
「息子の言う通りです、料理は我等と使用人たちで全て頂いたので用意出来ませぬ。悪いことは申しませぬ、どうかお引き取りください。」
クリフとレオンは料理も食べ終わり食材も朝の分しか残っていない事を告げ、宿舎へ戻るよう告げたがジオルドは頑として帰らなかった
「朝の分の食材があるのだろう、だったらそれで料理を作れ。」
「ふん、分からぬ御方だ。」
「何!」
アルクエイドから馬鹿にされたと思ったジオルドは思わず声を荒らげた
「ジオルド殿下、貴方は報連相の重要性を御存じか?貴方は突然、お越しになられ料理を要求した。そのような事を仰られても無いものは無いのですよ。」
「だったら何故、貴様がここにいる!」
「何故って、食事会に招待されたのですよ。それ以外、何があると仰るので?」
アルクエイドはそう言うと、ジオルドは歯軋りしていた。ふとアルクエイドはある事に気付いた
「そういえばジオルド殿下御一人ですか?御側近の方々は?」
アルクエイドが尋ねるとジオルドの表情が曇った。これは何かあるなと思い、アルクエイドは続けざまに尋ねた
「仮にも貴方様はサンドラ王国の第3王子の御立場なのですから警備はつけないと。」
「う、煩い!貴様には関係のない事だろう!」
「仰る通り、私には何の関係もございますが御一人で行動されるのは、あまり宜しくありませんな。もし宜しければ私の従者を付けて宿舎まで御送り致しましょう。」
「それは良い、私の従者も共にジオルド殿下の身辺の警護に回しましょう。」
アルクエイドとクリフは自分たちの従者をつけて宿舎まで送っていこうと話を進めているとジオルドは誰が見ても可笑しくないくらい表情が青褪め、冷や汗をかき始めた
「では殿下、宿舎まで御送り致しましょう。」
「む、無用だ!」
「・・・・無用とは?」
「無用と言ったら、無用なんだ!」
「ちょっと、宜しいですか?」
「何だ!私に声をかけるとは無礼だぞ!」
「どうも、警備隊です♪」
「ア、アイエエエ、ケ、ケイビタイ!?ケイビタイナンデェ!」
アルクエイドと無駄な問答をしている間に、警備隊が駆け付けた。ジオルドは何でここに警備隊がやってきたのか分からず戸惑っていた。戸惑うジオルドにアルクエイドが種明かしをした
「実はですね、万が一の事を考えて警備隊を呼んだのですよ。良かったですね、これで宿舎に戻れますよ♪」
警備隊を呼んだのがアルクエイドだと知ったジオルドは激高しアルクエイドに食いかかった
「貴様の仕業か!どこまで私の邪魔をすれば気が済むんだ!」
「貴方様が勝手に撒いた種でございましょう?私に責任転嫁するのは辞めて貰えませんか?」
「黙れ!黙れ!やはり貴様はここで殺す!」
ジオルドは仕込みナイフを取り出し、アルクエイドに向けて投げつけた。しかしナイフはアルクエイドの下に届かず、そのまま地面にストンと落ちた。警備隊はすぐにジオルドを取り押さえようとしたがジオルドは暴れ続けた
「離せ!無礼者!」
ジオルドは暴れ続けたが多勢に無勢、警備隊に取り押さえられ、そのまま連行されていった。その様子を見たアルクエイドたちはホッと息をついた
「一件落着ですね。」
「一時はどうなる事かと思った。」
「まさかナイフを取り出すとは思いませんでした。」
「終わりましたので?」
そこへ武装したエリナと侍女と執事たちが3人を出迎えた。武装した姿で出迎えた事に対し、クリフは真っ先にエリナに問い詰めた
「エリナ、その格好は!」
「もしもの事を考えての行動ですが、それが何か?」
「そなた仮にも貴族の妻ならな・・・・」
クリフが説教を開始しようとした瞬間、アルクエイドが待ったをかけた
「まあまあ宜しいではございませんか、寧ろ頼もしく存じます。」
「ほら、ロザリオ侯爵閣下もこう仰っているのですから♪」
「父上、非常事態だったのですから仕方ありませんよ。」
「う、ううん。まぁ、仕方がないか・・・・」
クリフは納得はしていないものの周囲に説得され渋々、了承せざるを得なかった
「さて、アシュリー嬢に会いに・・・・」
「閣下!」
「旦那様!」
そこへアシュリーとマリアンヌが姿を現した。侍女が知らせてくれたようで2人はアルクエイドの下へ駆け付けた
「閣下、お怪我は?」
「ご心配なく、この通り元気ですよ♪」
「良かった・・・・」
「私の申された通りにございましょう。」
「えぇ。」
「何の話?」
「「内緒です(わ)♪」」
「そう(まぁ、いいか。先程のモヤモヤした感覚も消えたし、めでたし、めでたしだわ。)」
ゴルテア侯爵邸にて起こった騒動はこうして終わりを迎えたのであった




