第五十四話:ジオルドの暴走【2】
「今日のお出掛けは楽しかったですね。」
「えぇ。」
アルクエイドとアシュリーは乗馬コースにて馬に乗ってのんびり散歩をしていた。太陽も傾き、空がすっかり夕焼けになり、そろそろ帰る準備を始めた
「(ん、何だろう、この胸騒ぎは?)」
帰る準備を進めていくと、ふとモヤモヤとした感覚に襲われた。アルクエイドは何か違和感を感じ、屋敷に戻るのが億劫になり始めたのである
「(う~ん、このまま真っ直ぐ帰らない方がいいわね。)」
「閣下、どうされたのですか?」
「ん、いや・・・・そうだ、アシュリー嬢、久し振りにゴルテア侯爵邸に顔を出してみるのは?」
「えっ、宜しいのですか。」
「えぇ、先方もアシュリー嬢の事が心配でしょうね。御元気な姿を見せて安心させてあげるのが宜しいのでしょう。」
「ありがとうございます!」
アシュリーは久し振りに実家に行ける事に心から感謝した。1週間もロザリオ侯爵邸に匿われてからもやはり実家の両親や兄の事が心配だったのでアルクエイドからの申し出が有り難かった。アルクエイドはというとゴルテア侯爵邸に行くと宣言した途端にモヤモヤとした感覚が嘘のようにスッと消えた事で言って正解だったと確信したのである
「その前に先方に知らせないとな。」
アルクエイドは、まずゴルテア侯爵邸に護衛の騎士1人を向かわせ、アシュリーと共に尋ねる旨を伝えるよう命じた
「では頼んだぞ。」
「ははっ!」
先に騎士を行かせた後、アルクエイドとアシュリーは帰る準備を進めるのであった
「あれがロザリオ侯爵邸か。」
ロザリオ侯爵邸近くにてジオルドが潜んでいた。アルクエイドに復讐するべく制止を振り切って、乗り込んできたのである。堂々と突撃するという手もあるが、あえて親交を求めるという手もある。仮にもサンドラ王国から来た王子であれば向こうも無下には出来ないだろうと考え、堂々と尋ねた
「誰かおるか。」
すると2人の庭師の男がジオルドに気付き、話し掛けた
「何だい、あんたは?」
「私はサンドラ王国第3王子のジオルドだ。ロザリオ侯爵がおられるか?もし、おられるなら門を開けてほしい。」
ジオルドと名乗り、門を開けるよう伝えた途端、庭師が訝しんだ。王子ともあれば護衛の1人や2人がいてもおかしくないのに1人しかいないのが不自然と思い問い掛けた
「失礼を承知で尋ねるが・・・・本当か?」
「ほ、本人だと言っているだろう!」
「・・・・怪しいな。」
庭師たちから疑いの目を向けられた途端、ジオルドは焦り始めた
「な、何を怪しむんだ!」
「だって、護衛を連れていないじゃないか。仮にあんたが王子様なら1人で来るのはおかしいだろう。」
「そうだよ、ウチの旦那様でさえ護衛のために従者を連れていくんだ。あんたは誰1人連れていないのが不自然だ。」
「くっ。」
護衛がいない事を尋ねるとジオルドは何も言えなかった。側近をナイフで刺し、アルクエイドを亡き者しようとしている事は口が裂けても言えなかった。その後も庭師2人と無駄な問答を続けているとそこへジュードが駆け付けた
「何をしているのだ?」
「ああ、ジュード様。この者が旦那様に会わせろって聞かないんですよ。」
「ん、どなた様ですか?」
「わ、私はサンドラ王国第3王子のジオルドだ!」
「・・・・ああ、アシュリー・ゴルテア侯爵令嬢様に横恋慕をして歓迎パーティーをめちゃくちゃにした御方にございますか。」
「なっ、無礼であろう!」
「事実でございましょう。」
図星をつかれて激高するジオルドを余所にジュードは冷静に対処をした。ジオルドは「ロザリオ侯爵に会わせろ」と詰め寄ったがジュードは「お断りします、旦那様の許可なしに会わせるわけにはいきません」と丁重に断り続けた
「私はサンドラ王国第3王子だぞ!」
「同盟を結んでいない国の御方を入れるわけには参りません。これ以上、騒ぎ立てるなら実力行使に出ますぞ。」
実力行使という言葉に反応したジオルドは「覚えてろ!」と捨て台詞を吐き、そのまま逃走した
「すぐに警備隊に連絡せよ。サンドラ王国第3王子を名乗る賊が屋敷に侵入をしてきたとな。」
一方、アルクエイドとアシュリーはゴルテア侯爵邸に訪れていた。アシュリーは両親と兄の再会を喜び、クリフとエリナとレオンは久し振りの娘(妹)の元気を姿を見て安心した
「お父様、お母様、お兄様、お久しゅうございます!」
「アシュリー、元気にしていたか!」
「はい、おかげ様で。」
「このような姿で外出するほど苦労したのね。」
「これもサンドラ王国の使節団の目を眩ませるためですわ。それに慣れれば違和感ありませんわ。」
「お前が男装するとはな・・・・」
「お兄様も試しに女装されては如何ですか?」
「いや、辞めとくわ。」
その様子を見ていたアルクエイドはホッとした心地であった。ずっと張り詰めていた緊張感が解放されたのかアシュリーが笑顔で家族との再会を喜びあっている姿に内心、申し訳ないという気持ちもあった。クリフはアルクエイドの下へ向かい、アシュリーを匿ってくれた事への礼を述べた
「ロザリオ侯爵殿、娘の事で色々と御迷惑をおかけしました、礼を申しますぞ。」
「ゴルテア侯爵閣下、御礼を言うのはまだ早うございます。現にサンドラ王国の使節団は王都に滞在中なのですから。」
「うむ、ジオルド殿下が我が屋敷に訪れた際もアシュリーへの執着心の凄まじさに唯々、閉口致した。」
「そうでしたか、それでジオルド殿下には何と?」
「あぁ、ロザリオ侯爵殿の提案に従い、アシュリーは領地へ返したと伝えた。」
「それで宜しゅうございます。」
「閣下!」
クリフと話をしているとアシュリーが話し掛けてきた
「どうされたのですか、アシュリー嬢。」
「はい、夕食を御一緒にどうでしょうか?」
アシュリーの口から夕食をどうかと誘われた。アシュリーだけではなくクリフやエリナなレオンからも娘(妹)を匿ってくれた御礼をしたいと懇願されたので有り難く受ける事にした
「では御言葉に甘えて御相伴に預かりましょう。」
「ありがとうございます、閣下!」
アルクエイドはゴルテア侯爵一家と共に夕食を頂く事になった瞬間、例のモヤモヤとした感覚に襲った。アルクエイドは「(あれ、やらかしちゃった・・・・私)」と思いつつも断るわけにはいかず、夕食を共にするのであった




