第四十五話:愚王子の暴走【1】
ある日の事、アルクエイドは王宮に参内していた。国王グレゴリーに拝謁をした後、国王の命である人物と会っていた
「して何用で私を御呼びに?」
アルクエイドの目の前にいる男の名はヘルゼン・ゴルティエ【年齢45歳、身長179cm、色白の肌、碧眼、オレンジがかった赤い短髪、眼鏡、彫りの深い端整だが神経質な顔立ち、ゴルティエ侯爵当主】侯爵、ガルグマク王国の財務大臣を務める切れ者である
「ロザリオ侯爵殿、貴殿も御存じの通り、先のサルマン王国討伐の件で我等は幾つかの鉱山を得た事を。」
「勿論。金、銀、銅、鉄、錫の鉱石が枯渇した鉱山を我等の物にするという条件で手に入れましたがそれが何か?」
「うむ、実はな。その鉱山から無尽蔵の瑪瑙、琥珀、翡翠、水晶が発掘されたのだ。」
「おお、天然物の宝石ですな。」
「まさにその通りだ。」
「して私を呼んだということは発掘資金の件ですか?」
「流石はロザリオ侯爵殿、その通りだ。」
呼ばれた理由は発掘資金の捻出である。ガルグマク王国有数の資産家であり王国に商売の売上の4割を献上しているアルクエイドに白羽の矢が立ったのである
「・・・・して見返りは?」
「陛下より貴殿に鉱業権(試掘権&採掘権)を与えられ、取り分の2割を与えるとの事だ。」
鉱業権を与えるだけではなく取り分の2割をアルクエイドに与える。残りの8割は王国と平民が得る寸法である
「・・・・念のために陛下御墨付きの証文を頂きとうございます。」
「・・・・抜け目のない御方だ。」
その後、国王より玉璽の押された証文がアルクエイドの下へ届けられた。証文を確認したアルクエイドはすぐさま、多額の資金を捻出し王国に献上してから1週間後にロザリオ侯爵家に仕える鉱夫たちを現地に派遣したのである。ロザリオ侯爵邸にて事の成り行きを見守るアルクエイドはジュードからの報告を受けていた
「旦那様、鉱夫たちは無事に現地に到着し発掘作業に取り掛かっているとの事にございます。」
「うむ、御苦労。」
「旦那様、無事に元手が返せるといいですな。」
「まあ、献上した発掘資金も私からしたら、はした金だけどね。」
「はした金でも金は金でございますよ。」
「分かってるわ、それくらい。はした金の分の元手はしっかり確保しないとな。」
発掘から1週間が経った頃、ロザリオ侯爵家が担当する鉱山に大量の瑪瑙、琥珀、翡翠、水晶が発掘され、それを売買し元手以上の利益を獲得する事に成功したのである
「旦那様!元手は取り戻し、しかもそれ以上の利益を獲得する事が出来ましたな!」
「ああ、元手さえ取り戻せば後は王国に鉱山と鉱業権を返上しよう。」
「え、宜しいのですか?」
「ああ、これ以上やれば警戒される。私の勘がそう告げているのよ。」
「畏まりました。」
その後、アルクエイドは元手以上の利益を取り戻した後、国王グレゴリーに拝謁し賜った鉱山と鉱業権を返上する旨を伝えた
「良いのか、鉱山と鉱業権を手放しても?」
「はい、元手以上の利益を得る事ができましたので後は陛下に返上致します。」
「そうか。そなたはほとほと欲がないな。」
「畏れ入ります。」
アルクエイドが国王より賜った鉱山と鉱業権を返上した事はすぐさま社交界に広まった。貴族のお歴々の間では「ロザリオ侯爵は上手い事、立ち回っている」や「出る杭が打たれる事を熟知している」や「立つ鳥跡を濁さず」や「引き際をしっかりと見極めている」等、誰もがアルクエイドの政治手腕を褒め称えた。その事を教えたのは婚約者のアシュリーである
「閣下は引き際は見事だと父だけではなく他のお歴々の方々も申しておりました。」
「それは流石に褒めすぎですね。元手以上の利益を獲得する事ができたから手放しただけなのに。」
「陛下から賜った鉱山と鉱業権を容易く手放すなんてなかなか出来ませんわ。」
「妬み嫉みは世の常、あまり欲張りすぎるれば身を滅ぼしますからね。」
一方、アルクエイドが鉱山と鉱業権を返上した事で王家の間でも話題となった。テラスにて御茶会をしていた国王一行「国王グレゴリー、王妃レティーシア、王太子グラン、王太子の婚約者のレミリア、第2王子のグドン・ガルグマク【年齢17歳、身長176㎝、色白の肌、碧眼、肩まで伸びた金髪、彫りの深い気品漂う端整かつ柔和な顔立ち、成金貴族が大嫌い、正義感は強いが頑固で独りよがり】」である
「陛下、ロザリオ侯爵が鉱山と鉱業権を返上した事が社交界の話題になってますわ。」
「であろうな。普通なら鉱山の利益を享受できるというのに目的が達成されれば、あっさりと返上する。並みの人間ができる事ではない。」
「父上、それはあまりにも褒めすぎです!彼の者に騙されてはいけません!」
真っ先に意見をしたのは第2王子のグドンである。グドンは成金貴族が大嫌いで特にアルクエイド・ロザリオは目の敵にしている
「はあ~、またか。」
兄であるグランは溜め息をつき、呆れながら見ていた。レミリアは顔にこそ出さないがやれやれとグドンを見ていた。同様に国王グレゴリーや王妃レティーシアも頑迷な息子の戯言に耳を貸さなかった
「お前の意見は聞いてはおらん。」
「いいえ、父上!このまま成金貴族たちにいいようにされて良いのですか!奴等こそ国を脅かす存在です!特にアルクエイド・ロザリオは父上の寵愛を良い事に好き勝手やっています!」
「彼の者は貴族としての義務を果たし、自主的に商売の売り上げの4割を献上したおかげで財政を潤し、国に報いているのだぞ。」
「そんな汚い金を貰って父上は満足なのですか!」
「グドンよ、我等は民の税によって暮らしている。我々が来ているこの服も民の税によって得たものだ。我等は彼らの労に報いるために責務を果たしている。お前の着ている装束もロザリオ侯爵が献上した金で作られたのだぞ。」
「し、しかし!」
「はあ~。」
グレゴリーは第2王子グドンの頑迷さに頭を抱えていた。息子たちには人として正しい事や王家としての責務を徹底的に教育を施した。結果、王太子グランは聡明で視野の広い人格者に成長したが、第2王子のグドンは正義感は強いが極度に保守的かつ頑固、視野が狭い独りよがりな人間に成り下がってしまったと後悔していた
「グドンよ、お前を幽閉する。」
「な、何故ですか!」
「当たり前だろう。お前のような馬鹿息子は一度、自分を見つめなおす必要があるな、連れていけ!」
「お、お待ちください、父上!母上、兄上、レミリア嬢、助けてくれ!」
近衛兵によってグドンは連れていかれた。グドンはひたすら4人に助けを求めたが、連れていかれる息子(弟・義弟予定)を呆れながら見送った。グドンはそのまま問題のある王族の入る北の牢獄に幽閉されたのである。御茶会は中止となり自室に戻ったグレゴリーとレティーシアは愚息の頑迷さにほとほと参っていた
「はぁ~、あの者が国王にでもなったら国は終わりだ。」
「・・・・陛下。」
「場合によっては王籍から排除せねばならぬな。」
「陛下、そのような事したらあの子は何を仕出かすか分かりませぬよ。」
「分かっておる、その前に手足をもぎ取らねばな。」
グドンが幽閉されている間に、グレゴリーはグドンの教育係と守役と乳母、取り巻きの騎士と側近たちを解任、更にグドンの婚約者も慰謝料付きで実家に返した事でグドンは丸裸同然となったのであった。この事はすぐさま社交界にも広まり、「あの王子ならやりかねない」と呆れと嘲笑を浮かべるのであった




