第四十四話:決着
ここは決闘広場、ここにエルマンド子爵家当主のヒルズ・エルマンドとシルフォード男爵家当主のソルト・シルフォードが木剣による決闘が行われる事となった。その決闘に巻き込まれる形でロザリオ侯爵家当主のアルクエイド・ロザリオが立会人として無理矢理参加させられたのである
「では両者、御覚悟は宜しいな?」
「「ええ!」」
「うむ、では始め!」
アルクエイドが合図を送ると両者は木剣を構えた。両者は中段の構えを取った。中段の構えは攻防共に隙が少なく状況に応じて対応できるのであるが長時間構え続けると腕への負担が大きいのがデメリットである。両者は中段の構えを崩さずに移動していき、徐々に近付いていくと互いの木剣が接触し斬り合いが始まった
「やぁ!」
「はぁ!」
互いにシンプルかつ無駄のない動きで木剣をぶつけ合いながら斬りかかる瞬間を狙っていた
「「貰った!」」
ヒルズとソルトは互いに隙を見つけるとすぐさま打ってかかり、互いのカラダにぶつかる寸前でアルクエイドが「それまで!」と待ったをかけた。するとヒルズはソルトの右腕(小手)をソルトはヒルズの喉元(突き)をスレスレで止まった。アルクエイドの目から見て先に接触寸前だったのはヒルズの方であった
「この勝負、エルマンド子爵の勝ち!」
アルクエイドはヒルズの方に軍配が上げた。野次馬たちは「オオオオオ!」と声を上げた
「エルマンド子爵の方が先に1本を取ったがシルフォード男爵も気迫では負けていなかった。両者、見事なり!」
アルクエイドはヒルズに軍配を上げつつ、ソルトに対しても花を持たせる形で決着をつけさせた。本心でいえば2度と決闘騒ぎに巻き込まれたくなかったのでどちらが勝とうがどうでも良かったのが本音である。野次馬たちは2人の勝負に拍手喝采を送った。両者はというと決闘後の疲れと緊張感が解放されたのか、互いに息切れを起こしていた
「「はぁ、はぁ、はぁ!」」
「エルマンド子爵殿、シルフォード男爵殿、両名とも見事な戦いぶりであった。」
アルクエイドや周囲からの称賛の嵐に2人はマリアンヌを巡っての決闘騒ぎがいつの間にか拍手喝采に変わった事で呆気に取られたが不思議と心地好かった
「今回の決闘は負けたが次はマリアンヌ嬢に告白はするからな。」
「望むところだ。」
マリアンヌを巡っての争いな終えていなかったが先程の険悪さが無くなり、ライバル関係を築いたようだ。今のままだったらもアルクエイドはある提案をした
「だったら本人の前で言ってみたらどうであろう?」
「「えっ。」」
ヒルズとソルトはマリアンヌの前で告白するというアルクエイドの発言に驚いたが先程の決闘もあってか覚悟を決め、一緒にロザリオ侯爵邸へ赴いた
「帰ったぞ。」
「「「「「お帰りなさいませ!」」」」」
ヒルズとソルトと共に屋敷へ戻るとジュードたちは出迎えるとアルクエイドはマリアンヌを呼んだ。呼ばれたマリアンヌは事情を察したのか何も言わずに着いていくのであった。アルクエイドの部屋に入るとヒルズとソルトに対して「どちらが破れても恨みっこなしだ、仮に両方断られてもだ」と告げると2人は覚悟を決め、マリアンヌの前に立った
「マリアンヌ嬢、今まで黙っていたが私は貴方を事を一目見てから惚れていました!ビスカ殿の婚約者であった事、その当時は実家の居候という事もあって叶わぬ恋と諦めました。ですがエルマンド子爵家を継いで私にもようやくチャンスを得た気持ちでした。ですが貴方を前にすると告白する勇気が出なかった。でも今は違います、今の私は貴方を幸せにする自信があります。どうか結婚を前提にお付き合いください!」
ヒルズは今まで胸の内に溜まりに溜まっていた思いが吹きだした瞬間であった。ヒルズはエルマンド子爵家を継いだ事や決闘に勝利した事で少々、天狗になっているような発言をしていた。ヒルズが告白した後、今度はソルトがマリアンヌに対し、思いのたけをぶちまけた
「マリアンヌ嬢、私はシルフォード男爵家を継いで実家が生き残るために奔走してきました。必死になって金を作ってきました。しかしその金に身も心も奪われ、いつしか金の亡者となってしまいました。貴方自身の実家の豊富な産物を手に入れるために私は貴方を道具としか見ていませんでした。ですが貴方の言葉で私は自分がいかに傲慢だったか、愚かであったかを気付かされました。私は貴方のような人をずっと探していました。私は貴方を幸せにできるかどうかは分かりませんが全力で向き合います。どうか私と共に来てほしい!」
ソルトは過去の自分と決別し、マリアンヌと共に生きたいという気持ちが沸々と伝わってきた。両者の告白を受けたマリアンヌは静かに近付いた
「こ、こんな私で宜しければ・・・・」
そう言ってマリアンヌが手を差し伸べたのはソルト・シルフォードであった
「マリアンヌ嬢・・・・ありがとう(泣)」
ソルトは涙ながらマリアンヌの手を握り感謝の言葉を述べた。ヒルズはというと呆然とした様子で2人を見ていた。そんなヒルズにアルクエイドは・・・・
「エルマンド子爵殿、少々天狗になっておりましたな。」
「て、天狗に?」
「えぇ、貴殿はマリアンヌを幸せにする自信があると申されたが、そんなものは誰でも言える事だ。この世の中、何があるか分からない。マリアンヌ嬢はその事を痛いほど身に染みているからこそシルフォード男爵を選んだんだ。シルフォード男爵はマリアンヌ嬢の事を必要としてくれる事が理解できたのだから。それに貴殿は知らないと思うがシルフォード男爵はマリアンヌ嬢に対して欠かさず手紙の遣り取りを行っていたからな。そういう忠実なところが惹かれたのであろう。」
アルクエイドにそう言われたヒルズは何も言えなかった。自分はマリアンヌに対して手紙の遣り取りすらしていなかった事に今になって後悔し始めた
「そうですか・・・・私はそれすらしていなかった。彼は本当にマリアンヌ嬢に対して真剣に向き合っていたか嫌でも分かった気がします。」
ヒルズは2人を見てそう実感した。ヒルズは2人に歩み寄り、「おめでとうございます」と御祝いの言葉を述べた。その表情はどこかスッキリしていた
「シルフォード男爵、私に勝ったのですから絶対に彼女を幸せにしてください。もし彼女を泣かせたら私は貴殿を殺す。」
ヒルズの忠告にソルトは神妙な面持ちで「全力で答えます」と返答を返した。ヒルズはマリアンヌに視線を向け「どうか御幸せに」と手向けの言葉を送った。それに対してマリアンヌは「ヒルズ様もどうか御幸せに」と返した
「えぇ。」
ヒルズはそう返答するとアルクエイドに目線を変えて「ロザリオ侯爵閣下、色々と御世話になりました」と深々と頭を下げた
「ヒルズ殿、どのような形でも幸せになる権利はある。勿論、貴殿にもな。」
「・・・・はい!」
その後、シルフォード男爵家とヌーヴェル男爵家との間に婚約が成立した。婚約を仲裁したのはロザリオ侯爵家とエルマンド子爵家である。この婚約にロザリオ侯爵家がシルフォード&ヌーヴェル両家が結び付いた事に社交界では噂になったのは言うまでもなかった
「せっかくの2人の門出に水差すんじゃないわよ、全く。」




