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第四十二話:一目惚れ

「ようこそおいでくだされた・・・・シルフォード男爵殿。」


ロザリオ侯爵邸にてシルフォード男爵家当主のソルト・シルフォード男爵が訪れた。アルクエイドは客間へ通した


「本日はお招きいただきありがとうございます、ロザリオ侯爵閣下。」


「えぇ、本来であれば直接出向いてもよろしいのに、わざわざゴルテア侯爵閣下を介するとは随分と遠回りな事をなさりますね。」


アルクエイドは先日の事もあってシルフォード男爵家に警戒心を抱いており、それに対する嫌みも含めソルトを遠回しになじる。それに対してソルトは・・・・


「滅相もございません。私はただ直接出向いては失礼になると思い、ゴルテア侯爵家に仲介をお願いした真似でございます。」


「ほぉ~、貴殿と縁もゆかりもないゴルテア侯爵家にわざわざ頼むとは、さぞ鼻薬(付け届け)も馬鹿にならなかったでしょうね?」


アルクエイドがそう尋ねるとソルトは笑顔ではあったが図星をつかれて動揺したのか僅かに手が震えていた


「旦那様。」


そこへマリアンヌが訪れると天の助けを得たように満面の笑みを浮かべるソルトにアルクエイドは「こいつ信用できないわ」と肌身で感じ取った


「御初に御目にかかります、マリアンヌ嬢。シルフォード男爵家当主のソルト・シルフォードと申します。」


ソルトがそう言うと立ち上がり、マリアンヌの手の甲にキスをした。マリアンヌはというと突然の事に戸惑っていた


「あ、あのシルフォード男爵閣下、な、何を。」


「シルフォード男爵殿、マリアンヌ嬢が戸惑っている。」


「これは失礼。マリアンヌ嬢の美しい手に惹かれてついキスをしてしまいました。」


「(油断も隙もないわね、こいつ。)」


「だ、旦那様。」


「取り敢えず私の隣に座りなさい、話はそこからだ。」


「は、はい。」


マリアンヌはソファーに座るアルクエイドの隣に座った。役者が揃ったところで縁談について話し合うこととなった


「さてマリアンヌ嬢、この御方は君を妻に迎えたいと申してきたそうだ。」


「・・・・はい。」


「だがシルフォード男爵と君は此度が初対面だ、そうだろう?」


「・・・・はい。」


「さてシルフォード男爵殿、まずはマリアンヌ嬢を妻に迎えたい動機を尋ねたいのだが?」


アルクエイドはソルトを試すように尋ねた。するとソルトは「マリアンヌ嬢を一目見た時から惚れた」と本人を前に堂々と言い放った


「(よくもまぁ、見え透いた嘘をつくものだわ。)」


アルクエイドはソルトに会う前にシルフォード男爵家について事前に調査をしていた。シルフォード男爵家の領地はそれほど広大ではなく大半は漁業と海運業を経済基盤にしている。ソルトは新田開発や領地から取れるもので新たに特産品を作り、それを売って生計を立てていた。ソルトが次に狙いを定めたのはヌーヴェル男爵家である。ヌーヴェル男爵家は海はないが広大な田畑、その土地から生産された豊富な特産品があり是非ともヌーヴェル男爵家と手を結びたいと思っている。そこで目をつけたのはロザリオ侯爵家に行儀見習いとして活動しているマリアンヌである。マリアンヌはヌーヴェル男爵家の令嬢であり、彼女と結婚すればヌーヴェル男爵家の持つ豊富な特産品を手に入れる事ができるのである。その事をマリアンヌにも伝えており、彼女自身は冷静に対応した


「シルフォード男爵閣下、私のどこに一目惚れをしたのですか?」


「一目見た時です。」


「私はシルフォード男爵閣下の事をよくは存じませぬがシルフォード男爵家はそれなりの資産を有している事はよく存じております。それならば他にも良き御方がおられたのでは?」


冷めた目で見るマリアンヌに脈がないと感じたソルトは次のように述べた


「確かに私とマリアンヌ嬢は此度が初対面だ。だがロザリオ侯爵閣下とゴルテア侯爵令嬢のように交流を重ねて愛を育んだ事例もある。私がどれほどマリアンヌ嬢に思い入れがあるか、それだけは分かってほしい。」


「(言うに事欠いて私とアシュリーの名を出すなんて卑怯だわ!)」


マリアンヌはというとソルトの安っぽい台詞に眉一つ動かさず一貫して冷徹な態度を貫いた


「シルフォード男爵閣下、旦那様はアシュリーを1人の女性として見ており殊の外、大切にしております。私には婚約者がおりましたが私の事を何一つ考えず、常に自分の事だけを優先してきました。だからこそ分かります。シルフォード男爵閣下は私には一切興味がないことを。」


マリアンヌは冷徹なほどソルトを見据えていた。ソルトはというと一貫して冷めた目で見るマリアンヌに何とかしようと必死になった


「そ、それは交流してみないと分からないじゃないか!マリアンヌ嬢、私は君を絶対に幸せにして見せる、だから!」


「それが信用できないのです!」


マリアンヌの一喝にソルトは呆気に取られた。マリアンヌは続けて「貴方が欲しいのは我が領地の産物、私はあくまでおまけでしかない」とズバッと言い放ったのである。ソルトは自分が狙っているのを言い当てられ、それ以上言葉が出なかった。2人の遣り取りを見ていたアルクエイドはこれ以上の議論は無駄だと思い、切り上げる事にした


「さて、シルフォード男爵殿。マリアンヌ嬢はこう申している以上、婚約を結ぶ事は不可能となった。これ以上、やると言うなら・・・どうなるか分かってるでしょうね?」


アルクエイドからの警告にシルフォード男爵はすぐさま立ち上がり「では此れにて失礼します」と言い残し、そそくさと帰っていった。ソルトが帰った後、客間に残ったアルクエイドとマリアンヌは微妙な雰囲気が残った


「すまないな、マリアンヌ嬢。このような事に巻き込んでしまって。」


「いいえ、お役に立てて光栄に存じます。」


「・・・・マリアンヌ嬢、これだけは言っておく。マリアンヌ嬢にも幸せになる権利はある、それだけは忘れるな。」


アルクエイドはアシュリーと同様の台詞を吐くとマリアンヌは笑みを浮かべた


「ふふ、旦那様。その台詞、アシュリー様にも申されましたよね?」


マリアンヌにズバッと言われたアルクエイドは罰が悪そうに「茶化すな」と叱りつけた


「・・・・ありがとうございます、旦那様。」


マリアンヌはアルクエイドに向き合い、深々と御辞儀をした


「旦那様が私の事を真剣にお考えくだされた事、身に染みております。どうかその思いをアシュリー様のみにお捧げくださいませ。」


「・・・・愚問だな。」


アルクエイドとマリアンヌはそれ以上、何も言わず通常通りの日常に戻った。それから数日後、再びソルト・シルフォード男爵が来訪した。アルクエイドとマリアンヌは今度は何だと警戒するとソルトは土下座した


「マリアンヌ嬢、何者にもなびかない貴方の姿勢に惚れました!どうか私の妻になってください!」


「「はぁ?」」


ソルトから放たれる嘘偽りのない発言にアルクエイドとマリアンヌは呆気に取られた


「マリアンヌ嬢の申された通り、私は貴方の御領地の産物を目当てにしておりました。ですが貴方の毅然とした対応を目にした時、私の胸が不思議とときめき、四六時中貴方の事だけを考えていました!私にとって初めての恋にございます!マリアンヌ嬢、私は貴方を1人の女性として見ていきます!マリアンヌ嬢もシルフォード男爵としてではなくソルトという1人の男として見てほしいのです!」


ソルトはこれでもかと言うほどの愛の告白にマリアンヌは「え、え!」と困惑していた。アルクエイドは「マリアンヌ嬢が困っているだろう」と注意をした。するとソルトは立ち上がり「今日はそれだけをお伝えしに参りました、此にて失礼します」と返答した後、そのまま帰ってしまった。残されたアルクエイドとマリアンヌは嵐のように去っていくソルトを黙って見るしかなくなかった


「マリアンヌ嬢、あれは本気で惚れているぞ。」


「だ、旦那様、私はどうしたら・・・・」


「向こうは完全にマリアンヌ嬢に首ったけだ。下手に刺激しない方がいいぞ。」


「は、はい。」


それからというもののソルトはマリアンヌに対して花束や贈り物を持って現れるようになった。マリアンヌは「気持ちだけで十分ですので」と花束と贈り物を送り返した日々を贈った。それから数日後・・・・


「ま、まずは御手紙からお願いします。」


「分かりました!」


マリアンヌもソルトの熱意に根負けしたのか、手紙での遣り取りから始まった。ソルトは筆忠実(ふでまめ)なのかマリアンヌへの愛の他に自分の趣味や日常について正直に書き記した。マリアンヌは困惑しつつも手紙を欠かさず行った


「マリアンヌ嬢、今日もシルフォード男爵への返書か?」


「はい。」


「何も真面目にやらなくても良いと思うが?」


「流石にこれだけ真剣な文章で手紙を寄越されると断りにくくて。」


「まぁ、無理はするなよ。」


「はい。」


それからマリアンヌとソルトの手紙を遣り取りは延々と続くのであった




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