第三十四話:恋愛相談
「閣下、兄の事で相談が。」
「レオン令息殿が何か?」
アルクエイドの下へアシュリーが訪ねてきた。アシュリー曰く、兄のレオンが何やら上の空で問い掛けても空返事ばかりだという
「何やら物思いにふけているようで何があったのか皆で尋ねましたが【何でもない】との一点張りで。」
「家族にも言えない事か。」
「はい。」
「・・・・もしかしたら女性絡みかもしれない。」
「え、それはどういう事ですか?」
「失礼だとは思いますがレオン令息殿は婚約者が未だにおられぬ。御家の事情も御座いますれば婚約者はすぐには決められないのは分かります。ですが女性に対する耐性がない令息殿がどこぞの女性に惑わされでもすれば一大事ですね。」
「つ、つまりお兄様はどこぞの女性に現を抜かしていると?」
「あくまで私の推測であって本当かどうかは分かりませんが。まぁ、隠密をつけて探って見るのがよろしいのでしょう。」
「は、はい。」
それから数日が経った頃、今度はレオン・ゴルテア本人がロザリオ侯爵邸を訪れた
「これはレオン令息殿、如何されたのですか?」
「突然、押し掛けてしまい申し訳ありません、ロザリオ侯爵閣下。」
「・・・・何かお悩みでもおありか?」
アルクエイドが尋ねるとレオンの表情が固まり、肩がピクッとなった。アシュリーのいう通り、何かあったなと感じたアルクエイドは警戒されないよう優しく問い掛けた
「令息殿、もし悩みや心配事がおありなら私はいつでも相談に乗りますよ。我等はいずれ身内になる間柄なのですから。」
「・・・・ロザリオ侯爵閣下、実は。」
レオンは意を決して語りかけた。レオンはある令嬢に恋をしたそうだ。レオン曰く、国立自然公園の乗馬コースにいたところ、偶然居合わせた貴族の令嬢に見惚れたという
「因みにその御方はどこの御家の御令嬢なのですか?」
「・・・・くしゃくけです。」
「ん、申し訳ないが少し声を大きくして貰えませんか?」
「ナミリヤ伯爵家です。」
ナミリヤ伯爵家の名を聞いたアルクエイドは呆気に取られた
「(ナミリヤ伯爵家って、私の親戚筋の家じゃないか、しかも絶縁状態の!)」
ナミリヤ伯爵家とはロザリオ侯爵家(元ロザリオ伯爵家)の親戚筋(絶縁状態)の家柄である。アルクエイドもまさかナミリヤ伯爵家の令嬢に恋心を抱くレオンに複雑な思いを抱いた
「(あそこの前当主は信用できないし、何よりムカついたな。)」
過去に遡るとアルクエイドがロザリオ伯爵家(後に侯爵家)の当主になってから商売を始めた。その事に馬鹿にする連中の中にナミリヤ伯爵家も含まれていた。特にナミリヤ伯爵家の当主(後の前当主)】は「商売とはロザリオ伯爵家も堕ちたものだ」とあからさまに罵倒してくれた事は今でも覚えている。アルクエイドはこの事を忘れずに商売に邁進した
「(後で絶対に後悔させてやるんだから!)」
その後、商売が大成功した事で今まで馬鹿にしてきた連中が掌を返すように媚びを売ってきた。その中にはナミリヤ伯爵家も含まれており、前当主自らが多くの付け届けを持参して訪ねてきたのは言うまでもない。今までの鬱憤もあったから、アルクエイドは前当主に対して「墜ちた家と今でも交流を続けたいのですか」と告げると前当主は顔から湯気が出るのではないかと思うくらい顔を真っ赤にさせ黙りこくったのは今でも覚えていた
「(あの時の顔は見ててスカッとしたわ、ざまあみろってんだwwwww)」
その後、アルクエイドを馬鹿にしてきた連中とは絶縁という名で距離を置いた。勿論、絶縁の理由等もガルグマク王国中に広めた。それが影響からか連中は誰の目から見ても分かるくらい落ちぶれ始めた。良くて貧乏暮らし、悪くて没落する等、影響は凄まじかった。ナミリヤ伯爵家も運よく家は残ったが貴族とは名ばかりの貧乏暮らしの真っただ中であり、王宮の夜会で会ってもナミリヤ伯爵家前当主は気まずそうにそそくさとその場を去る事もあった。前当主の妻は愛人の男と一緒に金目をものを根こそぎ奪い取り、そのまま駆け落ちした。その後の当主は精神を病み、息子に家督を譲って隠居、今は精神病院に通う日々を送っているのだとか・・・・
「(まあ、それはそれで置いといてどうすべきか。)」
「ロザリオ侯爵閣下、どうすればいいでしょうか?」
「・・・・まずは御父上に相談されては如何か。」
「父上にですか?」
「ええ、まずその令嬢に婚約者がいるかどうか、相手の家の状況を調べた上で判断された方がよろしいでしょう。」
「・・・・はい、そのようにします。」
「(流石に私怨で結婚に反対するわけにはいかないからな。まずは現実を見せた方が良さそうね。)」
ロザリオ侯爵邸を出たレオンはゴルテア侯爵邸に帰宅し、両親にナミリア伯爵家の令嬢の事を伝えるとクリフとエリナは目をギョッとさせた
「レオン・・・・お前、正気か。」
「え、ええ。」
「レオン。貴方、自分が何を言っているのか分かっているの!」
「は、母上!」
突然、母から叱られるとは思ってもいなかったようでレオンは呆気に取られた。クリフは溜め息をついた後、ナミリヤ伯爵家について教えてくれた
「レオンよ、ナミリヤ伯爵家はな、ロザリオ侯爵家とは絶縁状態だ。」
「ぜ、絶縁!」
レオンはロザリオ侯爵家とナミリヤ伯爵家が絶縁状態であったことを初めて知ったのである。クリフは両家が絶縁に至った経緯を説明してくれた
「(まさか、そんな事が・・・・)」
話を聞いていたレオンの表情は青ざめ、途中で冷や汗をかきはじめ、体がブルブルと震えた
「レオンよ、お前がもしナミリヤ伯爵家の令嬢と一緒になりたいと思うのであれば、ロザリオ侯爵家を敵に回す覚悟があるという事だな。」
「ま、待ってください!ロザリオ侯爵閣下はそのような事は一切申されませんでした!」
「それは貴方がその令嬢に想いを寄せていると知って言いづらかったのよ!」
「うう。」
「どちらにしろ、ナミリヤ伯爵家の令嬢の事は諦めねばならぬぞ、レオン。せっかくアシュリーがロザリオ侯爵家との橋渡しを立派に務めているというのにお前の件で潰されては敵わないからな。」
レオンは想いを寄せる相手がアルクエイドと絶縁状態の家の令嬢だと知り、愕然とした。アルクエイドが父に相談するよう告げたのはこういう事だったのかと思い知らされたレオンは・・・・
「(閣下、貴方って人は・・・・)」
「レオン!」
「は、はい!」
「話を聞いているのか!」
「は、はい!」
「レオンよ、ナミリヤ伯爵家のした事は明らかに自業自得だ。ロザリオ侯爵殿のなされる事に彼の家はあからさまに罵倒したのだからな、それに罵倒したにも関わらず何事もなかったかのように媚びを売ってきたのだ。私も侯爵殿と同じお立場であれば同じ事をするわ。」
「は、はい。」
「はぁ~、私は後悔している。家の事情でお前の婚約者がなかなか見つけられなかった事をな。」
「ち、父上。」
「レオンよ、お前がもしナミリヤ伯爵家の令嬢と一緒になりたいと言うなら私はお前と絶縁する。」
「ぜ、絶縁!」
「当たり前だろ、ロザリオ侯爵殿とアシュリーの婚約を台無しにしたくないんだ。それともお前は2人の歩む未来を潰したいのか。」
「そ、そんなつもりは・・・・」
「それにこの婚約は我等から申し込んだものだ。お前も知っているだろう、ロザリオ侯爵殿と婚約を交わした家の末路を。」
アルクエイドの元婚約者の駆け落ちが原因で元婚約者の実家は社交界から敬遠され、最期は一家心中した事をレオンは思い出した
「レオンよ、お前の婚約者はすぐにでも見つける。勿論、ロザリオ侯爵殿と親交のある家だ。」
父によって婚約者が決められる事でレオンの初恋はあっという間に崩れ去ったのである




