第三十一話:夜会4回目(前編)
「来客中にも関わらず、突然お尋ねして申し訳ありません。」
アシュリーとの逢瀬を邪魔した目の前の男にアルクエイドは無表情を貫きつつも内心は憎悪に近い感情で占められたが何とか理性だけで抑えつけた
「それで何用で参られたのだ?」
「はい、お恥ずかしながら私は独り身にございまして未だ相手がおりません。」
「・・・・それと私と何の関係があるというのだ?」
「はい、閣下にお願いしたき事がございまして。」
「願いとな?」
「はい、是非とも閣下のお力添えで資金繰りに困っている貴族の家、特に若く美しい御令嬢のいる御方を紹介してほしいのですが。」
フロイスの物言いにアルクエイドはカチンと来た。それほど親しい間柄でもないのに突然、「若く美しい令嬢の世話をしろ」というあまりにも無礼極まりない発言に癇に触ったのである
「ほぉ~、1度会っただけの関係なのに願いとは、随分と度胸がありますな。(馴れ馴れしいわ、無礼者。)」
アルクエイドから放たれた言葉の真意に気付かず、好印象を得たと勘違いしたフロイスは意気揚々と再び高価な菓子折りの箱を差し出した
「気持ちの品をこの通り、持参しております。成功の暁にはそれ相応の品々を献上しましょう♪」
「・・・・ポナパルド男爵、1つ教えてしんぜよう。気持ちの品というものはそう何度も出すものではないのだよ。それこそ貴族としての品格を貶めるようなものだ。まぁ、貴族になりたての貴殿には分からぬのも当然であろうな。」
アルクエイドの発言にフロイスは顔を真っ赤にさせ、そそくさと菓子折りの箱を仕舞った
「それともう1つ、あまり欲張らない方がいい。二兎追うもの一兎も得ずという諺もある。貴殿が妙齢で見目麗しい御令嬢を望んでいると聞くがそれが叶うほど貴族社会は甘くはない。新参者らしく節度を保った方が長続きするものだ。」
アルクエイドは分かりやすく忠告するとフロイスは恥ずかしさで体をブルブルと震わせた
「それと貴殿の頼みだが引き受けるわけにはいかない。私とて貴族の端くれ、付き合いのあるお歴々を裏切るわけにはいかないのだよ。」
アルクエイドから拒絶されたフロイスはというと最後にアルクエイドを睨み付け、菓子折りの箱を持ったまま何も言わずに出ていった。入れ替わるようにジュードが入ってきた
「旦那様、ポナパルド男爵が血相を変えて出ていかれましたが?」
「奴に貴族としての心得を教えてやったまでだ。だが奴は貴族には向かんな、これしきの事で怒るとは。」
「それで如何なさいますか?」
「決まっているだろう、あやつは私に対して無礼を働いたのだ。貴族社会の恐ろしさを肌身で教えてやらんとな。」
「畏まりました。」
アルクエイドはすぐさま、付き合いのある御歴々にフロイス・ポナパルドとの遣り取りをそれとなく教えた。御歴々はフロイスの無礼極まりない行動に眉を潜めたのは言うまでもなかった。その後、御歴々によって内容に尾ひれはひれが付くようになり、やがては爵位を問わず、たちまち広まったのである
「耳にされたか、例の成り上がり者の話。」
「えぇ、ロザリオ侯爵閣下に婚約者の世話をしてほしいとか、何と無礼極まりない輩でしょうな。」
「見た目もそうだが実に不快極まりない。」
「聞きましたか奥様、ポナパルド男爵の事を。」
「えぇ、貴族以前に人間としてどうなのかと疑いましたわ。」
「実は私の娘にも下劣な視線を向けましたの。」
「まぁ、自分よりも爵位が上の貴族の娘を狙うとはやはり成り上がり者の考える事は分かりませんわ。」
「あんな恥知らず、死んでしまえばいいんだ!」
「あんなのと同列に扱われるのが恥ずかしいわ!」
「あんな男に嫁ぐくらいなら修道院に行きますわ!」
「まさに醜悪の塊らしい考えですわ!」
「そういえば明日、夜会がありましたわね。」
「ふふふ、彼の者に教えてやらんとな、貴族社会の恐ろしさというものを。」
貴族たちは新参者に対して貴族の礼儀を教えるべく明日行われる夜会を楽しみにしていた。一方、フロイスはというとそんな事が行われるとは露と知らず、娼婦たちを招き入れていた
「「「「「男爵様、今日も素敵よ♡」」」」」
「そうかそうか♪」
フロイスは金の力を言わせて娼婦だけではなく美しい人妻や年若い娘を毒牙にかけてきた。貴族になったからには次は貴族の令嬢に狙いを定めたが一向に上手く行かず、更に貴族たちからの嫌みに対してのストレス発散も予て娼婦たちを抱いた
「(どんなに偉ぶろうが貧乏には勝てねぇ。それを貴族の奴等に分からせてやらねえとな。)」
「「「「「男爵様、今日も一段と激しいわ♡」」」」」
「そうかそうか、なら今日は奮発するぜ!」
そして次の日の夜、夜会が始まり、アルクエイドたアシュリーは共に出席した
「アシュリー嬢、今日はあの男も出席すると思うが表情には出さないようにね。」
「はい。」
「ロザリオ侯爵閣下、アシュリー嬢。」
「ごきげんよう、レイナード侯爵閣下。」
「ごきげんよう、おじさま。」
会ったのはマルクス・レイナード侯爵である。アルクエイドは挨拶を済ませた後、あの男が夜会に出席しているのか尋ねた
「レイナード侯爵閣下、噂の御仁は参加しておりますか?」
「・・・・いや、まだ来ていない。」
「来ていないとは?」
「姿を見せぬのだ。」
「おじさま、例の御方に招待状が届いていないのでは?」
「それはない。夜会が始まる1週間前から全ての貴族に招待状が届くようにしているから、知らぬはずがないのだが。」
「まさかとは思うが忘れていたのではないのでしょうか?」
「・・・・だとしたら貴族として失格の烙印が押されるな。」
夜会は国王が主催する伝統行事であり、王族や貴族等の人々が集い、社会交流する場であり余程の理由がない限り、原則参加するのが義務である。無断で欠席する事は国王への反逆行為であり、貴族としての完全に失格という事である
「貴族失格の烙印を押された者は爵位を取り上げられ、財産も没収される。その事を踏まえれば是が非でも参加しなくてはいけないのに。」
「それもそれで面白いではありませんか。」
「まぁ、いなくなってくれた方が我等としても都合がいいからな。」
「ですわね。」
一方、フロイスはというと夜会の事を忘れ、娼婦たちと戯れていた
「ぐふふ、極楽、極楽♪」
「そういえば男爵様、今日は何か大事な用事があったのではないのですか?」
一人の娼婦が尋ねるとフロイスは「そんなものより今を楽しもう」と大事な夜会を無視したのであった




