第二十五話:夜会3回目
本日も王宮にて夜会が行われた。アルクエイドとアシュリーは一緒に夜会に出席した
「閣下、いつもより人の目がございますわね。」
「私が侯爵に昇進した事で注目を集めたのでしょうね。」
アルクエイドとアシュリーが現れた途端に周囲の視線はアルクエイドとアシュリーに注がれた。そこへ同じく侯爵に昇進したウルスラ&ナビエ・モンテネグロ夫妻が駆け付けた
「アルクエイド殿、アシュリー嬢、ごきげんよう。」
「ごきげんよう、ウルスラ殿、ナビエ夫人。」
「ごきげんよう、モンテネグロ閣下、ナビエ夫人。」
「ごきげんよう、ロザリオ閣下、アシュリー嬢。」
本日の主役といえるロザリオ侯爵家とモンテネグロ侯爵家が揃った事で静かではあるが会場が熱気に包まれた
「ウルスラ殿、額から汗が出ておりますな。」
「いやあ、お恥ずかしい。アルクエイド殿を探している間も色々ありましてな。」
「左様か。(絶対に他の貴族たちから揉みくちゃにされたな。)」
「それよりもロザリオ侯爵閣下も随分と罪作りな事をなさいましたわね。」
ナビエから罪作りという言葉を聞いてアルクエイドは首を傾げた
「はて、何の事でしょう?」
「ヌーヴェル男爵家とエルマンド子爵家の婚約解消に閣下が介入された事ですわ。」
「ああ、その事ですか。」
「ああ、その事なら私も耳にしたぞ。噂ではその男爵令嬢を第2夫人にするために仕向けたのではないのかってね。」
ウルスラとナビエがそう尋ねると、アシュリーは不機嫌そうな顔でアルクエイドを見つめた
「違いますよ、私はただ困っているレディーに手を差し伸べただけですよ。断じて第2夫人にしよう等を考えた事等は一切ございません。」
「・・・・本当ですか、閣下。」
「ええ、神に誓って。勿論、良き相手が見つかればマリアンヌ嬢とヌーヴェル男爵家に紹介するつもりですよ、アシュリー嬢。」
「・・・・それなら良いのですが。」
「ご安心を、アシュリー嬢のような美しい婚約者がいたら他の淑女よりも優先しますわ。」
アルクエイドがそう言うと、アシュリーは顔を真っ赤にさせ口をパクパクさせた。そばで聞いていたウルスラとナビエは「火傷しそうだ(あら、お惚気)♪」と茶化した。傍から聞いていたお歴々も温かい目で眺めていた
「な、な、な、何を仰るのですか!」
「何って、私は本心を申し上げたまでですよ。」
「あわわ。」
「ロザリオ閣下、どうかその辺で。」
しどろもどろになっているアシュリーを庇うようにナビエがアルクエイドを制した。そして「周りの目もございますから。」と耳打ちするとアルクエイドは「あら、私とした事が」と苦笑いを浮かべた
「アシュリー嬢、場所を変えましょう、ここは人の目もある。」
「は、はい(照)」
「ではごきげんよう。ウルスラ殿、モンテネグロ夫人。」
「ご、ごきげんよう(照)」
「「ごきげんよう♪」」
アシュリーも周囲の温かい視線に気付き、俯いてしまった。アルクエイドとアシュリーはウルスラたちと別れ、別の場所へ向かった。その道中でドルトン&メリル・ヌーヴェル男爵夫妻とバッタリ会った
「これはヌーヴェル男爵御夫妻。アシュリー嬢、マリアンヌ嬢の御両親であるヌーヴェル男爵だ。」
「ごきげんよう。」
「ごきげんよう、ロザリオ侯爵閣下。御初に御目にかかります、ゴルテア令嬢。」
「ごきげんよう、ロザリオ侯爵閣下、ゴルテア令嬢。」
互いに挨拶を済ませた後、ヌーヴェル男爵夫妻は改めてアルクエイドに礼を述べた
「ロザリオ侯爵閣下、娘の事でお世話になりました。」
「いいえ。」
「それで娘はお役に立てておりましょうか?」
「ええ、我が家に仕える使用人たちとも仲良くやれております。それにマリアンヌ嬢に対する元婚約者の扱いに憤っておりました。」
「そうですか。」
「それを聞いて夫共々、安心致しました。」
「ヌーヴェル男爵閣下、私もマリアンヌ嬢の境遇を聞いて同じ令嬢として憤りを覚えました。マリアンヌ嬢には必ずや幸せな日々が来ることを願っておりますわ。」
アルクエイドだけではなく婚約者であるアシュリーからもマリアンヌを思いやる気持ちが伝わったのかドルトンとメリルは感激した。特にメリルは感極まって涙を流したのである
「ロザリオ侯爵閣下のみならずゴルテア令嬢からもそのような御言葉をいただけるとは娘は果報者です。」
「本当に感謝申し上げます(泣)」
「メリル、閣下と御令嬢の前だぞ。」
「いいえ、我等は気にしておりませぬよ。」
「えぇ、私も閣下と同様にございます。」
「ありがとうございます。」
「そういえばエルマンド子爵家の片方は見掛けませんでしたがヌーヴェル殿は御存じないか?」
アルクエイドはエルマンド子爵家の事を尋ねた。勿論、エルマンド子爵家が病を理由に欠席届けを出している事を知っていたが、あえて尋ねる事にした。ヌーヴェル男爵夫妻もエルマンド子爵家が欠席している事を知っており、無難に答えた
「いいえ、我等は婚約解消されて以来、彼の家とは付き合いはございません。噂では病を欠席されたと聞きましたが。」
「あらま、夜会を欠席するとは・・・・どんな病にかかられたのでしょうかね♪」
「閣下、流石にそう仰ってはエルマンド子爵家が可哀想ですわ。」
「アシュリー嬢は優しいですね。」
「病になってもおかしくない状況ですもの。」
アシュリーもエルマンド子爵家の評判を聞いており、欠席した理由もあって正直、呆れていたのである
「我等としても会わずに済んで良かったと思っております。」
「えぇ、特にエルマンド子爵夫人にはあまり良い思い出がありませんでした。」
「御夫人も苦労されたのですね。」
「まぁ、縁が切れて良かったと思っております。閣下、改めて御礼を申し上げますわ。」
「どういたしまして。」
一方、夜会に出席できなかったエルマンド子爵家はというとマリアンヌの元婚約者であるビスカ・エルマンドは今日も我儘全開であった
「なんで私は夜会に出られないのですか!」
「仕方がないだろう、お前の噂が社交界に広まっている。そうなったら我が家が恥をかくだけだ!」
「知りませんよ、そんな事!」
「ビスカはともかく、何故私も欠席なのですか!」
「できるはずがないだろう。お前がロザリオ侯爵に対して暴言を吐いた事がいつの間にか広まったんだ。その時、ロザリオ侯爵に対してどんな顔をして会えばいいか。」
「貴方も貴方よ!何であの時にきっぱりと断らなかったのよ!」
「そうだ!父上がきっぱりと断らなければ私はマリアンヌと別れる事はなかったのですよ!」
ビアンカとビスカの攻撃対象は目の前にいる夫(父親)に変わり、徹底的に罵倒した
「婿養子の貴方がいつまでもうだつが上がらないから相手方に舐められるのですよ!」
「そうだ、私がこうなったのも全部父上のせいだ!」
オルタはというとひたすら妻と息子の罵倒に耐え続けた。オルタの実家は元々、騎士の家系だったが生活は貧しかった。オルタは貧しい生活が脱却するべく手柄を立てて騎士爵を得た。その後、エルマンド子爵家の令嬢であったビアンカに一目惚れし、ビアンカの両親を説得しようやく結婚、貴族の身分を得たが蓋をあければ忍従の日々【義父母への媚び諂い、妻のヒステリック、息子の我儘ぶり等】だった
「(こんな事だったら結婚しなければ良かった。貴族の身分につられたのが間違いだった。)」
「「聞いているのですか!」」
「・・・・はい(胃が痛い)」
オルタは今日も2人に頭が上がらず胃痛に苦しみながら妻と息子のサンドバッグとして頑張るのであった




