第二十四話:マリアンヌ
「ジュード、マリアンヌ嬢の様子は?」
「はい、最初は至らぬところはございましたが今ではそつなくこなし、精一杯努めております。」
マリアンヌは行儀見習いとしてロザリオ侯爵邸に雇われた。最初は慣れぬ作業に失敗もしていたが持ち前の忍耐力と真面目さもあってか、徐々にこなしていった。マリアンヌ自身も温厚な性格と元婚約者との諍いもあってか他の使用人たちから同情され、仲良くなった事を聞いて正直ホッとした。母からは「第2夫人にでもするのかしら」と嫌味を言われたが、「第2夫人にはしない」と答えると答えると「つまらないわね」と本当に面白くなさそうに返事をしたのは言う。息子ながらそれはどうなんだと思いつつ、元婚約者についてジュードに尋ねた
「それで元婚約者の方はどうだ?」
「はあ~、多少諍いは起きましたな。」
マリアンヌと婚約解消となった後、オルタ・エルマンド子爵が息子であるビスカに伝えたが案の定、いつもの我儘を発揮し「マリアンヌに直接会って婚約解消を取り消して貰う!」とマリアンヌの下へ向かおうとしたが流石に騒ぎを起こされるのは御免だったのかオルタは部屋に幽閉したのだという
「子爵令息からすればお気に入りの玩具を取り上げられた気分なのだろう。まさに手のかかる子供がそのまま17歳になったようなものだな。」
「左様でございますな。」
「失礼します。」
そこへ噂の人物であるマリアンヌが現れた
「おお、来たか。」
「御呼びにございましょうか?」
「うむ。ここへ来て1ヶ月は経つが調子の方はどうだ。」
「はい、皆様の御厚意に感謝致しております。」
「そうか、それで実家の方は何か言って来たか?」
するとマリアンヌの表情が曇った。これは何かあったなと思い、尋ねた
「何かあったのか?」
「い、いいえ。」
「・・・・エルマンド子爵家が何か言うて来たのか?」
エルマンド子爵の名を出すとマリアンヌは間があったものの気まずそうに頷いた
「それで何と?」
「は、はい・・・・私に会わせろと。」
「そうか・・・・無理して会わなくてもいいぞ。」
マリアンヌは驚き、「よろしいのですか!」と尋ねた
「あぁ、既に婚約の解消は決まった事だ。ぶり返すようであれば、こちらとて黙ってはいないぞとエルマンド子爵家に忠告致そう。」
「・・・・旦那様。」
「マリアンヌ嬢、もし何か困った事があれば迷わずに私に言いなさい、これは命令だ。」
「は、はい。」
「ジュード、それとなく伝えてくれ。」
「承知しました。」
「それとビスカ・エルマンド子爵令息の評判もそれとなく流せ。」
「ははっ。」
その後、アルクエイドの認めた手紙がエルマンド子爵家に届いた。内容はこれ以上、ヌーヴェル男爵家に関わるのであれば注意だけでは済まされない事、ビスカ・エルマンド子爵令息はマリアンヌ・ヌーヴェル男爵令嬢に接近してはいけない事等を認めていた
「はぁ~、困った事になった。」
オルタはアルクエイドからの手紙を一読した後、頭を抱えた。息子のビスカはひたすら「マリアンヌに会わせろ」との一点張り、アルクエイドからこれ以上、マリアンヌ及びヌーヴェル男爵家に関わるなら容赦しないぞと警告を出されたのである。オルタは深い溜め息をついているとそこへ妻のビアンカ・エルマンド子爵夫人【年齢45歳、身長165cm、色白の肌、茶髪ロング、碧眼、細身、美乳、彫りの深い端正な顔立ちのきつめの美人、ヒステリック気味】がくたくたになりながらオルタの下へ現れた
「貴方。」
「ビアンカ、ビスカは落ち着いたか。」
「はい、何とか。」
ビアンカはビスカを必死で説得し、ようやく落ち着かせたのである。オルタはアルクエイドからの手紙をビアンカに見せた。ビアンカは「はぁ~」と深い溜め息をついた
「貴方、私たちはこれからどうなるのでしょう。」
「しばらくは大人しくするしかない。ビスカが何か言うて来ても無視するんだ。」
「今更、無理でございます。今日だってマリアンヌに必ず会わせるからといって大人しくさせたのですよ。」
「はぁ~、一人息子故に甘やかしてしまった結果がこれか。」
オルタとビアンカは今になって息子の教育に失敗した事を後悔していた。特にビアンカは流産を繰り返し、ようやく待望の嫡男であるビスカを出産し、これでもかというほど溺愛したのである
「それで初夜会の方はどうするのですか?」
「流石に出すわけにはいかない。出せば我が家の恥となる。」
ビスカは夜会に初めて参加する予定だったが今回は取り止める事にした。実はビスカに関しての評判が社交界に広まっていた。ビスカは元婚約者に対し心身共に苦しめた最低なモラハラ男だとの評判である。ビスカの事を子供の頃から知っている関係者が否定しなかった事からより信憑性が増したのである
「はあ~、口止めする暇すらもなかった。」
「それでどうするのですか。」
「ううむ。」
「まさかビスカを廃嫡しようなんて考えていないでしょうね。」
「何故、そうなる!」
「あの子が廃嫡されたら、エルマンド子爵家はどうなるのです!あの子以外に子供はいないのですよ!」
ビアンカが必死になってビスカの廃嫡を嫌がるのはビアンカ自身、流産を繰り返しようやく待望の我が子、それも跡取りの男子であるビスカが生まれた。他の子供がおらず一人息子のビスカは命の次に大事な物であるため廃嫡を殊の外、拒絶した。オルタもその事を分かっておるから廃嫡に踏み切れずにいた
「こうなったのも全てロザリオ侯爵のせいだわ。あの成金が!」
「辞めんか!誰が聞いているか分からんのだぞ!」
ビアンカはビスカとマリアンヌの婚約を無理矢理解消させたアルクエイドに恨み言を吐いた。それを聞いたオルタはアルクエイドの悪口を言うのを辞めさせようと必死であった。しかし鼠はしっかりと聞いていた。壁に耳あり障子に目あり、天井裏に隠密ありである。隠密は直ちに別の隠密仲間にこの事を知らせ、隠密仲間はそのままロザリオ侯爵邸のアルクエイドにそのまま報告をした
「ほお~、子爵夫人は私の悪口を。」
「如何なさいますか、旦那様。」
「これも広めろ、息子と妻の暴言のオンパレード、さぞ盛り上がるでしょうね。」
「畏まりました。」
それから数日後、社交界にビアンカ・エルマンド子爵夫人が愛息と元婚約者を別れさせたアルクエイド・ロザリオ侯爵に対し、暴言を吐いたと噂が流れた。ビアンカを知る関係者はビスカ同様、一切否定せず「蛙の子は蛙」とか「似た者親子」と陰口を叩かれた。これには流石のオルタも夜会には出席できず病を理由に欠席届を出したのである
「閣下、聞きましたか。エルマンド子爵御一行が夜会に欠席する事を。」
「ええ、あれだけ噂が広まれば出席できるはずがないですからね。」
ロザリオ侯爵邸に訪問したアシュリーはエルマンド子爵家が夜会に欠席する事を伝えた
「自分たちの蒔いた種なのに閣下を恨むなんて。」
「向こうからすれば無理矢理別れさせた私を恨むのも当たり前ですよ。まあ、自業自得なところは否定できませんが。」
「失礼します。」
そこへマリアンヌが現れ、アシュリーは「マリアンヌ嬢、ごきげんよう」と挨拶し、マリアンヌは「ようこそ、おいでくださいました、アシュリー様」と返事を返した
「貴方も子爵一家に振り回されて大変でしたわね。」
「いいえ、もう過ぎた事ですので。」
アルクエイドから事情を聞いていたアシュリーは行儀見習いとして雇われたマリアンヌに同情し、何かと気にかけていた
「それで仕事の方は慣れたのですか?」
「はい、おかげ様にて。」
「その後、実家からは変化はなかったの?」
「はい、旦那様の御尽力もあり我が家には特に被害はございません。」
「そう、それは良かったわ。」
「アシュリー嬢、あれだけ噂が流れれば下手に動けませんよ。もし行動すればエルマンド子爵家は終わりですよ。」
「そうですわね。」
その頃、マリアンヌの故郷であるヌーヴェル男爵領はというとエルマンド子爵家からの嫌がらせが止み、ホッと一息ついていた
「はあ~、ようやく静かになったな。」
「ええ。」
「一時はどうなるかと思いましたわ。」
「これもロザリオ侯爵閣下の御尽力があってこそですね。」
「お姉様も頑張っていますしね。」
ヌーヴェル男爵家当主であるドルトン・ヌーヴェル、男爵夫人のメリル・ヌーヴェル【年齢45歳、身長165㎝、水色に近い青髪ロング、茶色の目、色白の肌、細身、美乳、彫りの深い端整で柔和な顔立ちの美人】、長女のマリーダ・ヌーヴェル【年齢19歳、身長167㎝、青髪ロング、茶色の目、色白の肌、巨乳、細身、彫りの深い端整な顔立ちの美人、妊娠中、マリアンヌの姉】、マリーの夫であるケイシー・ヌーヴェル【年齢21歳、身長180㎝、緑色の短髪、茶色の目、色白の肌、彫りの深い端整で柔和な顔立ち、婿養子】、マリル・ヌーヴェル【年齢14歳、身長158㎝、水色に近い青髪ロング、茶色の目、色白の肌、細身、貧乳(成長予定)、彫りの深い端正で顔立ちの美人、マリアンヌの妹】が広間にて寛いでいた
「エルマンド子爵家は夜会を欠席した事で直接顔を合わせずに済んで良かった。」
「私もあの夫人には何度、嫌味を言われた事か。」
「ええ、親子揃ってろくでなしだわ。」
「マリーダ、その辺にしよう。誰が聞いているか分からないんだし。」
「お義兄様、屋敷の者はみんなエルマンド子爵家が嫌いなので心配いりませんわ。」
「それはそうだけど。」
「心配はいらないわ、ケイシー様。今のエルマンド子爵家は孤立無援状態、夜会に出席できないのがその証拠よ。」
「だと良いのだが。」
「まぁ、何はともあれ、あの一家と関わらなくて良かった。」
「そうですわね。今度の夜会も平穏無事に過ごせそうですわ。」
「あぁ、その前に夜会の準備をせねばな。」
今度の行われる夜会にエルマンド子爵家が欠席をした事でヌーヴェル男爵家は安心して出席できる事に喜びつつ、夜会の準備を進めるのであった




