第十九話:クーデター
「ロザリオ伯爵殿、向こうが痺れを切らして返事を催促してきた。」
「それはそれは。」
ロザリオ伯爵邸の客室にてガルグマク王国の外務大臣を務めるホルス・フォード侯爵【年齢35歳、身長178cm、色白の肌、青髪、碧眼、細身、眼鏡、彫りの深い怜悧な美貌】が訪問した。訪問の内容は例の国(サルマン王国)から婚約に関する返事の催促である
「おおかた、側妃と娘である王女殿下の度重なる御要望にございましょう。彼の国の王女殿下は我が国の王太子殿下を懸想しておりましたからな。」
「こちらとしては頭の痛いところだ。」
「それでフォード侯爵閣下は如何なされるおつもりで?」
「私は陛下の御意向に従うまでの事。向こうにどう思われようが我等は預かり知らぬ事だ。」
「ですが万が一の事を考えて予め策を講じねばなりませぬ。」
「ほぉ~、万が一とは如何なる事で?」
「サルマン王国の王太子が父王を隠居させ自ら国王になる事にございます。場合によっては戦争が起きる可能性もなきにしもあらず。」
アルクエイドの発言を聞いたホルスはアルクエイドを注視し「これはこれはロザリオ伯爵殿らしからぬ物騒な物言いだ」だと皮肉られた。アルクエイドは意にも返さず、「王太子殿下は並々ならぬ覇気を御持ちの御方、いつまでも王太子の座に甘んじるとは思えませぬ」と理由を述べた。それを聞いたホルスは「はあ~」と溜め息をつき、「何事もなければ宜しいが」と述べた
「こればかりは天命にございますな。」
「・・・・天命か。」
一方、サルマン王国では各国(ガルグマク王国以外)から交易規制の通達が続々と舞い込んでおり、ソビエットは頭を抱えた
「何故だ・・・・まさか鉱石が枯渇した事が他国に知れ渡ったのか!」
ソビエットは情報流出を規制したが人の口に戸は立てられぬが如く、鉱石が枯渇した事が知れ渡ったのである。ソビエットは何とか打開策を思案しているところに突然、扉が蹴破られ中から大勢の騎士が入って来た
「な、何事だ!」
騎士の中を割って入ってきたのは王太子のアラマキが入って来た
「アラマキ、この者たちを下がらせろ!」
「父上、王の座を私に譲っていただきたい。」
息子の口から国王の座を譲れとの発言にソビエットは耳を疑った
「アラマキ、自分が何を言っているのか分かっているのか!」
「えぇ、勿論。無能な父上よりも私が国王になった方が国は栄えます。私は選ばれし者なのですから。」
「血迷ったか!実の父に刃を向ける等と!」
「これは天命にございます。父上には王妃様や他の側妃と友に離宮にて静かな余生を御約束致します。もし拒めばわかっておりますな?」
息子の形をした疫病神の発言に自分は何のためにやって来たのか心底、どうでも良かったと思えてきた。息子だけではなく側妃と娘にもサルマン王国が食いものにされるのかと思うと自分のした事が全て無駄になったと痛感したのである
「・・・・好きにしろ。」
「父上、感謝致します。」
「(他国へ亡命するしかないか。)」
その日からソビエットは王の座をアラマキに譲り、自らは王妃や側妃と共に一旦、離宮へ移り他国へ亡命するための準備を始めるのであった。新たに国王となったアラマキは早速、ガルグマク王国に通達した
「直ちに妹をグラン王太子の妻に迎えるよう通達せよ。」
「畏れながら陛下、彼の国はまだ婚約解消はされておりませぬ、それまでお待ちの程を。」
家臣の忠言にアラマキはすぐさま、癇癪を起こした
「黙れ!可愛い妹たっての所望なのだ、妹の晴れの舞台を貴様は潰す気か!」
「し、しかし。」
「もし向こうが断れば、兵を率いて攻めると伝えよ!」
「は、ははっ!」
傍から見ていた家臣たちは最早、サルマン王国は終わったと悟り亡命の準備を進めた。一方、使者は昼夜を問わず馬車を走らせ、ようやくガルグマク王国王宮に到着したのである。使者は疲労困憊の状態で拝謁しようとしたようで国王グレゴリーは驚きつつも呆れて物が言えなかった。そして案の定、元王太子アラマキが父親であるソビエットを隠居させ自ら国王となり、妹を王太子グランの王太子妃にするよう通達してきた。勿論、断れば兵を率いて攻めると脅しもつけてである
「何と礼儀知らずな輩だ。使者は国に帰らせるな!モンテネグロ伯爵に命じ国境を固めよ!各国にもサルマン王国の暴挙を伝えるのだ!」
グレゴリーは父親を隠居させたアラマキの蛮行に憤ると共に国交断絶も視野に入れていたようでこれを機に本格的に国交断絶に向けて行動を開始した。グレゴリーは王妃レティーシアと王太子グランとその婚約者のレミリアを呼んだ
「グランよ、サルマン王国の事は聞いておろうな。」
「はい、父上。」
「彼の国は我が国に兵を差し向ける。我等も覚悟せねばならぬ。」
「畏れながら陛下。」
「如何した、レミリア嬢。」
グランの婚約者であるレミリアは婚約解消してほしいと悲痛な表情を浮かべながら述べた。驚いたのは他ならぬ王太子のグランである
「レミリア、何を言うのだ!」
「落ち着け、グラン。レミリア嬢、理由を聞かせて貰おうか?」
「はい、私が身を引けば戦争は起きずに済みます。どうか私の直言をお聞き入れくださいませ。」
「レミリア、それは本心ではないだろう。例えレミリアが良くても私は反対だ!私の生涯の伴侶はレミリア、そなただけだ!」
「その御言葉だけいただければ本望にございます。」
「・・・・レミリア。」
「グラン、レミリア嬢、そう悲観する必要はないわ。」
「母上。」
2人の遣り取りを見ていた王妃のレティーシアは毅然とした対応で2人を諭した
「戦争は起こるでしょうが、すぐに終わります。」
「「えっ。」」
【戦争はすぐに終わる】というレティーシアの発言に2人は呆気に取られたがすぐに我に返り、理由を尋ねた
「母上、それはどういう事ですか!」
「王妃様!」
「まあまあ、落ち着きなさい。理由はちゃんと説明するわ。実はね・・・・」
一方、アルクエイドはというとゴルテア侯爵邸に訪れており、クリフ&エリナ&レオン&アシュリーにサルマン王国との今後の事について話した
「既に御存じの通り、サルマン王国のソビエット王が王太子、いや現国王によって隠居させられました。現国王から案の定、我が国に無理難題を吹っ掛けられましたが陛下は頑として受け入れぬ事に致しました。」
「閣下。」
「ん、如何されましたか、アシュリー嬢。」
「受け入れぬと言うことは、彼の国と戦争となるのでしょうか?」
アシュリーの質問にクリフは目を瞑りながら腕組みをし、エリナは固唾を飲んで見守り、レオンは緊張した面持ちでアルクエイドを注視していた
「戦争は起きます・・・・が、すぐに終わります。」
「「え。」」
レオンとアシュリーはわけが分からず呆気に取られていた。そんな2人にアルクエイドは理由を説明した
「勿論、理由はございます。まず第一に急な即位ですかね。現国王であるアラマキ王は父親を隠居させ即位しました。急な即位故、人心は掌握しておらず仮に戦争が起きても兵はそれほど集まりませぬ。第2にアラマキ王は国内外でも評判になるほどの癇癪もちの御方、家臣や国民にも不満と不信感を抱くのは必定ですので必ずや騒ぎが起こるかと。第3に各国に事前に国王就任の通達しなかった事、突然の国王就任した事で各国から不信感を抱かれた事で味方する国はおりません。最後に大義名分ですね、とてもではありませんが兵を挙げる事に賛同する者はほぼいないかと。」
「閣下、本当にそうなるのでしょうか?」
「ええ、アラマキ王はそのような大事を知らずにこのような暴挙に出たのです。最早、サルマン王国は終わったも同然です。」
「そ、そうですか。」
「後は陛下にお任せ致しましょう。」
「「は、はい。」」
アルクエイドの説明にレオンとアシュリーは半信半疑であったが、そばで聞いていた両親がうんうんと首を縦に振った事で嫌でも納得せざえるをえず、事の成り行きを見守るのであった




