第十四話:忙しい
「そうか、見つかったか。」
ロザリオ伯爵邸の執務室にてジュードの報告を受けたアルクエイドは内心、ホッとした。また変装でもされて自分やアシュリーの前に現れるのではないかとヒヤヒヤしていたのである
「それで奴は今、どこにいる?」
「はっ、人気のない廃屋に避難しております。」
「そうか。」
「直ちに始末致しますか?」
「・・・・いや、様子見だ。今の奴は手負いの獣も同然だ。追い詰められれば何をするか分からないわ。」
「畏まりました。」
「うむ・・・・それよりもジュード、馬車の用意は出来ているか?」
「はい、既に用意してございます。」
「うむ、ではアシュリー嬢を迎えに行くか。」
今日はアシュリーと一緒にパンケーキを食べに喫茶店【カサンドラ】へ向かうのだ。アルクエイドは早速、馬車に乗りゴルテア侯爵邸へ向かった。一方、アシュリーはというと、おめかしをしつつも新作のパンケーキを想像していた
「(楽しみだな、新作のパンケーキって、どんなのかしら♪)」
「お嬢様、ヨダレが出ております。」
「あら、やだ。」
メイドに注意され口許を拭った。おめかしを済ませ、待っていると執事から「ロザリオ伯爵閣下が参られました」と告げるとアシュリーは立ち上がり、軽い足取りで玄関口まで向かうと、そこに婚約者がアシュリーに気付き、笑顔で応対した
「閣下、御待たせして申し訳ありません。」
「いいや、私も先程、屋敷に到着したばかりですので御心配なく。」
「では、行ってくるわ。」
「「「「「いってらっしゃいませ。」」」」」
「では参りましょう。」
「はい♪」
アルクエイドとアシュリーは馬車に乗り、【カサンドラ】へ向かった。その道中では市場が開かれ、人々が活気に満ち溢れていた
「いつ見ても活気に満ち溢れていますわ。」
「ええ、陛下は非常に英邁な御方。後継ぎである王太子殿下も陛下に勝るとも劣らぬ英名な御方、その御人徳が下々の暮らしにも行き届いておりますからな。」
「そうですわね。私も陛下と殿下に御会いした事がございますが素晴らしき御方にございました。」
国王と王太子の事で盛り上がっていく内に【カサンドラ】に到着した。アルクエイドとアシュリーは事前に予約していたシークレットルームに入り、新作のパンケーキを注文した。それから十数分後、新作のパンケーキが運ばれた
「こ、これが新作のパンケーキ♪」
アシュリーはテーブルに置かれた新作【苺とマスカットと板チョコが散りばめられ生クリームたっぷり乗っかったパンケーキ】を前にヨダレを滴しながら、眺めていた。一緒に紅茶【ベルガモット(柑橘系)の香りが漂うアールグレイ】も添えられた
「ではアシュリー嬢。早速、頂きましょうか。」
「はい♪」
アルクエイドとアシュリーは新作のパンケーキを頂いた。甘すぎない生クリームとパンケーキがミックスしてなかなかの美味であり、板チョコと苺とマスカットも生クリームに負けていられないほど丁度よい味わいなので、この新作は大当たりだと思った。パンケーキか大好きなアシュリーに至っては、ホッコリとした表情で味わっていた
「美味ですわ♪」
「えぇ、この新作は大当たりですね。アールグレイが良き口直しになります。」
柑橘系の香りが鼻を刺激しアールグレイの熱すぎず、苦すぎないほんのりした甘さが口に広がり、パンケーキと丁度良かった。そんなこんなであっという間にパンケーキが無くなった。アシュリーは物惜しそうに空の皿を見つめていた
「アシュリー嬢、私は御代わりしますがどうですか?」
「宜しいのですか!」
御代わりという言葉にアシュリーは目を血走らせながらアルクエイドを凝視していた
「構いませんよ、今日は私の奢りです。」
「あ、ありがとうございます、閣下!」
その後、新作のパンケーキとアールグレイが追加されアルクエイドとアシュリーは満足したのである
「閣下、本日は御招待いただきありがとうございます。」
「構いませんよ、私も新作のパンケーキを食べられて良かったと思っておりますよ。アシュリー嬢は如何でしたか?」
「はい、大変美味にございました♪」
「それは良かった。もし機会があれば、また食べに行きましょう。」
「はい♪」
アルクエイドはアシュリーをゴルテア侯爵邸に送った後、屋敷へ戻った
「お帰りなさいませ、旦那様。」
「うむ。留守の間は何かなかったか?」
「旦那様。先程、王宮より御茶会の招待状が届きました。」
「何?」
アルクエイドがアシュリーと【カサンドラ】に行っている間に、王宮より使者がやって来て御茶会の招待状を渡しに来たようだ。アルクエイドは自室に戻り、封を切り、内容を一読すると、どうやら○月○日に王宮のテラスにて自分を招待するとの事である
「陛下より御茶会に招待された。」
「おお、それはめでたき事にございます。」
「めでたいかどうかは、ともかく国王陛下直々の御招待、緊張するわ。」
数日後に正装に身を包んだアルクエイドは王宮に参内した。王家に仕える執事の案内でテラスに向かった
「(とうとうこの日が来てしまった。何度も会っているけど、やっぱり緊張しちゃうわ。)」
前世では社長といった最高責任者に会う事はほぼなかったが、この世界ではこの国で一番偉い御方と顔を合わせているのだ。まあ、商売の売り上げの4割を献上しており、国王から目をかけられている事が悪い事ではないが一歩間違えれば御家断絶に繋がりかねないので要注意である。そんなこんなでテラスに到着するとそこにはこの国で一番偉い御夫婦が椅子に座っていた。アルクエイドはその御夫婦を前にして臣下の礼を取った
「御召しにより参上致しました。」
「うむ、よくぞ参った。」
「本日はお招きいただきありがとうございます。」
「ささ、席にお座りなさい。」
「ははっ、では失礼致します。」
アルクエイドは国王グレゴリー・ガルグマク【年齢42歳、身長180㎝、色白の肌、碧眼、金色のオールバック、気品漂う端整な顔立ちの美中年】&王妃レティーシア・ガルグマク【年齢42歳、身長160㎝、色白の肌、碧眼、金髪ロング、美乳、気品漂う端整な顔立ちの美熟女】陛下夫妻の許しを得て、席に座った。国王が合図を送ると執事とメイドが紅茶の入ったティーポットと菓子を持ってきた。純白のテーブルクロスの上にティーポットと菓子が置かれ、国王&王妃&自分のティーカップにお茶が注がれた後、そそくさと席を離れた。すると王妃陛下が・・・・
「ささ、ロザリオ伯爵。遠慮なく召し上がりなさい。」
「ははっ、ではお言葉に甘えて。」
王妃陛下は自分に味見(毒味)をするよう命じた。もし毒が入っていて国王の身に何かあれば国を揺るがすほどの問題になる。国王主催の御茶会にて味見(毒味)は貴族(家臣)たちの忠誠度を確かめるために行われるのは暗黙の了解である
「(分かってはいたけど、毒味役は嫌だな。)」
取りあえずアルクエイドは先に味見(毒味)をした。事前に解毒薬を服用し、もし毒が入っていれば口内に痺れが来るのである。そして菓子の方も摘みながら、毒が入っていないか確かめた。口内に痺れがないのを確認するとアルクエイドは国王&王妃陛下夫妻に紅茶と菓子を勧めた
「大変美味にございます。国王陛下、王妃陛下もどうぞお召し上がりくださりませ。」
「うむ、では頂こうか。」
「ええ。」
国王&王妃陛下夫妻は紅茶と菓子を味わった。2人の様子を見ると、特に変化はなく毒が入っていない事が分かり、アルクエイドはホッとするのであった




