第十三話:逃亡
「そうか、奴は苛立っていたか。」
「ははっ、計画をことごとく潰された事で部屋はいつも荒れ放題だそうです。」
執務室にてジュードの報告を受けたアルクエイドは静かにほくそ笑んだ。シェズはアルクエイドが経営している店に融資を呼び掛けたが事前に通達し、商人たちもアルクエイドの許可がない限りはできないと断った事でシェズの苛立ちが募り、物にあたるようになったという
「私が心配しているのは彼の者が旦那様と敵対している貴族に付け届けを渡し、旦那様を失脚させようと画策する可能性もございます。」
「その点については私も同様だ・・・・ジュード、耳を貸せ。」
「ははっ。」
アルクエイドはジュードに自分の考えを耳打ちするとジュードは「宜しいのですか」と心配そうに尋ねるとアルクエイドは「構わん」と答えるのであった
ここはシェズが本拠地としている屋敷、時は深夜、人が寝静まったところに静かに煙が立ち込め、やがて火が大きくなった
「火事だああああ!」
屋敷内にいた子分たちは白煙に咽びつつ、白煙の続く方向へ向かうと火事が発生している事に気付いた
「火事だ、火事だぞ!」
「おい、逃げるぞ!」
子分たちは我先にと逃げ出し、そのまま逃走をし姿をくらましたが数時間後に重要参考人(放火の疑い)として警備隊によって確保されたのは先の話である。シェズはというと騒ぎ声と白煙に気付き、手提げ金庫を持って作業用の机へと向かった
「踏んだり蹴ったりだ!」
火事ともなれば警備隊が駆け付ける可能性がある。自分の正体が知れたら間違いなく捕まってしまうと思い、子分たちを置いていく事にしたのである。シェズは表門には行かず机の下のある秘密通路を通って脱出したのである
「俺は死なん、死なんぞ!」
駆け付けた消防隊の行った破壊消火によって火事は鎮火したのである。警備隊が駆け付け、検分を行った結果、ポスト・ロイヤル(シェズ・アルバート)の死体はなく、更に隠し通路を発見した事で生きている可能性があると断じ、捜索を開始した。そして捕縛された子分たちは重要参考人(放火の疑い)として捕らえた子分たちに拷問と尋問によってこれまでの悪事が露呈され、子分たちは裁判も待たずに処刑され、ポスト・ロイヤル(シェズ・アルバート)は再び指名手配される事になったのであった
「アシュリー嬢、シェズの事は聞いていますよね。」
「えぇ。」
ロザリオ伯爵邸にてアシュリーを御茶会に招待したアルクエイドは先日起きた火事の件で話した。アシュリーも先日の火事を聞いた時はシェズが死んだかどうか何度も確認をしたが死体がなく隠し通路があった事から生きていると知り、愕然としたという
「シェズたちは村々を襲うだけではなく貴族の家々を揺すったり、借りた人間に高い利子をつけて多額の借金を背負わせる等、悪どい事をしてきた。火事のおかげで子分たちは処刑、シェズは再びお尋ね者になりましたが。」
「その話は私も聞きました。私が許せないのは村々の女性を犯し、奴隷商人に売り捌いた事です。同じ女としてシェズの行いは決して許せません!」
アシュリーはシェズたちによって女&人間の尊厳を奪われ、挙げ句の果て奴隷にされた事に心底、怒りを覚えたという。アルクエイドも元は女なので口には出さないものの、ゲスな事をしたシェズに怒りを覚えた。今にして思えば些か早計であったと後悔した。火事に巻き込まれて焼き殺すつもりだったが、まさか隠し通路を設けていたとは夢にも思わなかったのである
「もしシェズがこの場にいたら、この手で八つ裂きにしてやりたいわ。」
「アシュリー嬢、もう少しオブラートに包んだ方が良いのでは?それと侯爵令嬢が八つ裂き等という言葉は口にしてはなりません。」
「閣下の前だけです。」
「それはそれは。」
「はぁ~。」
「そうだ、アシュリー嬢。今度お出掛けしませんか?」
「お出掛けですか?」
「ええ、実は【カサンドラ】で新作のパンケーキがお披露目するみたいですよ。」
パンケーキと聞いたアシュリーは目を見開いた。アシュリーはパンケーキが大好きでよく菓子店にお忍びで訪れる事があった。アルクエイドはアシュリーがパンケーキが大好物である事を調べており、良い気分転換になると思って誘ったのである
「本当ですか、閣下!」
「ええ、【カサンドラ】の店主が教えてくれたのですよ。せっかくだからアシュリー嬢も誘おうかと思ったのですが如何でしょう?」
「勿論、参ります!」
「それは良かった・・・・それとヨダレが出てますよ。」
「あ、あら、私ったら(照)」
目をキラキラさせながらヨダレを垂らしていたアシュリーにアルクエイドは注意すると、アシュリーはヨダレをハンカチで拭き、愛想笑いを浮かべるのであった
一方、シェズはというと命からがら手提げ金庫を持って逃げだす事ができ、国立自然公園にて休憩を取っていた
「はあ、はあ、何とか逃げ切れた・・・・(腹の虫の鳴る音)・・・・まずは腹ごしらえだな。」
シェズは近くにあった屋台に立ち寄り、ホットドッグを購入しようとしたが店主がジロジロと見ていた
「何だ?」
「あ、いいえ。」
シェズは怪訝そうに店主を見つめると店主は眼を反らし、ホットドッグを渡した。シェズは長居は無用と思い、ホットドッグを食べながら国立自然公園を脱出しようとしたら、近くにいた若い男がシェズの顔を見た
「ん?(あれ、こいつ。ポスト・ロイヤルじゃないか。」
シェズはマズイと思ったのか、そそくさと去った。それから十数分後、店主と若い男の通報によって警備隊がぞろぞろと入り、「まだ近くにいるはずだ」と捜索を開始した。国立自然公園付近も捜索の手が入り、野次馬もぞろぞろと集まった。当のシェズはというと、とっくに脱出しており人気のない場所にいた
「やはり俺の手配書が出回っていたか、また変装するしかないな・・・・ん!」
シェズは気配を感じ、辺りをキョロキョロと見渡した。シェズは警戒を続けると、「ガサッ」と物音をした方向に投げナイフを放った
「ピギャ!」
何かの悲鳴が轟き、近づいてみると先程、放った投げナイフを受けて絶命した大きな野ネズミが横たわっていた
「ちっ、紛らわしい事しやがって。」
シェズは舌打ちをした後、その場を離れた。その後を追う影の存在も知らずに・・・・




