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最終話:その後のロザリオ侯爵家

アルクエイドとアシュリーは馬車に乗り、すぐさま王宮へ参内した。国王グランと王妃レミリアは突然の2人の来訪に嫌な予感を感じつつ、拝謁を許した


「「拝謁致します。」」


「うむ、どうした?」


「ははっ、実は王太子殿下がスカーレット男爵家に弱みを握られてございます。」


「何?」


「・・・・説明してもらえるかしら?」


「ははっ!」


スカーレット男爵家と聞いたグランとレミリアはすぐさま険しい表情を浮かべ、理由を尋ねた。アルクエイドはこれまでの経緯を全て話すとグランは側近に「グレンを呼べ」と命じた。それから十数分後に側近に連れられ、青褪めた表情で現れた


「グレンよ。」


「は、はい、父上!」


「お前、どういうつもりでスカーレット男爵家を庇い立てするような真似をした?」


「い、いやあ、そ、それは・・・・」


しどろもどろになるグレンに、レミリアは「はっきりしなさい!」と叱りつけた。母に叱られ、ビクッとなったグレンは観念して洗いざらい白状をした。想い人に泣きつかれた事、想い人であるカリンの実家が大変な事になっていると聞いていてもたってもいられず、ロザリオ侯爵邸に押し掛けた事等を全て報告した。それを聞いたグラン、レミリア、アルクエイド、アシュリーたちは白い目で王太子グレンを見つめた。グランは「はぁ~」と溜め息をついた


「グレンよ、お前はいつから、そのような軟弱者となったのだ。かつてのお前は文武両道で将来を約束されたにも関わらず・・・・」


「ち、父上。」


「グレンよ、お前を廃嫡する。次期王太子は第2王子のグリードと致す。」


廃嫡と聞いたグレンは呆気に取られたが、すぐさま我に返った


「ち、父上、廃嫡とは何故!」


「グレンよ、お前は先王の命を破るだけに飽き足らず、女の色香に惑わされて此度の騒動を起こした罪は断じて許し難い。」


「わ、私はただカリンが可哀想で・・・・」


「馬鹿者!」


父の叱責にグレンはビクッとなった。レミリアはというと腹を痛めて産んだ待望の世継ぎの堕落した姿に堪えきれずに啜り泣きをした


「は、母上、何故お泣きに・・・・」


「お前が泣かせたのであろうが!」


「わ、私が・・・・」


「他になるがあるというのだ、この親不孝者が!」


親不孝者と罵られたグレンは思わずアルクエイドとアシュリーを睨み付けた


「貴様等のせいだ、貴様等が余計な事をしなければ!」


「殿下、自分のなされた事を他人のせいにするのは如何かと存じますが?」


「殿下、どうかこれ以上の恥の上塗りをなさるのはお辞めくださいませ。」


「黙れ!」


「黙るのはお前だ、グレン!!みっともない真似をするな!!」


「く、くそ!」


するとグレンは懐から短剣を取り、鞘を抜いた。突然の凶行に周囲に戦慄が走った


「グレン、血迷うたか!」


グレンはというとアルクエイドの方に視線を向けた。アルクエイドはアシュリーを守るように前へ出た


「アシュリー、下がっていろ。」


「はい!」


「貴様さえ、貴様さえいなければ!」


グレンは短剣を団扇のように振り回しながら突撃するとアルクエイドはグレンに向き合う形で臨み、短剣で突いてきた腕を少し側面に移動しグレンの腕で制し小手先を掴んだ。アルクエイドはグレンと同じ方向に目線を向け、足を引いた


「うわっ!」


グレンが悲鳴を挙げると同時にアルクエイドはもう一歩下がり、もう一方の手を被せて、グレンに近い足を一歩進めながら小手を返してグレンを下に投げた


「がっ!」


小手を持ったまま、アルクエイドはもう一方の手でグレンの肘の内側に当てて、グレンの肘をオデコにつけていき、グレンを引っくり返した


「ぎゃあ!」


グレンに近い方の足をグレンの脇の下に入れ、膝をグレンの頭の方向に曲げて肩に関節技を与えた


「イタイ、イタイ、イタイ!」


グレンは悲鳴を挙げ、もう片方の手をパンパンと地面を叩いた。アルクエイドはグレンが持っていたナイフを取り上げる事に成功したのである


「(小手返し、成功して良かったわ。)」


アルクエイドは仕掛けた合気道の小手返しによってグレンは完全に取り押さえられた。その後、衛兵が駆けつけグレンはそのまま連れていかれたのである。アルクエイドはナイフを衛兵に預けた後、国王と王妃に向け謝罪をした


「陛下、お見苦しきものをお見せしまい申し訳ございません。」


「良い。あやつは乱心し己を見失ったのだ。」


「それよりもロザリオ侯爵、怪我は?」


「御心配には及びません。この通り、無傷にございます。」


「流石は武闘派貴族だな。」


「畏れ入ります。」


「後はこちら処理する、下がって良い」


「ははっ。」


「失礼致します。」


アルクエイドとアシュリーは国王と王妃の許しを得てその場を去った。衛兵の護衛の下、ロザリオ侯爵家の馬車にたどり着き、中に入った途端、2人はホッと胸を撫で下ろした


「はぁ~、一時はどうなる事かと思ったわ。」


「旦那様、本当にお怪我はなされなかったのですか?」


「心配しないでちょうだい。この通り、傷1つ負っていない。」


「旦那様は無茶をし過ぎます。」


「すまん。」


「ですが王太子殿下が御乱心なされたのでは致し方ありません。それに旦那様の事を惚れ直しました。」


「アシュリー・・・・大好き♡」


「いやん、旦那様♡」


馬車の中で年甲斐もなくいちゃつく2人の声を聞いていた御者は「またかよ」と心の中で呟きつつ、ロザリオ侯爵邸へと向かうのであった






「ちょっと放してよ!」


一方、グレンの想い人であるカリン・スカーレットはというと多額の借金と今回の不祥事の巻き添えをくらい、王宮に派遣された衛兵によって捕縛された。スカーレット男爵家は国王グレンの命で取り潰しとなり、父であるスカーレット男爵は自殺した。カリンはというとある場所に連れていかれたのである。そこには一台の馬車のみの人気のない森の前だった。カリンは衛兵によって乱暴に地面に叩き付けられた


「きゃあ!ちょっと私はスカーレット男爵家の令嬢よ!」


「ん、その声はカリンか!」


ふとカリンが馬車の方へ目をやると、そこには馬車扉が開き中からグレンが姿を現した


「で、殿下、この衛兵たちを叱ってください。私に乱暴狼藉を働いたのですよ!」


カリンはグレンに助けを求めたがグレンは何も言えず黙りこくっていた


「ちょっと何を黙っているのですか!」


「・・・・わ、私は廃嫡となった。」


「えっ。」


廃嫡という言葉を聞いたカリンは呆気に取られた。すると1人の衛兵が代わりに説明した


「その者の言う通りだ。その者は畏れ多くも陛下の御前にて乱心致した。それだけではなく婚約者であるアーシア・ロザリオ侯爵令嬢との婚約を自ら潰し、先王陛下の御尊顔に泥を塗った。その罪は大きい。よって陛下の命にて廃嫡、更に王籍からの廃籍となり、今は平民の身分となった。」


衛兵の説明にカリンは訳が分からなかった。何故、グレンが廃嫡になったのか、自分は王妃になれないのではと頭の中が混乱しているとグレンが口を開いた


「カリン、私はもう王族ではなく平民となってしまった。だが父上は君との婚約を認めてくれた。2人で手に手を取り合って一緒に暮らそう。」


グレンがそう言った途端、カリンの思考が一気に現実に引き戻された


「はっ!嫌よ!王族しか取り柄がないあんたと誰が結婚するもんですか!」


「か、カリン。」


「なんでよ、私は乙女ゲーのヒロインなのに!」


グレンは突然、カリンが豹変した事に呆気に取られたがカリンは周囲を憚らずに喚き散らした


「何よ!ゲームのシナリオ通りにいかないじゃない!悪役令嬢(アーシア・ロザリオ)はいつまで経っても苛めてこないし、濡れ衣を着せる前に婚約解消しちゃうし、挙げ句の果てには借金の催促までされるし、どうして上手くいかないのよ!せっかく乙女ゲーのヒロインになれたというのに!」


「な、何を言っているのだ、カリン。」


「煩いわね、あんたもあんたよ!のこのことロザリオ侯爵邸に乗り込んで勝手に自爆して!少しは考えなさいよ!このグズ!」


「な、何。」


「そうじゃない!王太子じゃないあんたと結婚するくらいなら他の貴族の令息と結婚した方がマシよ!」


天使、時々小悪魔な顔だったカリンの今の顔は、非常に醜く悪臭を放つ怪物の顔に変貌した事にグレンの背筋が凍った。王太子の座を剥奪、王籍から排除、平民墜ちしたが愛するカリンのために我慢したが待っていたのはカリンの姿をした醜悪な化け物に恋をしていた自分の愚かさに自嘲めいた笑みを浮かべるしかなかった


「ははは・・・・私は何のために・・・・ははは。」


「笑ってんじゃないわよ!もうリセットボタンはどこよ!もう1回やり直しよ!」


「おい。」


「何・・・・」


カリンは食って掛かろうとしたが突然、衛兵に殴られた。カリンは「え、え」と分けが分からずにいると衛兵が淡々と語り始めた


「やれやれここにも乱心者がいたか。乙女ゲーだかリセットボタンだか知らないが今の貴様はそこにいる平民を誑かした毒婦だ。」


「あ、あれ・・・・リセット・・・・ボタン・・・・」


「はぁ~。」


衛兵は溜め息をついた後、改めて国王の王命を伝えた


「陛下の命にてお前たち夫婦を無期限の鉱山送りと致す。」


「こ、鉱山送り・・・・」


「そうだ、貴様等は死ぬまで鉱夫、娼婦として一生を送れとの事だ。」


鉱山送りは遠回しの死刑と同じでグレンとカリンは今になって自分のしてきた事の報いを受ける事となった


「こ、こんな、こんなはずでは・・・・」


「リ、リセットボタン・・・・」


「おい、連れていけ。」


「おい、さっさと動け!」


無抵抗かつ生ける屍と化したグレンはその後、鉱山送りとなり鉱夫として働いたが全くの役立たずで他の鉱夫たちからリンチを受け続ける生活を送った。限界を迎えたグレンは脱走を決意するも途中で見張りの兵士に捕まり、最期は見せしめのために処刑されたのであった。カリンはというと多くの鉱夫たちの慰み物にされ、最期は谷底に飛び込み自殺したのである。彼女は最期まで「私はヒロイン」と壊れたラジオのように呟き続けたという。こうして王太子交代劇が幕を閉じるのであった





後日、アルクエイドとアーシアは息子と娘を連れて王宮に参内した。拝謁を済ませた後に国王グレンと王妃レミリアから謝罪された


「すまなかったな、アルダン、アーシア嬢。」


「息子が迷惑をかけて申し訳ないわ。」


「いいえ、どうか頭をお上げください。」


「うむ。」


謝罪を終えた後、王太子グレンは廃嫡となり、想い人カリンと共に鉱山送りにしたという。それを聞いたアルクエイド、アシュリー、アルダン、アーシアは神妙な面持ちで聞いていた。それと同時に第2王子グリードが正式に王太子に就任した事も決定したという


「グリード殿下の王太子就任、おめでとうございます。」


「うむ。」


「して殿下はいずれに?」


「ん、来たようだ。」


話を負えるのと同時に第2王子であり現王太子であるグリード・ガルグマクが参内した


「父上、母上、お呼びでございましょうか。」


「うむ、ロザリオ侯爵一家が参った。挨拶をせよ。」


「はい。ロザリオ侯爵、ごきげんよう。」


「ご機嫌麗しゅうございます。」


「殿下、王太子御就任おめでとうございます。」


「「おめでとうございます。」」


「めでたいか・・・・兄上が廃嫡されて突然、王太子となった。こちらとしては未だに実感がない。」


「御心中お察し申し上げます。」


母国へ帰国した途端に急遽、王太子に任命され、更に兄のグレンが廃嫡になった事等、色々と慌ただしい日々を送る事になり、てんやわんやであった。突然の王太子に任命されたグリードに同情しつつ、グレンのような人間にはならないでほしいと心から願った


「さて早速だがグリードには婚約者がおらん。それ故、新たに婚約者を見つけねばならん。」


突然、国王グランの口からそのような事を告げられ、アルクエイドは嫌な予感を感じつつも賛同をした


「左様でございますな。」


「うん、そこでだ。ロザリオ侯爵、グリードの婚約者だがアーシア嬢を・・・・」


「畏れながら陛下。」


「まだ話している途中だぞ。」


話を遮られてむすっとするグランにアルクエイドはこう直言をした


「まことに申し訳ございません。ですが娘は先の王太子の婚約者でありましたが婚約解消を致しました。それに娘は一度、王族と婚約を結んだ身にございます。二度も王族と婚約を結んだ前例はございません。」


ガルグマク王国では一度王族と婚約を結び、もし何らかの理由で婚約解消となった場合、その令嬢は他の貴族と結婚、または修道院に行くのが通例であり2度も王族と婚約を結ぶ事が前例になかったのである。アルクエイドとしては王族と関わるのは御免だと思い、前例を持ち出して辞退しようとした


「勿論、存じておる。」


「前例通りにいけば、アーシアは他の貴族と結婚、または修道院に行く事になります。」


「ロザリオ侯爵よ。」


「ははっ。」


「前例というのは突然起こった事を2度と忘れずに歴史に刻む物だ。」


「左様にございます。」


「なら・・・・余が前例を作るまでだ。」


国王グランの宣言にアルクエイドを含むロザリオ一家は身構えた。そしてグランは続いてこう宣言した


「国王グランの名の下に王太子グリードとロザリオ侯爵家令嬢アーシア・ロザリオの婚約を認める事をここに宣言する!」


国王グランの宣言にロザリオ侯爵一家は「ああ、これは駄目だ」と悟り、臣下の礼を取った。隣にいた王妃レミリアは満面な笑みを浮かべ、王太子となったグリードの頬は赤らめていた


「ははっ、しかと承りました。」


「この事、国内外に広めよ!」


国王グランの宣言は一気に国内外に広まった。国内では前例を無視した国王グランの対応に驚きつつも、宮仕えをしている身なので現国王の命令ともなれば表立っての反論がなく粛々と進められたのである。国外では2度も王族に嫁ぐ事自体は他国でも前例があるため何事もなく祝賀の使者が送られたのである


「・・・・との事にございます。」


「そうか・・・・グランがのう。」


ロザリオ侯爵一家はその足で離宮の広間にて先王グレゴリーと王大妃レティーシアに報告をした。その場には何故か、王太子グリードがいたがそれを無視するかのようにグレゴリーとレティーシアは話を進めた


「あやつも思い切った事をやるのう。」


「ええ、前例を無視するだけではなく自分自身が前例を作るなんてね。」


グレゴリーとレティーシアはというと息子(グラン・ガルグマク)の下した英断に内心、よくやったと称賛していた。ガルグマク王国で最も勢いのあるロザリオ侯爵家と手切れになるのを恐れていたため、グランの英断は渡りに船であった


「さてアーシア嬢。」


「は、はい!」


突然、グレゴリーに尋ねられアーシアはドキッとした。アルクエイドとアシュリーは娘の心配をしつつ先王の言動に用心した


「グランと婚約解消したばかりだというのに今度はグリードの婚約者になるとは・・・・そなたも苦労するのう。」


「畏れ入ります。」


「アーシア嬢。」


「はい、王大妃陛下。」


「私としては貴方がグリードの婚約者になってくれて嬉しく思うわ。」


「勿体無き御言葉にございます。」


「国王も王妃も同じ考えでしょうね。特に王妃と貴方は実の親子のように仲睦まじかったから・・・・」


「畏れ入ります。」


「実をいうとね、グレンとアーシア嬢が婚約解消を知った途端にグリードがアーシア嬢を妻に迎えたいと駄々を捏ねてね♪」


レティーシアの口からグリードの要望だと聞き、ロザリオ侯爵一家は一斉にグリードの方へ視線を向けた。グリードはというと頬を赤らめモジモジしていた。そんな孫の様子にグレゴリーが発破をかけた


「グリード、お前の口から説明せんか。」


「は、はい!」


グリードはコホンと咳払いをした後、ロザリオ侯爵一家に向き合った。ロザリオ侯爵一家を代表してアルクエイドが尋ねた


「畏れながら殿下、娘と婚約を結びたいと?」


「あ、あぁ。」


グリードは、はにかみつつもアーシアの方をチラチラ見始めた。アルクエイドはグリードの視線に気付き、先王グレゴリーと王大妃レティーシアの方へ視線を戻した


「畏れながら殿下はアーシアと話がしたいようにございます。」


「ん、そうなのか、グリード?」


グレゴリーが尋ねるとグリードはモジモジしながら「はい」と答えた


「そうね、ここは若い者同士で話し合う必要があるわね。先王陛下、ロザリオ侯爵、グリードとアーシア嬢の2人だけにしましょう。」


レティーシアの提案にグレゴリーもアルクエイドも賛成した。先王夫妻とアーシア以外のロザリオ侯爵一家は広間を退出「ただし見張りのために隠密を配置」した。広間にはグリードとアーシアの2人だけが残った


「あの、殿下。」


「アーシア(ねえ)


「は、はい。」


「グリードと呼んでほしい。」


「は、はい。」


グリードは王太子グレンの婚約者だったアーシアの事をアーシア(ねえ)と呼び、自分の事をグリードと呼ぶようお願いをした


「グリード様、私はグレン様の婚約者ではございません。それに・・・・」


アーシアが何か言おうとした瞬間、グリードは「すまない、突然」と謝罪した。グリードは一旦、深呼吸した後、アーシアに向き合った


「アーシア姉、兄の事で色々とすまなかった。」


「いいですよ、もう終わった事ですから。」


「不謹慎かもしれないが・・・・私としては兄と婚約解消してくれた事を嬉しく思っている。」


「え、それはどういう事でしょうか?」


アーシアが尋ねるとグリードは本心を語った。グリードは兄の婚約者であったアーシアに一目惚れした事、兄の婚約者だった事から諦めざるを得なかった事、両親から婚約者の打診があったがアーシア以外の女性に京見がなかった事等、グリードはアーシアを諦めつつもどこかで婚約が破綻してくれる事を祈っていたらしい。アーシアはというとそのような素振りを見せなかった事に疑問を抱き、再度尋ねてみた


「畏れながらグリード様、そのような素振りを見せませんでしたが?」


「うん、その時は兄上の婚約者だと知らされ、子供ながらに隠していたんだ。だからアーシア姉と2人きりになった時は甘えたけど・・・・」


グリードの言い分にアーシアは子供の頃を思い出していた。グリードはいつも自分の後を追い、2人きりの時は甘えていた。アーシアは弟ができた気持ちでグリードを可愛がっていたがまさか自分に好意を寄せていたとは思わなかったのである。当のグリードはというと自分の思いを暴露した後、意を決して告白する事にした


「アーシア姉、こんな形ですまないけど私と共に歩んでほしい!お願いします!」


「で、殿下、お辞めください!」


グリードは王子としてのプライドをかなぐり捨てすぐさま土下座をした。突然、土下座をするグリードにアーシアは驚き、辞めるよう説得した。流石にここまでやるとは思わなかったアーシアは根負けし告白を受け入れる事にしたのである


「分かりましたわ、グリード様。」


「ありがとう!アーシア姉!」


「あと、アーシアですよ。」


「あぁ。」


「(この御方は私がいないと駄目ね。)」


なんだかんだ2人は結ばれたのを見届けた隠密はすぐさまテラスにて御茶会をしていた先王夫婦とロザリオ侯爵一家に報告をした


「うむ、御苦労。下がってよい。」


「ははっ!」


隠密を下がらせた後、グレゴリーはアルクエイドの方へ目線をかえた


「無事に済んだようだな、アルクエイド。」


「ははっ、何事と先王陛下の思いのままにございます。」


「アルクエイド、それは皮肉か?」


「滅相もございません。先王陛下の先見の明に感服仕りました。」


「まあ良い。我等としてはロザリオ侯爵家を手放すのは惜しいからな。」


「御意。」


「さてと2人が結ばれたのを機に改めて乾杯を致しましたか♪」


「うむ、そうだな。ロザリオ侯爵一家もどうだ?」


「ははっ、謹んでお受け致します。」


「では。」


「は、はい!」


グレゴリーとアルクエイドの遣り取りを見届けたレティーシアは乾杯しようと提案した。グレゴリーとロザリオ侯爵一家も賛同しティーカップを持ち、改めて「乾杯」と宣言するとアルクエイドの頭脳にある記憶がよみがえった






【回想始まり】


アルクエイド(転生者)こと有本理子(仮名)は今日も在宅の仕事と副業を終えた。そのままシャワーを浴びた後にビールを飲み、肴を摘まみながら乙女ゲームをやっていた。因みに理子はヒロインのカリン・スカーレットよりも悪役令嬢のアーシア・ロザリオが好みのタイプである


「カアアアア!今日も酒は上手いわ!!」


メールだよ!


「お、メール・・・・【トモピー】からだ」


【トモピー】とは理子の同性の恋人であり、メールの内容は休みが取れたから一緒にデートしようというものである


「もっちっの・・・・ろんよ♪」


理子は断る事なく二つ返事でOKをした。その後、乙女ゲームは全クリさせた後、そのままベッドに入った


「お休み、トモピー♡」


スマホの待ち受け画面には恋人のトモピーが貼ってあり、画面越しにキスした後、そのまま就寝した。それから数時間後に突然、胸が苦しくなり理子は目を覚ました


「く、苦しい・・・・た、助けて、トモピー・・・・」


理子はスマホに手をかけようとしたがその場で力尽き、誰にも気付かれる事なくポックリと彼の世へいったのである。それと同時にパソコンの電源が勝手に起動し、乙女ゲームのスタート画面が映った後に、赤文字で「ようこそ、転生者」と浮かび上がるのであった





【回想終わり】


「(あっ、思い出した。これって乙女ゲームの世界だ。)」


アルクエイドは乙女ゲームを全クリした後にベッドに眠り、心臓麻痺でポックリ逝った事を・・・・


「(そうだわ、私は悪役令嬢の父親だったわ!)」


自分がやっていた乙女ゲームの悪役令嬢の名前はアーシア・ロザリオで自分がアーシアの父親である事や主人公でありヒロインの名前がカリン・スカーレットだという事も何もかもを思い出したのである。乾杯した後に突然、黙り込むアルクエイドにアシュリーたちは心配そうに尋ねてきた


「旦那様、旦那様!」


「ん、あれ?」


「父上!」


「如何した?」


「ロザリオ侯爵?」


ふと我に返ったアルクエイドは「これは失礼を致しました」と謝罪した


「どうされたのですか?」


「あ、いや、昔の事が走馬灯のように駆け巡ってしまった。」


「走馬灯にございますか?」


「あぁ、まあ、ここまで来るのに色々と思い出してしまって・・・・」


アルクエイド(転生者)は心臓麻痺で亡くなり、いつの間にか乙女ゲームの世界に入り込み、悪役令嬢の父親のポジションになっていた事、知らぬ間に運命(シナリオ)を変えた事に驚きつつも、これで良かったと心底、思ったのである。それを見たグレゴリーとレティーシアはアルクエイドが当主就任した頃を思い出していた


「アルクエイドは19歳の若さで伯爵の当主となり、ここまで来たのだ。本人にとっても忘れられぬ思いがあるのであろうな。」


「トーマスが亡くなった後にこの子はちゃんとやれるかどうか心配だったけど、今では押しも押されぬ立場になったのだから感慨深くもなるでしょうね。」


「ははっ、畏れいります。」


するとグレゴリーも昔を振り返った。国王になってから二十数年の歳月が経ち、息子は立派に成長した事、身内の裏切り、国難にあった際は信頼できる家臣たちと共に歩んだ事等を思い出していた


「うむ、昔を振り返るのも悪くはないな。ワシ自身も色々と苦労があったがこれはこれで良き人生であったとつくづく思うぞ。」


「縁起でもありませんわ、陛下。」


「例え話じゃ、レティーシア。そうじゃろう、アルクエイド。」


「御意にございます。」


「本当に殿方は昔話が御好きですわね、貴方もそう思うでしょう、ロザリオ侯爵夫人。」


「はい、王大妃陛下の仰る通りにございます。」


「おいおい、女同士でワシ等にケチをつけるのか、レティーシア。」


「滅相もありませんわ♪」


「はい♪」


「「あははは。」」


そんなこんなで娘のアーシアはグリードと無事に結ばれ、息子のアルダンはグリードの側近として再び王家に仕える事となった。アルクエイドは改めて運命(シナリオ)を変えて良かったと心底、思ったのである


「これでいいのだ♪」


「何がですか、旦那様?」


「いや、こっちの話よ。」


その後、アルクエイド・ロザリオは90歳でこの世を去った。その1年後、後を追うかのようにアシュリー・ロザリオも81歳でこの世を去った。その後のロザリオ侯爵家は御家騒動&国民たちが起こした革命によってガルグマク王国が崩壊した後も生き残り、元ガルグマク王国領を吸収した後に【ロザリオ王国】を創立したのは先の話である




皆様のおかげにて物語は完結致しました。他の作品も是非、ご覧ください


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