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寝取られ令嬢の反撃①

いつも誤字報告をしてくださる読者様。本当にありがとうございますm(__)m



 そして一週間後。

 南部の花祭りは素晴らしかった。おまけに裏路地で買った、媚薬は二人の愛情をより深めた。もくろみ通り、エドナの機嫌は最高潮だ。

 けれどルーカスは、エドナに愛妾になるように言えずにいた。

 無駄に時間ばかりが過ぎていく。

 そのうち、ルーカスはどうにかなるような気がしてきた。わざわざエドナを不機嫌にしてまで告げる内容ではないように思えてきた。


「わざわざ私が言う必要はない……。そうだ、セシリアが言えばいいんだ。正妻になるのは、セシリアなんだから」


 そう思うと、すっかり気が楽になった。そうと決まれば、さっさと王都に帰ろう。王宮騎士団の仕事も、ずいぶん休んでしまった。


「……も、申し訳ございません旦那様……。馬車の主軸が折れてしまい、修理に少し時間がかかりそうです……」


 青ざめたメイドが言ってきたのは、次の日の朝だった。


「なんだと!? 御者は何をしていたんだ!!」

「そ、それが……。旦那様に叱責されることを恐れたのか、逃げ出してしまい、行方が分からなく……」


 ルーカスは、舌打ちをした。


「なら、さっさと別の馬車を用意せよ。王都へ帰るぞ!!」

「で、ですが……」

「何だ!?」

「花祭りの影響で、空いている馬車はほとんどなく、今、使える馬車は荷馬車くらいのもので……」

「荷馬車!? そんなものにエドナを乗せることが出来るわけがないだろう!!」

「も、もちろんでございます!! 一週間! 一週間お待ちいただければ、馬車は直ります!! どうかそれまで、こちらのホテルで……」

「一週間か……」


 ルーカスは渋い顔をした。

 実のところ、王宮騎士団の仕事を急に休むのに、嘘の理由を申請したからだ。

 「領地問題」である。

 公爵位ほど高くはないが、爵位を持っている王宮騎士団員は他にもおり、急な休みや長期の休みの理由をそう申請していたからだ。けれど実際は、何をしているのか分かったものではない。そう、思っているルーカスは、自分も時々、仕事に行きたくないときや、急に旅行に行きたくなったときに、「領地問題」という理由で休暇を申請していた。


「ペンを持ってこい」

「ここに……」


 すでに筆記用具と手紙を書く紙は用意されていた。ルーカスは上司宛に手紙を書く。


『領地にて、魔の森の活動が思っていたよりも激しくなっております。ブラックシード公爵として、領民の安寧のために討伐を行う必要があります。そのため、休暇を延長させていただきたい』


 ほんの一週間休みを延長するだけのはずだった。

 けれど、馬車の故障が直ったと思ったら、エドナが病気になり、伝染病だったのか、ルーカス以外の一行が全て病気になってしまった。その回復を待っている間に、近隣の村が盗賊に襲われたという情報が入り、領主がその対応をするまで足止めを食らってしまった。

 結局、ルーカスとエドナは一ヶ月もの間、足止めを食らってしまった。

 二人が王都に帰ってきたその日。

 エドナは自分の父が投獄され、母は行方不明になり、さらにはセシリアの小伯爵就任したことを知った。

 それも、パーティーは今日、今、この時だそうだ。

 エドナは、その知らせを知って乱れ狂った。ルーカスは情報を集めた方がいいと説得をこころみたが、エドナを止めることはできない。

 結局、ルーカスもエドナに引きずられるようにしてキャスタール伯爵邸のパーティーに乱入したのである。



   ◇◇◇◇◇



「なんだ、なんだ?」


 狂ったように騒ぎ立てるエドナを見て、招待客は騒いだ。


「エドナ様よ……。あら、ブラックシード公爵もいらっしゃるわ」

「ああ……あれが……」


 パーティーに招待された者たちがエドナとルーカスに向ける目が厳しい。特に年頃の娘や息子を持つ親の世代からの目は、厳しいを通り越して汚物を見るような目である。

 それもそのはず。この二人が婚姻前どころか婚約さえしていないのに、同衾していたという話はすでに広く知られており、評判は地に落ちているからだ。


 もともとエドナはその美貌を盾に女たちを見下す行動をしていたので、もともと同世代の貴族女性に嫌われている。男たちには受けがよかったが、今、そんなエドナの肩を持つような発言をしよう男は、その妻や婚約者によって制裁を受ける。


 王宮騎士団でキャーキャー騒がれていたルーカスも、長年の婚約者を捨てて妹に乗り換えたのでは女たちからの目も厳しい。ましてや、ブラックシード公爵家には、一ヶ月前にはなかったような憂いの種が育っている。商人はいっせいに取引内容を改め、貴族は付き合いを控え、使用人たちの不満は爆発寸前。また耳の早い者は、ブラックシード公爵領から傭兵が流出して、魔物被害が増えてきていることも知っていた。

 招待客たちは、それぞれの立場で、この二人に生温かい目を向けている。


 そんな中、バチリとセシリアとエドナの目が合った。


「お姉様――――――!!」


 まだ距離があるにもかかわらず、エドナは吠えるようにして叫び、セシリアに飛びかかろうとする。

 ビリッ。

 エドナを取り押さえようとしていたメイドのせいで、エドナの豪華なドレスが破れる。破ったメイドは思わずといった様子で、口元を緩めている。彼女はエドナとルーカスがベッドにいるときに、セシリアを引き留めようとして執事長のセバスと一緒にセシリアのドレスを破ってしまったメイドの一人だ。

 セシリアとしては、そんな小さな復讐で気が晴れるわけではないが、いい気味だと思わずにもいられない。

 けれど、当のエドナはそんなことはどうでもいいとばかりに、真っ黒な怒りを背に背負ってズンズンと歩いて来た。


「どうしたの、エドナ? 招待もされていないパーティーに飛び込み参加だなんて、行儀が悪いわよ」

「うるさい!!」


 エドナの金切り声が響く。それまで好奇にざわめいていた客たちも、一瞬静まりかえった。


「お父様が牢獄に入って、お母様が行方不明って……いったいどういうこと!? 答えなさい!!」


 セシリアは扇子で口元を覆った。



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