過去の後輩に似ている新人の話
私は会社の人事に携わる者として、来年度新卒採用する子たちの情報を見ていた。
その中の一人に目を留める。名前には覚えがない。学歴も至って普通だ。
だがその姿に、見覚えがある。
他人の空似だ。そう思いつつ、パソコンを開く。
落ち着け。確かあれは20年も前の話・・・。
私が若いころ務めていた会社に、ある後輩がいた。
たまに飲みに行くくらいの仲で、たいして親しいというわけでもなかった。仕事ぶりは堅実で、一緒に仕事をしていて楽しい後輩の一人だった。
その彼が、ある日突然、事故で死んだ。
葬式には当然出席したが、私はそれを受け入れられず、机が片付けられた後も、いつ戻ってくるのだろうとぼうっとその席を見ていた。
彼のたまにやる小さな悪戯が、たまたま今回派手だっただけだ。
いや、こんなこと彼はやらない。
想像は堂々巡りして、事故の詳細を聞くことさえままならず、私はその件には耳を閉ざしてしまった。
あんなに若い人が、突然いなくなる。
かたや、こうして何事もなく仕事をしている自分がいる。
この世はどうなっているのだろうと思った。
その彼に、似ていて。
まさか。地域も違う。業種もあのときとは違う。この広い国で・・・。
彼の、息子だろうか。
不安なのか、脈が速くなる。苗字も違うというのに。いや、奥様が苗字を変えていたとしたら・・・。
新人について調べるくらい、いいだろう。仕事の範囲だ。
ほかの子より多少調べることが多いのは、気になる情報があったからだ。
しかし、彼について特別自分が思ったような情報は得られなかった。
似ていることもある。彼には、できるだけ関わらないでおこう。
彼は入社し、所属の部署で問題なく仕事をしているようだった。
私とは直接関わりがないため、挨拶をしたり、人事部として声をかける程度にとどまっていた。
知り合いの誰かと似ていることなど、もう忘れていたのに。
ここのところ、彼が人としている会話が気になる。
どこかで聞いたような会話の内容。
それは確かに、誰かの過去にしていた会話に似ている。思想が似ているのだろうか。
それでも、昔のことを語る必要がない。私とその子は関係ない。
ただ思い出すきっかけになるだけだ。
だから彼が体調を崩して、面談をしたときは膝が抜けそうだった。
「私の本当の父は、事故で死んだと聞いて・・・」
どうしてしっかり調べなかった。私はぐるぐる回る胸のあたりを押さえる。
偶然かもしれないのに、彼にあのことを話すわけにはいかない。
余計なことを一言でも、話すな。
自分を強く抑え、私は依然と変わりのない関係を保つように努めた。