表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

過去の後輩に似ている新人の話

作者: ピチャ

 私は会社の人事に携わる者として、来年度新卒採用する子たちの情報を見ていた。

その中の一人に目を留める。名前には覚えがない。学歴も至って普通だ。

だがその姿に、見覚えがある。

他人の空似だ。そう思いつつ、パソコンを開く。

落ち着け。確かあれは20年も前の話・・・。


 私が若いころ務めていた会社に、ある後輩がいた。

たまに飲みに行くくらいの仲で、たいして親しいというわけでもなかった。仕事ぶりは堅実で、一緒に仕事をしていて楽しい後輩の一人だった。

その彼が、ある日突然、事故で死んだ。

葬式には当然出席したが、私はそれを受け入れられず、机が片付けられた後も、いつ戻ってくるのだろうとぼうっとその席を見ていた。

彼のたまにやる小さな悪戯が、たまたま今回派手だっただけだ。

いや、こんなこと彼はやらない。

想像は堂々巡りして、事故の詳細を聞くことさえままならず、私はその件には耳を閉ざしてしまった。

あんなに若い人が、突然いなくなる。

かたや、こうして何事もなく仕事をしている自分がいる。

この世はどうなっているのだろうと思った。


 その彼に、似ていて。

まさか。地域も違う。業種もあのときとは違う。この広い国で・・・。

彼の、息子だろうか。

不安なのか、脈が速くなる。苗字も違うというのに。いや、奥様が苗字を変えていたとしたら・・・。

新人について調べるくらい、いいだろう。仕事の範囲だ。

ほかの子より多少調べることが多いのは、気になる情報があったからだ。


 しかし、彼について特別自分が思ったような情報は得られなかった。

似ていることもある。彼には、できるだけ関わらないでおこう。



 彼は入社し、所属の部署で問題なく仕事をしているようだった。

私とは直接関わりがないため、挨拶をしたり、人事部として声をかける程度にとどまっていた。

知り合いの誰かと似ていることなど、もう忘れていたのに。

ここのところ、彼が人としている会話が気になる。

どこかで聞いたような会話の内容。

それは確かに、誰かの過去にしていた会話に似ている。思想が似ているのだろうか。

それでも、昔のことを語る必要がない。私とその子は関係ない。

ただ思い出すきっかけになるだけだ。


 だから彼が体調を崩して、面談をしたときは膝が抜けそうだった。

「私の本当の父は、事故で死んだと聞いて・・・」

どうしてしっかり調べなかった。私はぐるぐる回る胸のあたりを押さえる。

偶然かもしれないのに、彼にあのことを話すわけにはいかない。

余計なことを一言でも、話すな。

自分を強く抑え、私は依然と変わりのない関係を保つように努めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ