VSドリアード(1)
運と久遠の前に現れた精霊達。その数は優に十を超え、運達は取り囲まれていた。
「お兄ちゃん、きっと彼女達は樹の精霊ドリアードだよ。私も初めてみたけど」
「へええ。珍しいものなのか?」
「少なくとも簡単に人前に現れる存在じゃないね」
「もしかして友好的じゃないのか?」
「そんなことは無いと思うけど……」
「の割には今にも攻撃してきそうに見えるが?」
「もしかして森に火を点けちゃったから怒っているのかも……」
「あ〜、じゃあワザとじゃないって謝らないとな」
運は両手を上げ害意が無いことをアピールしながらドリアード達に近付いた。
「聞いた?」
「聞いた聞いた」
「ゴメンで済ますってさ〜」
「キャハハ〜! じゃあ私刑執行〜!」
近付く運に構えるドリアード達。
「あはは。私、知〜らないっと!」
後ろ足で距離を取る久遠。
「お、おい久遠。そりゃないって」
「あ、お兄ちゃん。後ろ危ないよっ!」
「えっ!? ちょっと待てって!」
運が振り返った時、ドリアード達の攻撃準備は既に整っていた。
「待つ訳なーし! でごじゃる」
「やっちゃえー!」
「リーフカッター! ってぇー!」
「りょーかいでありますっ!!」
放たれる葉は刃の如く運を掠め皮膚を切り裂いて行った。
「痛ぇ! こりゃひとまず守らせてもらわんと」
堪らず運は全身にトラック装甲を纏った。その装甲は葉刃を物ともしない。
「生意気だぁ〜!」
「捕らえてボコれー!」
「蔓を伸ばせ〜!」
「りょーかいでありますっ!!」
続いての攻撃は伸びる蔓を使っての攻撃だった。
「おっと! 流石に素直には捕まれないな」
迫る蔓を回避しながら語り掛ける運。
「ちょっと! 話を! 聞いて! くれよ!」
「聞く訳なーし! でごじゃる」
「捕らえてチョメチョメ、あーっ! だ!」
「蔓の数を増やせー!」
「りょーかいでありますっ!」
「くっそ、キリがねぇな。仕方ねぇ、ちょっと痛いけど我慢してくれよな」
運は蔓の隙間を縫うようにかわしながらドリアードとの距離を一気に詰めた。
「峰打ちだから勘弁してくれよ!」
背後を取ったドリアードの一体をワイパーブレードで攻撃する運。しかしその攻撃はドリアードの体を擦り抜けただけだった。
「なにぃ!? 切った感触がねぇ!?」
隙を見せた運はしなる蔓に撃ち落とされて地に叩きつけられた。
「痛ぇ……が、流石はナヴィ。装甲の内側にはクッションシート内蔵か、おかげで衝撃耐性もなかなかだな」
ブレードを支えに身体を起こす運。
「コポォ! 精霊に物理攻撃とか」
「バカなの〜?」
「死ぬの〜?」
「ねぇねぇ。安楽死の薬欲しい〜?」
笑い転げるドリアード達。
「だめ! お兄ちゃん! 精霊には実体がないから物理攻撃じゃ倒せないよっ!」
「げ! マジか!?」
「ここはオナラファイアじゃないと!」
「バックファイアだ!」
「ギャーハハハ! ケツから火を吹く人だ〜!」
「臭そうでごじゃる! 臭焉の業火オツ〜!」
「くっそ、馬鹿にしやがって!」
「待って! これは私達を笑い死にさせる作戦!」
「キャハハ〜、私達の弱点属性だ〜!」
「お前ら、一回泣かせてやるからな!」
「お、オナラこく気になった〜?」
「でも、もう遅いけどね〜!」
「まだ気付いてないのかな〜?」
「そろそろ効き目出るんじゃない?」
次々に囃し立てるドリアード達。
「は? 何言ってんだお前ら……って、あれ?」
運は急な目眩に襲われ、膝を屈し両手を地についた。
「何だ? 急に目が回って、くそ。体も痺れて来やがった……う、吐き気まで」
「デュフフ! 状態異常コンボでごじゃ〜る」
「毒、麻痺、混乱。はいサイナラ〜」
「くっそ、体が言うこと効かねぇ」
ドサリと音を立てて運は潰れるように大地に倒れた。
「いけない! お兄ちゃん、生身は普通の人間なのに!」
「ねぇねぇ、いつの間に攻撃されたか知りたくない〜?」
「キャハハ〜! 教えてあげないくせに〜」
笑い転げるドリアード達をよそ目に久遠は運に近寄った。
「大丈夫お兄ちゃん! 今治すからっ! ヒール!」
「助かった、ありがとう久遠」
「ううん、私のことは良いから……きゃあ!」
次の瞬間、久遠の身体は蔓を巻き付けられ、上空に引き上げられた。
「久遠!」
「キャハハ〜、邪魔は良くないよね〜」
「まぁ待つでごじゃる。見ればなかなかに可愛い幼女。これはこのまま触手で悪戯が定石でごじゃろう」
「それはいやあ〜! 助けてぇ〜! お兄ちゃぁ〜ん!」
「くそ! 待ってろ久遠!」
「ダメダメ〜。そうはさせないのであります」
「ま〜たすぐに状態異常にしてあげちゃうじゃん?」
「お兄ちゃん気を付けてっ! 状態異常を引き起こすのは花粉や胞子……むぐっ!?」
久遠の口に蔓が突っ込まれた。
「デュフフ、お口は塞ぐでごじゃるよ」
「キャハハ〜、なんかヤラシ〜!」
「久遠! くそ、迂闊に呼吸も出来ねぇってのかよ!」
「今更息を止めても無駄じゃ~ん?」
「いつまで続くかな〜?」
「くそ、こうなったら躊躇ってる場合じゃねぇ。バックファイアを使うしか……」
その瞬間、口を塞ぐ蔓を噛み千切って久遠は声を上げた。
「駄目お兄ちゃん! 罠だよ! 多分お兄ちゃんの周りは引火性の花粉で囲まれてるっ!」
「なんだって!?」
「このままバックファイアを使えば大爆発! つまりお兄ちゃんはオナラのせいで死!」
「!! それだけはマズイ!!」
運は再び膝を屈することになった。