第7章「社員教育って大事だよね」
新章突入させちゃいました。よろしければどうぞご覧ください。
パリッとしたスーツに身を包み、キラリと光るサングラスを掛け、ピカピカに磨きあげられたオフロード車を颯爽と運転する姿なら、どこかのやり手の社長か実業家にでも見えたかもしれない。
残念ながら、オフロード車は見事に泥が跳ね上げられ、サングラスは釣り用の偏光サングラス、Tシャツにジーンズ姿。ケンゾーだ。
仕事が終わり、依頼主に請求書を持って行くところだ。簡単なホームページメンテナンスのはずだった…
「…ピータどう思う?」
『アクセスカウンターの表示異常。実際のアクセス数と合っていない。また、このホームページを作成したソフトのバージョンが20××年と古く、なおかつライセンス未取得で、コピーしたソフトを使用し作成されたものと思われます。そのためソフト発売先のユーザー登録にも未登録状態。ただし、その事とアクセスカウンターの異常については無関係と思われます』
「うん。まあ、違法ソフトで作ったサイトをウェブ公開したらまずいわなー。アクセスカウンターの異常は、バージョンとか関係ねーしな?」
「おい!てめーら!邪魔したら殺すぞ!!」
そう言って小太りの男がサイトの奥から歩いてきた
「誰…ですか?」
あっけにとられたケンゾーが聞いた。「俺はタナカショウ!エリミネータだ!見たところお前もエリミネータだな!サイトのメンテナンスを頼まれたんだろうが諦めろ!」
「はぁ…そうですか…」
ケンゾーは思った。名前を聞いた訳じゃないんだが。素性を明かせ、ここで何をしている、という意味だったのに通じなかったのか?挙げ句の果てに、『諦めろ!』と来た、いろんな意味でヤバくなりそうな気がした。
タナカと名乗った男はさらに続けた。
「俺は【強化】の中でも【削除】に関する、いわゆる攻撃系を最強化している。ノーマル強化じゃ俺の相手になんねーぞ!!見逃してやっから帰れ!」
「…あのぉ、一応何をしてらっしゃるのかだけ教えてもらっても?」
「ウゼェ!失せろ!!」
まあ聞かなくても大体見当はつくが、サイトの破壊だろう。ぶっ飛ばす前に理由を聞いておきたい。
「一応…依頼主に理由を説明するので…理由が…」
「あ゛ぁ?うるせーな!店員の態度が気に入らねーんだよ!失せねーとマジで殺すぞ?」
「はい…すいません」
そう言ったケンゾーはタナカに向け、空間ロックをかけた。
「?あれ?なんだ?サイトが壊せねえ!つーか俺の周りの空間ロックされてる?チッ!おいおめー!つまんねー事してっとぶっ殺すぞ!」
「はい、はい。そんなに強化したなら空間ロックぐらい破ってみろってーの」
ケンゾーは無視して、タナカが破壊したと思われるアクセスカウンターや、サイト内部のデータ修復を半分程度完成させた。
作業をしながら、ケンゾーは考えていた。
ライセンスの必要なソフトをライセンス未取得のまま使用してしまうような非常識なショップだ。
タナカの言う通り店員の態度も悪かったのだろう。
頭に来た気持ちも判るが、破壊行為と自分に対する言葉づかいは許しがたい。『殺す!』とかそんな簡単に口にして良い言葉じゃない。ヨシヒロには結構使うが。
反省してもらうには最適な場所へご案内することにした。
空間ロック状態のままタナカをサイバーポリスの通報サイトに送った。
「てめー!!なにやってんだ!覚えとけよ!!」
それがタナカの最後のセリフだった。
「なーにが『覚えとけよ!!』だ。お前は悪の怪人か!」 その陳腐なセリフにやる気を削がれてしまったケンゾーは釣りにでも行こうかとそこで作業を切り上げた。