第5章「自信過剰を優しくさとすのは面倒くさい」
「はあ?自宅サーバかよ!自分は絶対に探知されないとでも思ってんのかね?なに?自信家?というより自信過剰だな」
サーバに到着したケンゾーは少し驚いていた。
目眩ましにサーバを経由させることは珍しくもないが、データを自宅パソコンに収集する事は、自分の位置を知られる危険があるので、そんな間抜けなことをするプログラマーはまずいない。
「結構感染してんのな。ひっきりなしにデータが送られて来るな。こんなにデータ集めてどうするんだ?このデータの山を見る限り、データを使う気はなさそうだし…」
送られて来たデータは、整理されることなく山積みになっている。
「こっちからモーションかけてみるか?面倒くせー」
パソコンの情報から使用者は【オオツカイツキ、33歳】と判った。
ケンゾーはオオツカがパソコンを使用してることを確認すると、パソコンの画面上にメッセージを表示した。
『おい!オオツカ!オレはエリミネータだ!お前のプログラムしたウィルスはオレが削除した!ザマーミロ!』
反応がない。戸惑っているのだろう。無理もない。突然画面上にメッセージが表示され、自分のウィルスを撃破した、というのだ。何より自分の居場所を知られてしまったのだ。
しかし、5分で返信メッセージが表示された。
【ふーんあっそ。エリミネータ?だから?ウィルス削除?だから?(_´Д`)ウィルスとかまだ感染拡大中ですから(笑)】
ケンゾーは今すぐ現実に戻り、殴ってやりたい気持ちを抑え、さらにメッセージを続けた。
『あのさー、そのウィルスのせいで迷惑してる人もいるんだけど!どーなの?』
その一人が自分だと言いたかったが、なんとなくオオツカが喜びそうな気がしたのでグッと我慢した。
実際、携帯の件から迷惑をかけられっぱなしなのだ。おかげでウィルス退治をヨシヒロに頼まれてしまった。しかも無償で!だ。
【迷惑?しらねー(笑)今時ウィルスに対する警戒が足りないんじゃないの?あんたには判るんだろ?送られてくるデータの量が!すぐにこの100テラバイトのハードディスクがいっぱいになるぜ!楽しくてしょうがねーよ(*´∀`)♪】
確かに今のペースでデータが送信されれば2〜3ヶ月で100テラバイトのハードディスクも埋まりそうだ。
『うんすごいね(笑)ウィルス対策不足も認めるよ。じゃあ、データを集めるだけのためにウィルス作った?』
ウィルス対策不足などチョッとは同意できる部分もあったため、あえて気さくな感じの文章で返してみた。
【データ収集が趣味ですが何か?(笑)ウィルスプログラミングが趣味ですが何か?(笑)俺って超凄くないですか?(笑)】
『あはは。うんそーだね、判った。俺はウィルス削除が趣味ですが何か?(笑)』
ケンゾーは怒りを通り過ぎて呆れてしまった。
メッセージを流すと、もうオオツカの返事を読む気にもならなかった。
ケンゾーはすぐにサーバになっているハードディスクを初期化し、データをキレイに削除した。
ついでにオオツカのパソコンも、ハードディスク内のディスクが器械の限界を超えたスピードで回転するようにデータを改変した。
これで、オーバーワークを強要させられたハードディスクは回転速度が上がり過ぎて煙を上げて壊れてしまうだろう。
『エリミネータの俺がウィルス使うのも如何なものか…』
オオツカが電源を切る強制停止で、パソコンが無事だったら…それは許しがたい。システムデータを含むパソコン内部の全てのデータを消去して自らも消滅するコンピュータウィルスを1時間後に活動するようにセットし、サーバを後にした。
すぐに現実世界に戻りたかったが、ウィルスを野放しにしてはおけない。
自宅に戻ったケンゾーは今回のウィルスに対応した自動追尾機能付きのワクチンを電子世界に放った。
これで、少しは被害が減るかもしれない。しかし、ウィルスに対する自己防衛がなされていなければ意味がない。それは判っていたが、放っておくのも気分が悪い。
「あーぁ、面倒くせーし、赤字だし。あとは知らねーぞ!自分でデータ守れよ。なあピータ」
『ピュ!』
そう言って現実世界へケンゾーが戻ったときには日付が変わっていた。