第1章「幼なじみの話しはだいたい面倒くさい」
「また釣りか?どうせ釣るなら食べられる魚でも釣って来いよ」
「うるせぇよ。今日はデカイの持って来てやるから楽しみにしてろ。美味いと思うぞ、元々食用だしな。俺は食ったことないけど。死にたてほやほやの新鮮なヤツな」
「他人に食ったことないのを奨めるのはやめろ。死にたてほやほや…嫌な言い回しするなよ。新鮮な感じがしねーよ。食欲が失せる」
ケンゾーは趣味のバスフィッシングに出掛けるため、アルミ製のボートの牽引準備をしていた。
エリミネータの仕事のおかげで、なんとか愛車と自前のアルミボートを持てる程度の収入はあった。
「いいねぇ エリミネータさまはボートを持てるような余裕があって!」
ボートを軽くコンコンと叩きながら、幼馴染のヨシヒロがタバコの煙を鼻の穴から吐き出しながら、悪態をついて見せた。
「お前こそ仕事はどうした。朝っぱらから遊びに来やがって。ついにクビか?リストラか?クビだろ」
ケンゾーはボート上での準備の手を止めず返事をした。
「ふざけんな。こっちは夜勤明けでフラフラだっつーの。せっかく仕事持って来てやったってのによ」
「仕事?いい!パス!いらん。持病の【面倒くさい病】が…帰って寝てくれ」
左手で、あっちに行け!とばかりにシッシッとしながら言った。
「なんだよそれ!いいから俺の携帯見てみろよ」
「知るか。修理なら携帯ショップに持って行けよ。面倒くせーな」
準備を終えたケンゾーは、しつこく『見ろ!』と迫るヨシヒロを振り払うと愛車に乗り込みキーをひねった。
オフロードタイプのケンゾーの愛車のモニターには『wait…STAND by』のオレンジ色の文字が浮かび、音も無くリニアエンジンが起動した。
ケンゾーは目的地の湖に向けてアクセルを踏みこんだ。
「じゃあなーヨシヒロ。さっさと帰って寝ろよ!」
運転席の窓を開け腕を振って大きくバイバイをした。
1時間のドライブで目的地に到着し、ケンゾーは早速ボートを出した。
遠投したルアーにブラックバスがヒットし、ケンゾーはその引きを楽しんでいた。そんな時、ケンゾーの携帯が警告音を発した。『不正アクセスです。不正アクセスです。』
「不正アクセス?ピータ頼む」
携帯に待機させていたピータに不正アクセスの詳細を調べさせた。数分後、再び携帯のボイスシステムからアナウンスが流れた。
『先ほどの不正アクセスについて報告します。不正内容は電話番号、メールアドレス及び登録者情報の搾取です。不正アクセス先は当携帯電話登録番号0143ヨシヒロ氏の携帯電話からでした』
「ヨシヒロ?あの馬鹿」
ケンゾーはすぐにヨシヒロに電話をした。何度か呼び出し音がなりようやくヨシヒロが電話に出たが案の定寝ていた。
「で、携帯は見に来てくれるんだろ?」
「やだ面倒くせー」「幼馴染が困ってるのに、面倒くせーはないだろ」
「困ってる?平気で寝てたやつのセリフか!」
結局、釣りの後に行くハメになり、最後にヨシヒロは『また寝るから着いたら電話して』と言い残して電話を切った。
「面倒くせーな」
ケンゾーはまたバスフィッシングに夢中になった。