緊急事態と初陣
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「エマージェンシー、エマージェンシー、ドラゴンがハイド鉱山付近に接近しています。討伐者の方は直ちに対処してください」
え、ハイド鉱山ってここのことじゃなかったっけ?
「あそこだ!」
大男の指す方向に視線を向けると、大きなドラゴンが空を飛んでいた。
マジかよ、いきなり全く望んでいない展開。
よくあることと言えばよくあることだが、それは勇者に起こるものだろう?
村人Aのもとにドラゴンは普通来ないでしょうが。
「あれがドラゴンですか?」
もはやドラゴンである確信はあったけど一応訪ねてみた。
「そうだ、最近放送されていたドラゴンがここに出現したということだ」
いやいやそこまでは大体わかってるよ。
問題はこの後どうするかってことだけだ。
「ギルドに帰っている暇はないな。ここは鉱山の中の討伐者たちと協力して我々だけで対処するしかないようだな」
あの、俺まだ適性試験中だぜ?初心者討伐者をそんな大事に巻き込まないでくれ。
しかたない、なんとかしてこの場から避難しよう。
「俺、ギルドから応援呼んできます」
使いモンにならない俺よりもギルドの連中の方が何倍も優秀なはずだ。
こいつも危険な目には遭わせないとか言ってたし許してくれるだろう。
「その必要はない。既にギルドにも連絡は届いているはずだ。君には中の討伐者を呼んできてもらいたい」
「流石に俺だけでは限界がある。大丈夫、君には被害が及ばないようにする」
いやいや、この場にいるだけで既に危険なんだって。
君は俺がチート能力者でないことを知らないのかな?
「俺、中の構造とかわからないんで討伐者の方たちがどこにいるかなんてわかりません」
中の人もそのうち出てくるだろうし、それまで何とか一人で耐えてくれ。
あんたが言ったはずだ。
生死は問わない、自分で勝手に頑張ってくれって。
なら、俺がここで逃げてもあんたには関係ない話だろ?
「問題ない!鉱山の中は一本道だ。まっすぐ行けばそのうち出会える」
なんで鉱山の造りそんなに単純なんだよ。
それと俺を協力者だと勝手に決めつけるのはやめてくれ。
あんたみたいなNPC一人の為に命張るほど俺は安くない。
「中にはモンスターもいますし、僕一人ではたどり着けません」
察してくれ、明らかに嫌がっていることに。
「つべこべ言っている暇はない!その辺の雑魚なら君でも倒せる。先ほどのモンスターほどの奴しか出てこん」
なんで俺に対してそんなに強く出れるの?
そんなやり方じゃ討伐者になろうって奴は増えないよ?
「急げ!俺はドラゴンの方に先に向かう。君は応援を呼び次第、ギルドに帰って避難しておけ!よし、行くぞ!」
こっちの言い分には聞く耳を持たないのはいつもなのね。
わかりましたよ、あなたがドラゴンと戦いに行ったことを確認したら俺もギルドに帰りますので。
「わかりました!ドラゴンの方は頼みます」
恨むんなら俺じゃなくてドラゴンが来ることを予想できなかった自分を恨んでくれよな。
んじゃお疲れさん。
大男ことジャックはドラゴンのもとへ行くために鉱山の付近の森に入っていった。
ようやくうるさい奴が消えてくれた。
さてと、俺もそろそろ帰りますか。
一応ギルドに着いたら報告はしておいてやるからそれまで一人で持ちこたえてくれ。
後の事は知らん。
数分後、ジャックが見えなくなったのを確認した俺はギルドに帰ることにした。
「いやー、なかなか奥のモンスター手強くなかったか?」
「まあ、一応討伐できたし帰って報酬もらおうぜ」
俺が歩き始めた矢先に討伐者が鉱山の中から出てきた。
もっと早くに来てくれたら、俺もさっさと帰れたのに。
まあジャックにとってはタイミング良かったのかな?
この状況になってしまった以上何も言わずにそのまま帰るというわけにもいかない。
一応、こいつらにジャックの事を報告して帰るとするかな。
「あ、討伐者の方ですか。先ほどドラゴンが現れまして、現在ジャックさん一人で討伐に向かっています。救援をお願いします」
うっす、あとはよろしくお願いします。
「なに、ドラゴンだと。ジャックさん一人じゃ限界がある。俺たちもすぐに加勢に行くぞ!」
勇者ですねぇ、俺はあんな化け物みたいな奴に向かってはいけないよ。
まあこれでこの後もお咎めなしになるだろう。
「君、報告ありがとう。では、すぐに加勢に行くぞ」
え、俺は行かないですけど?
「すいません、俺まだ今日が初心者でジャックさんに報告したら帰っていいと言われてるんです」
大義名分はあるし、あんたらにどうこう言われる筋合いは何処にもないはずです。
帰らせてください。
「何を言っているんだ、この状況じゃ一人でも多くの討伐者が必要だ。ジャックさんは優しい人だから君を危険にさらしたくなくてそう言ったんだろうが、本当は君にも来てほしかったはずだ。とりあえず俺たちと一緒に行くぞ。場所はどこだ?」
べらべらべらべらと話しやがって。いかねぇって言ってるもんはいかねぇんだよ。
あいつが優しいわけねぇだろうが。
勇者ごっこなら俺のいないところでやってくれ。
やむを得ない事情でこんなとこまで来た俺にはあんたらの生死なんてどうでもいいんだ。
それに、まだ討伐者でもない俺が行っても足手まといになるだけだぜ?
「向こうから攻めてきました。ジャックさんもほんの数分前に行ったばかりなのでまだ戦闘にはなっていないと思います」
「よーし、お前ら。討伐終わりで疲れているだろうがもう一仕事頑張ってもらうぜ!進軍だ」
流石討伐者さんたちは意識が違うね。
あいにくだが俺にはそんな立派な考えはない。
自分さえ助かればそれでいいと思ってるからね。
「あの、僕お手洗い行ってから追いかけますので先に行っておいてください」
もう、報告もしたんだし俺の役目は終わったはずだ。
ジャックも自分が帰っていいと言った手前何も言ってこないだろう。
「あ、俺も小便してからこの子と一緒に行きます」
「ボンバレがいるなら追いついてこれるだろう、では後ほどな」
は?なんでついてくるんだよ。
お前は小便してないで早く行けよ。
こいつワンチャン行きたくねぇんじゃねぇのか?臆病者が。
小便野郎と俺を残し、他のメンバーは先に森の方へ入っていった。
俺とボンバレと呼ばれる男で連れションすることになった。
こんなおっさんと連れションしなきゃいけない異世界って何?
「君、いきなり連れてこられてドラゴンなんて大変だね。もうひと踏ん張りだから頑張ろう」
「はい!一緒にドラゴンを討伐しましょう」
よし、適当に転んだふりでもして先に行ってもらおう。
お疲れさん。
「よし、トイレは済んだな。では追いつくぞ、俺の背中に乗れ」
転びにかかった俺に対しておっさんは背中に乗るよう強要してきた。
え、なんで背中?付き合ってるカップルでもないのにそんなことしたくないですけど。
「いや、自分で走れますよ」
「そうじゃない、俺の能力は『加速』だ。足が5倍の速さになるんだ。俺の足の速さは大体時速20kmだから最高速で時速100kmはでる。振り落とされるなよ」
なんで、そんな都合よく俺を連れていけるような能力なんだよ。
まああんたもそんなしょうもない能力で災難だね。
討伐者で移動系の能力ってもはや死んでるようなもんだからね。
真っ先に死ぬパターンだからね。
とはいえ、流石にこれ以上駄々をこねると俺の今後に関わってきそうなのでとりあえず行って役に立てることもないので適当に逃げ回とこ。
「分かりました。それではお願いします。道が複雑ですがまっすぐ行けばたどり着けます」
本当にたどり着けるかどうかは知らない。
ていうかたどり着けるわけがない。
鉱山と違って森が一本道なわけないからな。
それに、たとえ無理だとしてもドラゴンが移動したってことで言い逃れできるだろう。
「よし、最高速で行くぞ」
俺がおっさんの背中に乗った瞬間、まるで高速道路を走っている車に乗っているほどの速さで森に入った。
息が出来ないくらいのスピードが出て、振り落とされないようにしがみついた。
あっという間に森を抜けるとジャックとドラゴンは既に戦闘を開始していた。
ドラゴンは飛翔しながらジャックを上空から狙い打っていた。
なんでまっすぐ行った先にいるんだよ。もっと曲がったりしろよ。
「ジャックさん、ただいま到着しました。加勢します」
「ボンバレと遠藤君か。ありがとう遠藤君、よく逃げずに来てくれた。君の勇気ある行動を俺は称えるよ」
いや、無理矢理連れてこられたんですけどね。
ていうか、称えるとかじゃなくてさっきみたいに帰っていいって言ってください。
「カルムたちはまだ来ていないのか?」
「俺たちより先に行ったはずなんですけど、まだ来ていないみたいですね。道が複雑でまだ迷ってると思います」
後から来た奴に追い越されてんじゃねぇよ。
くそ、ポンコツどものせいで俺にまで迷惑が。
「よし、ではこの場は三人で凌ぐぞ」
「はい!」
元気のいい返事はいいですが俺にできることないですよ?
ひとまず森の陰に隠れておこう。
「奴の能力はまだ不明だ。まずは奴の能力をださせなければならない」
そういえば、白髭がドラゴンには能力があるとか言ってたな。
こいつが目当てのドラゴンなんだったらこいつに能力があるってことか。
「すいません、能力が使えなければ倒せるのですか?」
一応、能力使用不可にくらいならできますけど、どうですか?
「そうだ、ドラゴンの体当たりや炎等は強力だが能力に比べれば大したことない」
その割にはあんたボロボロだけどな。
かっこつけんなよ。
「能力がどのようなものを把握するのも重要だが、その対策も考えないといけない。カルムたちが来るまでにできることをするぞ」
なるほど、じゃああいつらが来るまで待てば何とかなるわけだな。
全く使えない能力だと思ってたけど、役に立てるなら使ってやってもいいけど?
「俺の能力は『無効化』です。奴の能力を封じて後続の方たちを待てば何とかなります」
あれ?君たちに『無効化』とか言ってもわかるかな?
能力の説明いる?
「何を言っているんだ!『無効化』は神イカロス様の能力だ。君が持ってるはず無いだろ!」
あ、神設定ね、オッケーオッケー。
大体わかってたけど全然それっぽくはなかったな。
「本当です。そのイカロス様に能力を授かったんです…」
「待て!ドラゴンが来るぞ!ボンバレ!」
ドラゴンは既に上空から地上に降り立っており、俺たちに向けて体当たりをかました来た。
体格の大きさから当たればただでは済まないだろう。
「はい!二人とも俺の背中に乗ってください」
ナイス、スピード君。こういう時にしか使えない能力だけど。
スピード君の背中に乗り、ドラゴンの炎をギリギリのとこでなんとか躱せた。
「くそ、このままじゃジリ貧だ。よし、じゃあカルムたちをこちらから探しに行くぞ」
「ジャックさん、それだと俺たちとすれ違うかもしれません。とりあえずドラゴンの動きを止めましょう」
「仕方ない、では先にドラゴンをひるませてからカルムたちを探すぞ」
スピード君に再度俺たちを背中に乗せてそのまま森に入るようにジャックが促した。
まあ俺としては大人数の方が逃げやすいからいいけど、俺の提案を無視されたことは何か腹立つ。
「遠藤君、俺のボウガンだ。俺とボンバレが注意を引き付けるから君は隙があればこれを撃て」
ジャックの腰にぶら下げていた小さいボウガンを手渡された。
え、何で俺が攻撃係?
陽動さえ嫌なのにどうしてドラゴンに狙われそうな役割をさせるの?
君は初心者を使い捨ての駒としか見てないパターンの中ボス的な人なんですか?
てか、ボウガンの使い方教えろや。初心者だっつってんだろうが。
「ボンバレ、俺の能力は把握しているな?」
「勿論です、『加算』、対象の能力を上げる効果ですよね」
「そうだ、俺とお前の能力で相手を翻弄するぞ」
え、それって足がとんでもなく早くなるだけじゃないすか?
ギルドの長が聞いて呆れるぜ。
ていうか、すいません。
今んとこしょうもない能力にしか出会ってないんですけど、もしかしてこの世界ってそういう系の能力しかないんすか?
「遠藤君、頼むぞ。討伐開始だ」
は?ふざけんな。
こいつ俺の事危険な目に遭わせる気満々じゃねぇか。
やっぱあんな言葉あてにするべきじゃなかった。
号令と共にジャックはスピード君の背中に乗って、ドラゴンの周りをうろうろし出した。
能力の掛け合わせと言うこともあってさっきよりも相当早いスピードで翻弄していた。
え、それ何の役に立つの?
ボウガンの使い方がわからないとか言って戦わないでおこうかな。
ダメだ、さすがにこの状況で逃げ出すことは自分の身にも危険が及ぶ。
とりあえず、今までに見たことのあるボウガンの使い方だと、これを引けばいいんだよな…
かってぇ、俺にこんなもん引けるかよ。
ボウガンのレバーは思っていた以上に固く、俺の力では到底引けそうになかった。
イコール攻撃もできません。QED
いやいや、しょうもないこと言うてる場合ちゃうねん。
何とかせな。
もうしゃあない、ここはワシの火事場の力出すしかあらへん。
うおおおおおおおおおおおおおお。
今の顔めっちゃブサイクやと思う。
…よし、なんとかレバーが引けた。後は射るだけだ。
「遠藤君!まだか!」
ジャックはドラゴンを翻弄しながら俺に呼び掛けてきた。
ちょ、ちょっと待ってくれ。今引き終わったとこでヘトヘトっす。
「早くしてくれ、こっちももう余裕がない」
あの…今のとこあなたたちの良いとこ何一つとして見てないんですけど、もしかして偉そうにしてるだけの人ですか?
だが、今はチャンスだ。
ドラゴンはあいつらに気を取られる。
撃つなら今しかない、行け!
(バン!)
俺はボウガンを引くと共にその反作用で反対方向に飛んだ。
俺の体は留まることを知らず、内臓は破裂しそうなくらいに傷ついていた。
何とか森の木に当たって止まってくれた。
(ドン!)
ボウガンはドラゴンに命中した。
ドラゴンは悲鳴を上げることなく、その場に平伏した。
「よし、遠藤君よくやった。ドラゴンがひるんだぞ。今のうちにカルムたちを探しに行くぞ、ボンバレ」
「はい!遠藤君すぐに戻る」
そう言って、ジャックたちは超スピードで森の方に消えていった。
ひとまずは安全みたいだが早く戻ってこい。
もう体はボロボロだよ。
このボウガン、威力は絶大だが俺の体では負担が重すぎるわ。
皆さんの意見や批評など、よろしければ何でも送ってください。
なにぶん素人なので、より面白いものを読者の皆様と作っていけたらいいなと思っております。
よろしくお願いします。