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時を超える  作者: ひばな
イカロス編
6/66

大男とクエスト

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 気が付くとベッドの上にいた。

 どうやら昨日、あのまま眠ってしまっていたみたいだ。


 白の世界はただ単に夢だったみたいだが、どうせさっきの白髭が俺に見せた物だろう。

 ド定番だが、またギルドに行かないからと言って夢に出てこられるのも面倒ではある。

 とりあえずドラゴン討伐に行くかどうかは今後考えるとして一度見るだけ見に行ってみよう。

 確かに面倒ではあるが、店の開店までは特にすることもないので時間つぶしとしては丁度いいだろう。 

 まあ色んなラノベやアニメを見てきたのもあって一応憧れてたしな。


 朝の準備を済ませ、カエデさんの部屋を訪ねることにした。


「カエデさん、朝早くにすいません。少しいいですか?」


 ノックをしてドアの前で話しかけた。

 流石にいきなり何も無しで部屋に入るのは紳士としてよろしくない。

 ハルカさん(メインヒロイン)でないとしてもサブヒロインの皆さんにも気を遣えるようなみんなが羨む主人公でいたい。


「どうしたの?私に何か用事?」

「ちょっと聞きたいことがありまして、ギルドの場所を教えてもらっていいですか?」

「え、ギルドに行くの?」


 カエデさんは驚いたトーンで俺に返答した。

 そりゃそうだ。

 一昨日来たばかりの奴がいきなりギルドに行きたいとか言い出したらこの反応は当然だ。


「はい、ちょっと見てみたいかなって思いまして…」

「そうなんだ。いいよ。ちょっと待ってて」


 俺はその場で静止しながら待機させられた。

 この時何を考えていたかと言うと、「早く出てきてくれないかなー」でしかなかった。


 10分後、中から可愛らしい服装のカエデさんが出てきた。


「うわっ、びっくりした。部屋の前にいたの?」


 カエデさんはドアの前で待つ俺を見ると驚いてしまった。


「自分の部屋にいてくれてよかったのに…」


 じゃあ先にそう言って。

 すぐ出てくると思うじゃん。

 10分も待たされるとは思わないじゃん。


「ギルドはね、ショップの隣にあるよ」


 俺はカエデさんが話し終えてから少し時間を取ったが、その後特に何も話そうとはしていなかった。

 え、それだけ?じゃあ何のために10分も待たせたの?

 時間の無駄でしかないんですが。


「そうですか。ありがとうございます。じゃあ行ってきますね」


 めちゃくちゃ無駄な時間を取られたが、ギルドの場所はわかった。

 一応どんなものなのかショップの時同様、場の雰囲気を堪能するだけしに行こう。

 

「ねぇ、この服どう思う?」

 

 カエデさんの部屋から立ち去ろうとした俺に対して質問を投げかけてきた。

 どうって言われても、あなたは何着ても可愛いと思いますよ。

 今日の呼び込みはそれで行くつもりですか?いいと思いますよ。


「似合ってますよ。カエデさんは何着ても似合いますよ」

「そ、そうかな…ありがと…」


 カエデさんは急に照れながら頭をポリポリと掻き出した。

 二次元の世界の女の子しかしない仕草をカエデさんは見事やってのけたのだ。

 素晴らしい、ありがとう。いいもの見れました。


「じゃあ店が始まる前にさっさと行って帰ってきますね」

「うん、いってらっしゃい」


 俺は店を出て、ショップに向かった。


 確かショップの隣だったよな。

 えーと…あった。ここがギルドか。思ったより小さいな。

 中に入ると騒然としていた。


「おい!ドラゴン討伐のパーティーはできたのか!」

「ドラゴンだけじゃねえ、ウイト川の付近にわいてきたゴブリンどもはどうすんだ」

「おい、このクエスト行った奴誰だ。全然討伐できてねえじゃねえか。報酬だけ受け取ろうとしやがったな」


 うるせぇ。静かにしろよ。異世界転生者様のお通りだぞ。


 俺はとりあえずギルドの説明を受けるため受付嬢の女に声をかけた。


「いらっしゃい。今日はどんなクエストを受注しますか?」

「あ、すいません。私ギルドの説明を受けに来たんですけど」

「初心者の方ですね。かしこまりました。では、奥の部屋でお待ちください」


 俺は言われるがままに奥の部屋に行った。


 中には学校みたいに机と椅子が置かれており、既に数人の男女が座っていた。

 ホワイトボードと教卓が前の方に置かれていた。

 恐らくこいつらも初心者で説明を聞きに来たのだろう。

 

 それにしてもどいつもこいつも弱そうだな。

 ガリガリの男(ガリガリ君)、顔面シミだらけのおばさん(おばちゃん)、眼鏡をつけたがり勉っぽい奴(眼鏡君)。

 こんな奴らがモンスター討伐なんてできるのかよ。

 まあ俺が言えた義理じゃないけど。

 ていうか俺は行かないけど。


 暫くすると全身鎧を纏った大男が教卓の前に立ち俺たちに向けて講義めいたものを始めた。


「諸君、よく集まってくれたな。俺はこのギルドの長をしているジャックだ。よろしく」

「よろしくお願いします」

「まず、諸君はこのギルドというものがどういったものかご存じだろうか?では、答えられるものは挙手を」


 誰も手を挙げようとはしなかった。

 様子を見る感じ、誰もギルドのことを知らずに来たみたいだ。

 主人公補正で既にどういう場所かは知っているので悪いね、素人諸君。


 俺は手を挙げた。


「はい、そこの君」

「えっと、パーティーを組んでモンスターを討伐する集会所のようなものでしょうか」


 はい、完璧ですわ。

 おどれらとワシでは見てきた異世界の数がちゃうんですわ。

 

「大体正解だね。少し補足しておくなら、パーティーは必ず組まないといけないものではない。一人つまりはソロで討伐に行く人間もいる。それとギルドを通さなくてもクエストに行くことができるが報酬が出ない」


 ちょっとずれてたみたいやわ。

 まあそういうギルドもあるのは知ってたで。


「討伐すると報酬がもらえるんでしょうか?」


 眼鏡君が大男の言うことをメモしながら、質問を投げかけた。

 こんなとこ試験に出ないからメモする必要はないんだよ?


「もちろんだ。難易度に見合った報酬が発生する。あと、討伐者にはレベルという概念が存在する。レベル1~レベル10まである。クエストをこなすことでレベルが上がっていく。自分のレベルに見合ったクエストを受注することをお勧めする。最後に、一つ付け加えておくなら、討伐先の生死はこちらとしては一切の責任を負わない。死んだら自己責任だ。以上が大まかな説明だが何か質問はあるか?」


 さらっと恐ろしいこと言ったな。

 要するに勝手に自分でクエスト受注して、死んでも責任は取らねぇってことじゃねぇか。

 まあそれなりの報酬がもらえる以上は命も張れってことか。

 それよりもお給料が普通でもハルカさんと働けるパラダイスの方がよっぽどいいな。


「1クエストでどれくらいもらえるんですか?」


 ガリガリ君。


「そうだな、一概には言えないが大体5万マニーくらいが平均かな」


 5万!?

 俺の給料一か月分じゃねぇか。

 もしかして討伐者って相当稼げるのでは?


「他に何かあるか?」


 ガリガリ君の質問以降は誰も手を挙げなかった。

 お前ら…金以外に聞きたいことねぇのかよ…


「特に無いようだな。ではこれより諸君の適性を判定する試験を行ってもらう」

「え!いきなりですか?」


 ガリガリ君は大男の突然の訳の分からない試験に驚きを隠せなかった。

 というか俺はそんなことしに来たわけではない。

 多分、こいつらもみんなそうなんだろう。


「適性を見るだけだから特に危険はない」


 いや、店が始まる前に来たんだからそんなことしてる暇ねえよ。

 それに、まだ入るって言ってないし。


 ギルドのこともわかったし、適当な理由をつけて帰ろ。


「すいません、トイレに行ってもいいですか?」

「いいだろう、正面の入り口から出て裏口に回ればトイレがある。全員の準備が出来次第試験を開始する」

「はい!」


 じゃあ皆さん試験頑張ってくださーい。俺は帰りますので。


 そして、ギルドを抜け出してトイレに行くふりをして俺は店に帰った。


 店に帰ると早速カエデさんが出迎えてくれた。


「おかえり」

 

 既にバニーガールの格好で、体に抱き着き、豊満な胸を俺の腕に当ててきた。

 やめてくれ、俺にはハルカさんがいるんだ。

 そんなことされたら好きになっちゃうじゃないですか。


「す、すぐに着替えます」

 

 女の子たちも既に出勤しており、その中にはハルカさんもいた。

 いつも通りなら開店時間は18時だが、現在の時刻は16時。

 開店までにはまだ時間はある。


 ちなみに、何故朝出て行った俺がここまで帰るのに時間がかかったかと言うと、思った以上に大男の質問タイムが長かったからだ。

 質問タイムと言うか、質問を来るのを待ってる時間が長かった。

 誰も手を挙げようとしないのに、何時間も席に座った状態のまま質問が出るのを待たされていた。

 あの無駄な時間が無ければ、昼過ぎくらいには帰れてただろう。


「今日もよろしくね、エンドュー」


 控室に行った俺に対してハルカさんが優しく声をかけてくれた。


「よろしくお願いします」


 順調だ、これ以上なく順調。

 ラブコメ展開になるのも時間の問題だろう。


「じゃあエンドューは今日もハルカちゃんについてね。何かあったらまたよろしく」

 

 よし、もうすぐ開店時間だ。

 俺にはモンスターよりもハルカさんに纏わりつく輩を討伐しないといけない仕事がある。

 ギルドの連中には悪いが、俺は討伐なんかしている暇はない。


「よーし、じゃあ開店するわ!」


 いつも通りさっそく客が入ってきた。

 その中に世界一おじさんもいた。


「今日もハルカちゃんいる?」

 

 こいつ毎回毎回来やがって。

 お前みたいなセクハラ野郎は営業スマイルで対応してやってるのがわかんねえのか。

 飲んだらさっさと帰れよ。


「オーディンさん、いつもありがとう。ハルカちゃんご指名よ」

「はーい。あ、オーディンさん今日も来てくれたんですか?いつもありがとうございます」

「そんな堅苦しい挨拶はやめてよ、俺たちの仲じゃないか」


 お前とハルカさんがどんな関係だって言うんだ。

 ただの金を落としていくいいカモにしか思われてないことに気付け。


「じゃあ行きましょうか」


 そして、ハルカさんと世界一おじさんは席に着いておしゃべりをし始めた。

 

「オーディンさん、今日もお仕事ですか?」

「そうなんだよ、毎日毎日街の平和の為に大変さ」

「お疲れ様です。今だけはお仕事の事忘れて楽しんでください」

「ハルカちゃんと一緒に飲めるだけで楽しいよ」

「やだ、オーディンさんったら。冗談がお上手なんですから」


 聞いているだけでイライラしてきた。

 ハルカさんと俺は付き合ってるとかではないけど、将来のお嫁さんに手を出されているようにしか思えなかった。

 ただ、だからと言ってハルカさんに今の仕事をやめてくれとはとてもじゃないけど言えない。

 

 仕方ない。ここにいたら腹立つだけなので仕事に集中しよ。

 店の女の子の警備、食事や洗い物、正直ハルカさんのことだけじゃなくて他にも色々しなくてはいけない仕事がある。

 

 …閉店時間になった。

 ハルカさんの退勤時間になったら少し話せるかと思ったけど、そんな余裕は何処にもなかった。

 自分の仕事に精一杯でハルカさんが退勤したことすら気づかないほどだった。


「ご飯できたよ」


 店の後片付けが済んだ後、カエデさんの手料理が出てきた。

 今日はこの間のリクエスト通り刺身が出てきた。


「あ、ありがとうございます。刺身まで用意してくれて」

「どう?お味の方は?」

「…ん、美味しいです!今まで食べた刺身の中で一番美味しい!」


 漁師でも料理人でもないので、誰が作っても同じ味だがなぜかいつも以上に美味しく感じた。

 まあ相変わらずのオーバーリアクションではあったけど。


「はいはい、またオーバーに言ってるだけでしょ?」


 流石に演技が下手くそすぎてバレてしまった。


「いや…そんなことは…」

「でも、ありがとう。じゃあ一緒に食べよ」

「はい、いつもありがとうございます」

「いいえ、じゃあいただきます」


 俺はカエデさんとくだらない雑談でもしながら食事を楽しんだ。


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 気が付くと、また、昨日と同じ白い場所に立っていた。

 今日は、老人が降ってくるわけではなく初めから目の前にいた。


「おい、貴様。ギルドに行っただけですぐに逃げ出しおったな」


 早速、今日の出来事について文句を言ってきた。

 どうやら監視されてるみたいだな。

 こいつに監視されたからと言って何かが変わるわけじゃないけど。


「逃げ出したとは人聞きの悪いな、ただ単に予定があったんで帰っただけだ」


 そう、ハルカさんとおしゃべりをする予定がな。

 結局無理だったけど。


「討伐に行くと言ったはずじゃよな!」

「行けそうならとも言ったはずだ」


 こいつは押しに弱いから無理矢理言ってしまえばその内折れてくれるだろう。

 実際嘘はついてないしな。


「貴様!大概にしろ!わしを誰だと思うとるんじゃ。わしの命令を無視するのは貴様くらいだぞ。行けと言ったら行け」


 どうせこの世界の神様とか何かそんな感じの人でしょ?

 神程度が俺の行動を制限できると思うなよ。


「うーん、この世界に来てまだ間もないしあんたのことなんかよく知らないよ」

「よかろう。わしのことを教えてやろう。わしの名は…」

「いや、別にいいです。興味ないんで」


 あ、大体知ってるんでいいです。


「貴様!わしのことを何じゃと思うとる。討伐には行けよ!」

「はーい」


 生返事の俺の言葉を信用したのか白髭はどこかに消えていった。

 

 残された俺はやることもないし、早く目を覚ますことを願うしかできなかった。

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