拳と銃
ソードの尽力もあり、ローラから逃れることが出来たエルドレッドとカエデの二人は城の前まで来ていた。
先ほどの男ジークにより既に五人の侵入はギルドに知れ渡っていた。
それにより城の警備は先ほどよりも厳重になっており、人数も一人から三人にまで増えていた。
エルドレッドとカエデは門番三人を確認すると同時に一旦身を隠した。
「どうする?流石にあの警備は強行突破するのは難しいぞ」
「私に言われてもわからないよ。そういうのはエルドレッドの仕事でしょ?昔からね」
「ちょっとは考えろよ。まあいい、俺が囮になってお前が突入することもできるけど、それじゃあお前が危険すぎる」
「戦闘力は全然ないからねー」
「こうなったら一か八か賭けだ。俺の能力で一気に行くぞ。もたもたしてる時間もねぇしな」
「おっけー」
カエデのひょうひょうとした返事と共に二人は突入した。
「おい、来たぞ。ギルドの裏切り者だ!」
「絶対に侵入させるな!」
門番は城に迫る二人を確認すると同時に戦闘の構えを取った。
「全く分からねぇけど行くぜ。『聖拳』!」
能力は発動と共にエルドレッドの腕は青い光に包まれた。
全くもってどんな能力かわからないが、パンチの威力が上がっているのだろう、そんな風に考えたエルドレッドは青い拳を一人の門番めがけて撃った。
見事攻撃は命中したが、パンチの威力は上がっておらず門番は多少痛い拳が入ったくらいにしかダメージはなくエルドレッドの拳を掴んだ。
「バカが、この程度で討伐者が何とかなると思ったか。今度はこっちの番だ。くらえ…」
門番がエルドレッドに反撃をしようとしたその時、拳を受けた門番は突然意識を失い、その場で倒れこんだ。
「おい、どうした!しっかりしろ!」
残った二人が意識を失った門番に声をかけるが反応はなかった。
「てめぇ、何しやがった!」
「わりぃな、どうなったかは俺もわかんねぇんだわ。寝てるだけかもしれないし、もしかしたら死んだかもしれねぇ。お前らもそいつみたいになりたくなかったら今すぐ消えろ」
実際にエルドレッドは何が起こったか知らない。
時間や相手がいないことから彼はこの能力を試すことなくこの場に立っている。
どんな能力かわからないが夢の中で授けられたことだけは知っている彼だったが、脅し文句には丁度いいと判断した。
そしてその効果は確かにあった。
「おい、やべぇんじゃねぇのか?あいつ」
「ビビってんじゃねぇ。あんなチンピラみたいな奴がそんな能力持ってるわけねぇだろ」
「でも実際にこうなってんじゃねぇか」
「確かに…」
「おい、逃げようぜ。別に無理してここを警備する必要ねぇよ」
「討伐者なら!ああいう奴に立ち向かうのが仕事だろうが!」
「だったら俺は討伐者をやめる。死ぬくらいなら今すぐやめてやる」
「おい、待て」
一人は門から逃げ出し、街の中に向かって走り出した。
しかし、逃げようとする門番に対してカエデは声をかけた。
「ちょっと待ってよ、お兄さん」
「…」
しかし、男はカエデの言葉を無視しその場から逃げようとした。
「今逃げたらこの場で殺すけど、いいかな?」
「なに…」
カエデの“殺す”と言う言葉に男は反応した。
先ほどのエルドレッドのせいか、彼は足を止めずにはいられなかった。
逃げることをやめた男にカエデは近づき、体が密着するほどの距離を取った。
「少し頼みたいことがあるんだけどいいかな?」
「な、なんでしょうか」
討伐者から見れば、カエデはその辺に歩いている女にしか見えないがエルドレッドと共に侵入しようとしている、それだけで彼を脅すには十分だった。
「街に行くのはいいんだけどね、また増援が来られても困るの。だから、街に行ったら城には近づくギルドの人たちを止めてもらえないかな?」
「いや、でもそれは…」
「そうだね、そんなことをすればあなたはギルドにいられないでしょうね。でも、この場で死ぬよりはいいんじゃない?」
「わ、わかりました」
「一つ言っておくなら、あなたの顔は覚えたから逃げようとしても無駄だからね」
「はい!」
カエデの妖艶な言葉遣いと脅しにより男はその場から急いで退散し、街に向かって消えた。
「ふう、これでひとまずは増援は来ないはず。それまでに何とか救出しないと」
カエデは城に戻りエルドレッドと合流を果たした。
「わからないけど、ひとまず増援は来ないと思う。どう?もう一人の方は」
「ああ、まださっきの状態から動こうとしねぇな。お前が戻ってくるまで待ったけど、もうその必要はねぇ。行くぞ」
「うん」
二人が残った一人に向かって城の内部への侵入をはかった。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「それはお前らの方だろうが。仲間に手出してんじゃねぇぞ」
「黙れ!」
「『聖拳』!」
エルドレッドの腕は青く光りだした。
「もうその能力は見た。当たらなきゃ何の問題もねぇんだろうが」
「さあな、俺にもわからねぇ」
「来い、お前の拳など俺には当たらないことを証明してやる!」
門番が戦闘の構えを取るのと同時に彼は意識を失い先ほどの男同様にその場に倒れこんでしまった。
「ありゃ?当たらなくてもいいのか?この能力は」
「なんでエルドレッドが知らないの?」
「俺も訳の分からないままもらったものだからな、未だにどういう能力かわからねぇよ」
「まあいいじゃん、これで城の警備は突破出来たね」
「おう、このまま侵入するぞ。他のみんなもすぐに来るはずだ」
「うん!」
二人は門番から門の鍵をくすねて城の扉を開錠した。
―――――――――――――
一方、空を飛ぶローラと地上から対峙したソードは襲い掛かるローラの銃撃に苦戦を強いられていた。
建物の陰に身を隠す彼だが、姿を現すと同時に攻撃は開始され反撃の隙は無かった。
「くそ、俺の能力じゃあの位置の相手には攻撃は届かない。どうすれば…」
「ほら、ほら。威勢がいいのは初めだけなのかしら?出てきなさいよ、チビ」
ローラは銃口をソードの隠れる建物に向けるが発射はしない。
なぜなら、討伐者が民間人に危害を加えることは禁止されている行為であり、街の損害などを考えるとこの位置からの攻撃は出来なかったからである。
「まるでガキの台詞だな」
ローラの銃撃はソードに命中してはいなかったが、破壊された地面の破片や衝撃などにより少なからずダメージは受けていた。
そして、これが続くようであれば結局時間稼ぎにしか過ぎず自身もまたギルドに捕まり、城に幽閉されてしまうことをソードは理解していた。
このまま建物内に隠れ続けけることもできるが、結局ローラがこの場を離れてエルドレッドやイイハルのことを探しに行かないという保証はどこにもなかった。
ローラからしても、未知数の相手に頭上を取っているとは言えどんな攻撃をしてくるかもわからない相手に対して背を向けることは避けたかった。
結果、お互いのことを良く知らない二人はその場で膠着状態が続くことになってしまった。
しかし、これにしびれを切らし先に動いたのはソードだった。
「空中に浮いてる奴を相手にしたことはないがこの場合試すしかないな。『無限剣戟』!」
建物に身を隠したまま放たれた剣はローラに向かって行ったが、ローラには少し届かず地上に落下した。
「何よあれ。あいつの能力?危なかったけど、この位置なら大丈夫そうね」
ソードの無限剣戟は能力ではなく技である。
特殊な力などなく彼の鍛錬の末に身に付いた後天的なものである。
つまり、この場合の無限剣戟は所詮空中に剣をほうり投げたに過ぎず自動追尾でもない剣は地上に落下してしまうことになってしまった。
「くそ、やはりダメか。どうすれば…」
ソードの能力は超視覚、金槌脚、剣王の三つである。
どれも強力な能力であるが同時に命中しない相手には効果の期待できない能力でもあった。
彼自身空中に浮いている相手と対峙することは初めてであり、そのような能力が存在することも知らなかったため、自身の能力の欠陥に気付くことは無かった。
「まさか、こんな相手がいるとはな…」
だが、彼も無策でこの状態を保っているわけではない。
初めに考えた策の一つとしては超視覚でローラが自分から離れようとした時に姿を現し、この場に留めおこうとするものだった。
しかし、それでは結局自分もこの場に留まることになりユカリを救出に向かうことが出来なくなってしまう上に、超視覚の副作用により暫くの間身動きが取れないことが危険にすらなってしまうため却下された。
そして、二つ目に考えた策が先ほどの無限剣戟による遠距離攻撃であるが、これも失敗に終わる。
後がなくなった彼が選択した行動は自らの危険を顧みない突撃であった。
「ふん、俺が討伐者如きに遅れを取るわけがない。時間もない、勝負は一瞬で決める」
ソードは一気に建物の陰から出て、空中に浮かぶローラの攻撃に備えた。
「やっぱりチビにはそれくらいしか思いつかないわね。いいわ、ハチの巣にしてやる」
銃口はしっかりとソードの方を向いており、姿を現すと同時に攻撃を開始した。
銃撃は一気にソードを襲い掛かり、雨のように降り注ぐ銃撃を躱しながらソードはローラの真下に向かった。
しかし、攻撃が全て躱せることはなくやはり衝撃が彼を襲ったがそんなことをもろともせず彼は走ることをやめなかった。
「一体何をするつもりなの?」
ローラにはソードの狙いが分からなかったが、破れかぶれの特攻にしか見えない彼女は直ぐに考えることをやめ攻撃に集中することにした。
「結局、当たってしまえば何の問題も無いわけでしょう?なら、これでおしまいよ」
ローラが銃口をソードに向けたが既に彼はローラの真下まで来ていた。
「行くぞ、『金槌脚』!」
足が金槌になったソードは勢いよく地面をたたきつけ、その反作用により自信を空中に飛ばした。
ローラは地上から10メートルほどの位置に滞在していた。
どう考えても金槌の反作用で届くことはないが、ソードの作戦はここからだった。
「今だ、『無限剣戟』!」
地上3メートルほどの位置に飛んだソードはその位置から無限剣戟を放った。
ギリギリ届かなかったこと以外は先ほどの作戦で良しと考えたソードはそのギリギリを埋めるために金槌脚によりその僅かな距離を埋めることを決めた。
結果、放たれた剣はローラに命中した。
無限剣戟は殺傷能力はなく、切れ味も無いが重量だけはあった。
つまり重いものが体に当たるような感覚が襲うことになるが外傷は何もない。
命中したローラは突然の衝撃により飛翔を続けることは出来ず落下し始めた。
しかし意識を失ったわけではない。
自ら意図的に能力を解除したのだ。
と言うのも、ローラの『光翼』もまた暫くするとその効果は切れることになっている。
これ以上続ければまたソードが襲ってきたときに危険であることに加え、攻撃を食らいダメージを受けた彼女が飛び続けることは出来なかった。
結果、ソードはローラを地上に降ろすことに成功した。
着地をしっかりとした二人はそのまま向き合い戦闘を続けた。
「やっと、同じ目線に立ったな」
「ふん、私がただ遠距離攻撃しかできないと思ったら大間違いね」
「地上で俺に勝てると思うなよ、鳥女」
「こっちの台詞よ!」
ローラは先ほどまで撃っていた銃を捨て、もう一本の銃に持ち替えた。
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