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時を超える  作者: ひばな
イカロス編
3/66

お金と買い物

 次の日、やたら外が騒がしくて目覚めた。

 どうやら異世界転生は本当だったみたいだ。


 気になって窓を開けてみると、そこら中から放送が流れていた。


「エマージェンシー、エマージェンシー、ドラゴンが出没しました」

 

 どうやら、昨日白髪が言っていたモンスターが攻めてきたみたいだ。

 何の能力もない俺にとっては関係ない話だし、誰かが退治してくれるだろう。

 ていうか正直変なことに巻き込むのはやめて欲しい。

 普通に楽しく異世界ライフを送らせてくれ。


 その時、俺の頭に直接声が聞こえた。


「お前を見定めるには丁度いいだろう。討伐に行け。とはいえ、手ぶらで行っては殺されてしまうだろう。なので、特別にわしの能力の内の一つだけ貴様に授けてやる。能力名は『無効化ディセイブル』。使い方は自分で見つけろ」


 マジか、能力がこんな形で授けられるようになるとは。

 しかし、使用方法もわからないものをいきなり持たされてもよくわからないのが現実だ。

 

「待て、せめてどんな能力かだけでも教えてくれ」

 

 部屋で独り言を言う俺に返答する者はいなかった。

 通常であれば、俺に話しかけてきた奴は俺の転生に関わっている人間なのかもしれないが、それを追求する術は今の俺には持ち合わせていない。

 今後何かがきっかけでこいつの事は判明していくだろうから今は気にすることもないだろう。

 

 討伐とか見定めるとか言われても正体もわからない奴のことを聞く必要性など無し。

 能力をもらって少しは舞い上がったとこだが、何も分からないし、昨日と同じように生活することができればいいだろう。 

 今の俺はファンタジー展開よりもハルカさんとのラブコメ展開の方を望んでいる。


 なんだかんだと考えても埒が明かないので、とりあえず朝の用意を済ませるためまずは洗面所に行くことにした。


「おはようございます」

 

 洗面所に着くと、鏡を見ながら歯を磨いているカエデさんがいた。

 服装も昨日の仕事着とは違い、寝間着の女の子って感じに変装していた。


「りょはおう」


 もごもご言ってるけど「おはよう」だろう。

 ちょっと可愛いと思ってしまっている俺がいるけれど、俺にはハルカさんがいるんだ。

 カエデさんのことを好きになるのはカエデさんにも失礼というものだ。

 紳士たるものそのような二股はしない。


 カエデさんは口を濯ぐと今度ははっきりと俺に話しかけてきた。


「おはよう。用意済ませたら事務室に来てくれる?」

「はい、わかりました」


 昨日出会ったばかりの俺に朝から何か用だろうか?

 え、もしかしていきなりの告白とかやめてくれよな。

 ちょっと気持ちがそっちに行っちゃうだろうから。


 俺は歯を磨き、顔を洗って部屋に戻った。


 いつも通りの部屋着でこの世界に来てしまったせいで服がない。

 同じものを二日連続で着るのは嫌だし、とりあえず昨日のスーツに着替えるしかないか。

 まあスーツもそれほど着る機会はなかったのだけど、制服とでも考えれば納得できるだろう。

 

 更衣室に行き、昨日と同じスーツがいくつかあったので一番綺麗なものを選んで着用した。

 若干カエデさんとのラブコメ展開も期待しながら一階の事務室に向かった。


 事務室に着くと、カエデさんは椅子に座りながら普段着で俺を待っていた。


「あれ?スーツで来たの。まだ営業時間じゃないから私服で良いのに」

「服が一着もないものでして…」

「そっかぁ。確かに昨日来たばかりじゃ何もないよね」


 カエデさんは相変わらずの可愛らしい表情をしながら俺の服の問題について真剣に考えてくれた。

 マジでもっと早く出会いたかったです。

 そしたら、間違いなく付き合ってたと思います。


「わかった。マネーを少しだけ貸してあげる。これで服とか必要なもの買って」


 カエデさんは財布から札を5枚出した。

 一枚の札を見ると「一万マニー」と書かれていた。

 まあよくわからないけど、多分一万円札だろう。


「いいんですか?もらっちゃって…」

「大丈夫、お給料の前貸しよ。利子は取らないから返せるときに返してくれたらいいわ」

「すいません…」

「5枚もあれば一か月普通に生活する分には困らないわ」


 相場は知らないけど、カエデさんが大丈夫と言うなら大丈夫なんだろう。

 初期段階としてはお金の問題に困ることなくて助かった。

 まあお金がある世界ならそれはそれで色々と問題は起こりそうだが。

 

「じゃあ今から服買ってきます」


 ひとまず、相場やどんなものが売っているのか、どういう設定の世界なのかの把握は現段階において最優先して行っていかねばならない。


「その前に、一つだけいいかしら?」

「は、はい」


 おっと、こいつは失礼した。

 カエデさんは俺に何か用事があって呼び出したんだよな。

 自分の事に夢中になりすぎて忘れちゃってたよ。


「君はアルバイトという扱いになってるの。もし、何か問題を起こしたりしたら申し訳ないけど、やめてもらうことになる。それだけは理解しといて」

 

 まあ注意事項みたいなことだな。

 寝床を失ったら困るし、俺としては問題なんか絶対に起こさないよう昨日から決めていたからさほど変わったことではない。

 ひとまず、突然の告白タイムはなかったから安心した。

 ちょっと残念でもあったけど。


「わかりました。でも、問題なんか起こしたりしませんよ」

「分かってるよ。でも決まりだから一応伝えとくね」

「気を付けます」

「言いたかったことはそれだけ。じゃあいってらっしゃい」


 こんなろくでもなし転生者に寝床を与え、仕事場を与え、この人には感謝しかない。

 いってらっしゃいと言ってくれる女の子が母さん以外にいただろうか、否いない。

 というか母さんは”女の子”ではないから実質一人もいなかった。

 何が言いたいかと言うと、めちゃくちゃ可愛い。


 いつまでもそんなことを考えてても仕方ないので服を買いに行くか。

 …んー、まあ服もそうだけど、さっきの放送が少し気になるってのはあるかな。

 知ってるかわからないけど、一応カエデさんにさっきのこと聞いてみるか。


「あの、今朝、ドラゴンが出現されたと言っていましたがどういうことなんですか」

「エンドューは昨日来たばっかりだから知らないよね。たまにモンスターが街の近くに出現するの。いつもはギルドって言う討伐者が集まる場所があるんだけどね、そこの人たちが討伐してくれるの。まぁ私たちにはどうしようもないし、今回もギルドが何とかしてくれるわよ」


 じゃあ俺が行かなくても良いってことね。

 頭の中に話しかけてきたやつには悪いけど、俺はそんな危険を冒したくない。


「なるほど、分かりました。なんか難しそうな話ですけど、僕にとっては今日の仕事をきちんとこなすことの方がよっぽどしんどいですよ」

「そうね、早く一人前になってね」

「じゃあ俺必要なものとか買ってきます」

「いってらっしゃい」


 俺は店を出て、生活必需品を買いに行くことにした。


 とはいえ、どこの店でそういうものが売ってるとかわからない。

 道の人に聞けば分かるかなと、俺は適当にその辺に歩いていた一人の男性に声をかけた。


「すいません、この辺で服とは靴とか売ってる店ってありますか?」

「それならショップに全部置いてあるよ。この道をまっすぐ行って左に曲がればすぐだ」


 親切な人に出会って幸運だった。

 面倒くさい奴なら揉め事を起こしたりしかねないが、その辺の問題は排除されてるみたいだな。


「そうですか、ありがとうございます」


 男性の言う方向に行くと、店の前に「ショップ」と書かれた大きな店があった。

 他の店はショップじゃないのか。


 中に入ると、従業員と客がごった返しにいて、ホームセンターのように色々なものがずっしりと置かれていた。


 どれを買えばいいか分からないな。

 これはコップかな?いつ使うのかはわからないけど、一応値段は…1000マニーか。

 うーん、妥当かな?いや、ちょっと高いか。

 いやいや、コップ何か買いに来たわけじゃない。

 必需品は何処にあるんだ?


 俺が店の中を迷っていると女性の店員が話しかけてきた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しでしょうか」

「あの、服とか靴とかその他にも生活に必要なものってありますか?」

「はい。そちらでしたら二階に全てございます」


 全てって凄いな。どれだけの量があるんだ。


「分かりました。ありがとうございます」


 二階に上がると、確かにありとあらゆるものが置かれていた。

 服や靴なんかは当然置かれており、その他にも便利にピーマンが切れる調理器具だったり、びっくり箱だったり様々なものが置かれていた。

 本当に全てが置かれているような感じだった。

 全てってのがどういう定義かは知らないけど。


 とりあえず必要なものを買うか。

 俺は目当ての服と靴、その他にもシャンプーや財布など様々なものを購入した。


 全部で4万か…残り1万だけど、他に使い道とかないし、大丈夫だろう。

 いや、待てよ。これは前貸しって言ってたな。

 だとすると、二か月間一万円で生活しないといけないことになる。

 それはちょっとキツイかな…

 とはいえ、これ以上前借しても債務者みたいになりかねないので何とかするしかないだろう。


 めちゃくちゃ沢山の袋を持って、ぜえぜえと息を切らせがら店に戻るとカエデさんは店の掃除していた。


「おかえり。必要なものは買えた?」

「はい。これくらいあれば困らないと思います」


 両手ぱんぱんの手荷物を見て、カエデさんは驚きの表情に変わった。


「結構買ったね。いくらしたの?」

「4万マニーです」

「えー、そんなに使ったら一か月持たないよ。もうちょっとお金貸してあげようか?」


 優しいなぁ。この人の優しさに甘えているとヒモになってしまいそうだ。


「いえ、大丈夫です。カエデさんに迷惑はかけられませんから」

「別に気にしなくていいのに」


 やめてくれ。俺をダメ人間にする気か。


「まだ開店まで時間ありますね。掃除でもしましょうか?」


 せめて借りたものくらいは働かせてくれ。

 まあ返さないといけないんだけど。


「ううん、大丈夫。私一人でやっとくからエンドューは部屋でゆっくりしてていいよ」

「そういうわけにもいきませんよ。俺が掃除とかしときますからカエデさんこそ部屋でゆっくりしててください」

「え、でも…」

「ほら、貸してください。俺がやっときますって」

「そう?じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」


 カエデさんは箒と塵取りを俺に渡すと、嬉しそうに部屋に戻っていった。


 開店時間まで結構あるな。

 掃除しただけじゃ余るし、部屋で今日買ったものの開封の儀でもしようかな。暇だし。


 掃除は5分ほどで終了した。カエデさんが既にだいぶ終わらせてくれてたみたいだ。

 俺は箒と塵取りを事務室に置き、自室に戻った。


 さてと、とりあえず服でも見ていこうかな。

 俺が買ったものなので俺は勿論どんなものか知ってるけど、配信者気分で楽しむのも悪くない。

 寂しいけど…


「エンドュー!いる?」


 服を開けようとしたその時、部屋の外からカエデさんの声がした。


「はい、いますよ」

「ちょっと私の部屋に来てくれる?」

「え、分かりました。すぐ行きます」


 なんだろ、また俺に用事かな。

 てか、女の子の部屋に入るなんて初めてだ。

 服の開封なんて後でいくらでもできる。

 早くカエデさんの部屋に行こう。


 開けたものを閉まって、俺はカエデさんの部屋をノックした。


「どうぞ」


 中に入ると、いかにも女の子の部屋って感じだった。

 壁紙とかもおしゃれなものだし、全く見たことのないキャラクターのぬいぐるみ、ピンク色のスリッパと俺が想像していた女の子(アニメの女の子)の部屋を見た気がした。

 

「ノックなんかしなくてもいいのに…」

「普通にしますよ。女の子の部屋に入るならなおさらです」

「ふーん、私のこと女の子として見てるんだぁ」

「いや、それは違うくて、その…なんというか…」


 ほう、中々攻めてくるやないか。

 ワシに女性の免疫力がないことを分かってやってるなら相当罪な女やで。


「冗談だよ。それで呼んだ理由なんだけどさ…どんなものが好き?」

「え、どんなものとは?」


 いきなりどんなものが好きと言われて分かる人がいるなら教えてくれ。


「だからご飯のこと。どんなものが好きかなって…知っとかないと何作っていいかわからないからさ」

「あー、そういうことですか。何でも好きですけど、強いて言うなら刺身とかですかね」


 刺身ってのがあるのかどうかは知らないけど。


「わかった。じゃあ今度刺身作ることにするね」


 あるんかい。


「え、気にしなくていいですよ。カエデさんが作るものは何でも美味しいですから」

「いいの。私が作りたいんだから」

「そ、そうですか。じゃあお願いします」

「うん!」


 元気もあって、上品で、仕事ができる女。まさに隙のない完璧な女性だ。

 この人との共同生活は間違いが起きそうな予感しかしない。


「じゃあ邪魔するのも悪いんで俺は戻りますね」

「う、うん…また後でね…」


 部屋に戻るってもさっきの服の開封のやる気は起こらず、そのままベッドに寝転んだ。

 天井を見ながら今後展開を予想していた。


 さて、今後俺はどうなるのか。

 ハルカさんとのハッピーエンドは訪れるのか、それとも他のヒロインに行ってしまうのか、楽しみだな。

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