バニーガールと異世界
第一話に関しまして
第一話と第二話をまとめて一つとしていたのですが、場面の切り替わり、物語上の都合、異世界と元の世界をひとまとめの話として投稿するのはテンポも悪いと判断したため、二つの章に分けました。
皆さんの感想やご意見なども受け付けております。
今後ともよろしくお願いいたします。
気が付くと門の前で寝ていた。
凄くでかく立派な門なのに門番と思わしき人物もいない。
なんだ夢か、それとも異世界転生か。
異世界転生かー…うん、ないだろうな。
なんだかんだ考えていても始まらないので、とりあえず中に入ってみることにした。
門を抜け、中に入るとそこには街が広がっていた。
立派な建造物も多い。
人も大勢いる。
しかし、これと言って特に目新しいものは何一つなかった。
どこかで聞いたことあるけど、夢ってのは自分の意識の中にあるものしか映らないらしい。
こんな体験してみたいとか、テレビで見たものを食べてみたいとか、本人が無意識の中で考えていることが映像として映し出されているだけで、自分の想像を超える何かが現れることはないらしい。
つまり、この街に目新しさがないということは俺自身の意識の中で生成されているにすぎないのだろう。
まとめるならば、夢の可能性が異世界の可能性よりも遥かに高いということだ。
とりあえず今のところ、異世界1夢9ってとこだな。
まあこんなことは今日に限ったことではない。
変に期待はして「ああやっぱり夢だったかー」と何度思ったことだろうか。
何度夢の中で女の子に告白して起床後絶望に浸ったか。
こんなものは所詮いつも通り異世界っぽい夢を見ているに過ぎない。
それに心の中では本当に異世界転生なんて起こるものだと思ってない。
さて、制限時間(起きるまで)にまでこの辺りでぶらぶらしながらやりたいことでもやっておくか。
そんなことを考えながらふらふらとその場から歩き出した途端、突然目の前に現れたバニーガールの女が声をかけてきた。
「お兄さん、私たちと一緒に働かない?」
NPCの登場。
きめ細やかな肌、綺麗に整えられたオレンジの髪、強調されている胸。
まさに俺の憧れとでも言える存在だった。
しかも、かわいいだけじゃなくてとても上品な雰囲気が漂っている。
こんな完璧美女のお誘いを受けてついていかない男子高校生はいない。
「はい、働きます」
即答だった。
働くとかはどうでもいいけど、ワンチャン店で二人きりになってあんなことやこんなことができるかもしれないという期待があったから。
まあないけど。
「おっけー、じゃあ私についてきて」
「はい!」
元気な挨拶を交わし、言われるがままバニーガールについていくと、立て看板にパラダイスと書いている店に到着した。
「はい、中に入って」
バニーガールの指示で中に入ると、そこは酒場のような場所でテーブルと椅子がいくつも置かれていた。
カウンターがあり、バーのような雰囲気を感じる飲み屋だった。
飲み屋なんか行ったことないけど。
「じゃあ、ここで待っててね」
バニーガールは俺を置いて奥に消えた。
あんまりこういう夢は見ないんだけど、もしかしたら色々と精神的に参ってしまっていて変な想像をしていたのかもしれない。
いや、こういう異世界なのかもしれない。
…それはないか。
「お待たせ」
バニーガールはあっという間に戻ってきた。
その手にはスーツと思わしき黒服を持っていた。
「はい。じゃあこれに着替えてね」
俺はいきなりスーツを手渡された。
あー、本当に俺が働くと思ってるのか。
ちょっと面倒だな。
夢なら貴重な時間を失いたくないし、異世界なら絶対こんなとこで働きたくない。
「あ、すいません。俺未成年なのでキャバクラで働くことは出来ないんですよ」
適当なことを言って帰ろ。
やむを得ない事情なので、バニーガールも納得してくれるだろう。
すると、今までの優しくておっとりした雰囲気が一変した。
「ねえ、そんなことが通用するわけないでしょ?一度やるといった以上は死ぬまでずっと働いてもらうわよ」
いや、なんで終身雇用しか認めてねぇんだよ。
「ごめんなさい。無理なものは無理なんです」
バニーちゃんもどうせ店の客寄せパンダとして雇われてるだけなんだろ?
だったら、俺がここで働かこうが働くまいがあんたには関係のない話だろ?
本当は俺と付き合いたいんだろ?
「ふーん、仕方ないわね」
バニーガールは奥の部屋に消えた。
まあバニーちゃんも未成年を働かせるのは良くないと思ってくれたのだろう。
NPCにしては可愛かったからアリだとは思ったけど、ごめんね、俺にはこんなとこで時間を潰してる暇はないんだよ。
よし、この隙にこの店から逃げだそう。
どうせ、ここにいてもろくなことなんてないんだ。
それにここはあくまで俺の意識の中に過ぎないから、何をしても誰に咎めれれるわけでもないので好きなことを好きなだけしてみたいと思うことは至極当然の思考だ。
具体的に、現実ではできないようなことをしてみたい。というか今まで何度もしてきた。
勿論、違法になることである。
しかし、痴漢などのあまりにも倫理的に反することは自分的にもよろしくないので、食い逃げ等の優しめの軽犯罪を犯すことで自分がそれをしないように学ぶためである。
さて、この店ともお別れだ。名残惜しいけどまたな。(もう二度と来ることはないけど)
俺が店を出て食い逃げに行こうとした矢先に、バニーガールがヤクザが使うような道具を持って戻ってきた。
バニーガールは俺の座っている席の対面に座り、道具をドン!とおいて俺に問うてきた。
「出ていくならそれ相応のものを払ってもらう必要があるわ。舌か内蔵、好きな方を選んで」
にっこりとした表情で恐ろしい台詞を吐いた。
「すいません、頑張ります」
即答だった。
俺はこんな状況で言い返せる勇者ではない。
冷静に考えれば、夢だし死ぬこともないから断っても良かったかもしれないが、普通にバニーガールが綺麗だったから別にいいやと気持ちもどこかにあった。
「よし、じゃあとりあえず諸々紹介するわね。ちょっと待ってて」
バニーガールはまた笑顔のまま奥に消えていった。
すいませんが、こういう夢は想像してませんでした。
もっと余裕を持って好きなことをできるような夢にしてください、僕の意識さん。
まあしかし貴重な今日の夢はこれで終了か。
現実で上手くいってないんだから夢くらいは夢見させて欲しいところだ。
バニーガールはバニーガールをやめ、普通の服装に着替えて再度戻ってきた。
「あ、バニーガールはやめるんですね」
つい本音が出てしまったことは認めよう。
「なに?バニーちゃんの方が良かったのかな?」
そんなことは当たり前でしょ。
「動きづらいから普通の服装で話させて」
ちっ、せっかく貴重な時間を消費するんだから少しくらいサービスしてくれても良いのでは?
「私の名前はカエデ。この店の店長をしているわ。年齢は23歳。独身。ちなみに彼氏はいませーん。スリーサイズも教えませーん。分からないことがあったら何でも聞いてね」
どうでもいい情報だけど、この人店長だったのね。
店長自らバニーガールの格好でバイト捕まえるって相当経営がやばいんじゃないのか?
あと、夢だからもう関わることはないかもしれないけど、せめてスリーサイズくらいは教えてくれてもいいじゃないか。
「ここは夜のお店パラダイス。女の子たちと飲みに来るお客さんが来るわ」
なるほど、未成年が知ってはいけないような世界に来てしまったようだな。
「お兄さんには女の子のボディーガードをしてもらうわ。ちなみに名前は?」
「遠藤修です」
「じゃあ、エンデューね。よろしくね」
この変なあだ名も俺が無意識の中で誰かにそう呼んで欲しいと感じていたのだろうか。
…アリだな。
「よろしくお願いします」
「事務室が奥の部屋にあるからそこで休憩しといて」
夢なら面白くないから早く覚めてくれ。
お互いの自己紹介を終えたところで一人の少年が店に入ってきた。
「店の準備は順調か?」
「ソードさん、お久しぶりです。来ていただいてありがとうございます」
カエデさんは少年に対してやたら低姿勢だった。
ていうかよく見たらこいつ、昨日の刃物向けてきた奴じゃないか!
少年は俺に目を向けると少し残念そうに話しかけてきた。
「なるほどな、お前が選ばれたか。なんでここにいるのかはよくわからんがな」
「なんでまたお前と会わないといけないんだよ。夢なら出ていってくれよ。あと残念そうな顔するな」
「貴様のような軟弱者がこの先、生きていけるとは思えんな」
君はそんな口調でしかおしゃべりできないのかな。
お兄さんが君の事を教育してあげようか?
多少痛いかもしれないけど、少しは我慢してね。
勿論、ナイフは無しだよ。
「まあ様子を見に来ただけなんだが思わぬ収穫があったな」
偉そうな態度取ってるけど、いい加減にしとかないとカエデさんのの恐ろしさを知ることになるぞ。
「おい、新入り。少しついてこい」
へ?俺?何の用ですか?
できるならこのままどこかに消えてくれると君を作り出した僕としてはありがたいですが。
「こいつを連れていく、暫くしたら帰ってくるからそれまで借りる」
「わかりました」
勝手に決めんじゃねぇよ、まだこっちは何も言ってないだろうが。
俺が不満そうにしているとカエデさんが耳打ちしてくれた。
「エンドュー、ソードさんはここのお店のオーナーよ。ちゃんと言うことに従ってね」
まじかよ、中学生のくせにオーナーだと。
いいとこのボンボンか?
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俺は店を出て、ソードと呼ばれるそいつに誰も人が来ないような路地裏へ連れていかれた。
「まず色々聞きたいことがあるだろうが、初めに一つだけ教えといてやる。ここはお前の夢なんかじゃない、ここはお前がいた世界とは別の世界だ」
え、もしかして本当に異世界転生なの?
「ひゃっほう」と喜びたいところだが、夢ならこの話自体が嘘と言うことになるのでまだ夢の可能性はある。
今のところ異世界7夢3くらいだな。
「まあ、お前の世界の言葉で言うなら異世界ってやつだな」
そんなことは知っているが、とりあえずその場の空気に合わせておこう。
「まてよ、ここが夢じゃない?異世界?いきなりそんなこと言われて納得できるか」
「お前が納得するかどうかは問題じゃない、実際にそういう世界に来ているのだから現実を受け入れろ」
別に前の世界に未練があったわけじゃないし、現実は受け止めている。
と言うよりも異世界なら俺の運命の相手がいるのではないかと期待している部分もあった。
しかし、気になるのはいつも通り寝ただけなのにどうして死んでしまったんだろう?火事でも起こったのかな。
まあそんなことはどうでもいい。
とりあえずこいつから絞れるだけ情報を絞り取っておこう。
「じゃあこの世界と元の世界がどう違うか説明してみろよ」
「まあいい、最低限の説明はしてやろう」
説明に入りまーす。
「お前の世界と違うところなどほとんどない。強いて言うなら、モンスターと呼ばれる人間ではない存在がいることくらいだ」
「どういう存在なんだ?」
「こいつらは人間を襲ってくる。例外はなくな」
どうでもいいけど異世界ってのは大抵モンスターがいるのはお決まりなのだろうか?
「つまり、人間の敵ということだな」
「そんなとこだ。後はお前らの世界と違って文明の発展が少し遅れてるくらいだな」
もっと喋る家とか、チート能力みたいな異世界っぽいモンはないのかよ。
「他に聞きたいことはあるか。今なら特別に答えてやる」
大抵のことは生活してたら慣れるだろうけど、最低限の事は今聞いておこう。
「わかった。三つだけ質問させてくれ。一つ目は、なぜここに俺が呼ばれたのか」
そういえばこいつ、対象がどうだ言ってたな。
その辺の事を少し掘り下げて説明してもらおうか。
「いいだろう。お前が別に呼ばれたわけではない。ただ単に一人だけ別の世界から転生させる必要があったからそうしただけだ」
ほう、つまり俺は死んだわけではなく別の異世界からの使者によってここに連れてこられたということか。
嬉しいような迷惑なような…
「なんでそんなことをする必要があったんだ?」
「それは今のお前に伝えても理解できないだろう」
いや、何でも答えるって言ったんだから答えろよ。
「次の質問に行け」
あんまり調子乗ってると本当に俺も黙ってないからね。
「二つ目は、言語や食事、一般常識などは前の世界と同じなのか」
「大半は同じだ。違うとすれば先ほど話したモンスターという存在がいるくらいだ、危険なものもいれば、それほど危険でないものもいる」
それはそれで面白くないな。
せっかく異世界に来たんだからもっとそれっぽいものを出してくれ。
「そいつらは何処にいるんだ?」
「街にはいない。街の周りの森や山などに生息している」
街から出なかったら危険じゃないってことね。
「街ってのはここ以外にもあるのか?」
「この世界の1割程度が街で構成されている。その他は何でもない荒野だったり、火山や海なんかが9割を構成している」
あーあ、やっちゃった。
完全に転生する異世界間違えちゃったよ。
どこの世界に、そんな荒野だらけの世界に転生したいと思う男子高校生がいる?
普通もっと冒険できるようなシステムになってるだろうがよ。
もういいや、適当に気になることだけ言って運命の赤い糸探しに行こ。
「わかった。最後の質問は、元の世界に変える方法はあるのか」
一応帰る方法はないのか尋ねてみよう。
もし、この世界が気に食わなかったらその時点で帰りたいから。
旅行間隔で異世界転生してるけどこの先大丈夫か?
「元の世界に帰る方法はない。この世界から他の世界の住人が来ることはあるがこちらから移動はできない」
バカかこいつ、他の世界に行く方法はないと言ったがお前は来れてたじゃないか。
どうやらこいつの話は信用にかけるようだな。
「おい、今『お前は来れてたじゃないか』などと考えたわけじゃないだろうな。俺は特別に行けるんだよ、そういう能力を持っているからな」
「能力?」
お、能力があるのか。それっぽくなってきたじゃないか。
さて、俺にはどんな能力がついているのかな。
「そういえば、能力の説明がまだだったな。この世界には能力をいくつか保持することができるのだ。基本的に鍛錬や才覚により能力は目覚める。どんな能力かはそいつ次第だ」
オッケーオッケー、それで俺にはどんな能力がついているのかな?
「俺にはどんな能力があるんだ?」
「ふん、貴様のような軟弱者が能力持ちなわけがないだろうが」
「え、無いの?」
「当然だ。転生者の分際で」
え、転生ボーナスってあるじゃん?
え、もしかして手ぶらで異世界転生?
え、俺何しにこの世界に来たの?
「ちゃんと見てくれ。俺にも能力があるはずだ」
「調子に乗るな。能力がそう簡単に身につくものだと思ったら大間違いだ」
嘘…だろ…村人Aからスタートなの?
勘弁してくれ…
「それと、何を期待していたのか知らないが、お前が元の世界に戻ることは禁止されているからもう二度と戻ることは出来ないぞ」
終わりですわ。
勘弁してくれなはれ、兄さん。
能力なし、冒険なしの異世界転生なんか誰がオモロイと思うねん。
ワシが何悪いことしたって言うねん。
「俺は今後どうすればいいんだ?」
少年…俺の今後の方針を示してくれ。
「そんなことは知らん。自分で勝手に行動しろ」
そうだよね、君には関係ないよね。
これ以上は何も教えてくれなさそうだしもういいや。
どうせ俺の異世界転生は終わったんだし。
なんにせよ、この世界のルールは大体理解した。
「もう聞きたいことがなければ行くぞ、じゃあな」
昨日(今日?)と同じセリフで帰ろうとするソードに対して俺はもう何も感じず、さっさと立ち去るのを待った。
開始早々俺の異世界転生は終わった。
逆にこれが夢であれば良かったけど、さっきの話は俺の想像を超えてきたものなのでおそらく本当に異世界転生なのだろう。
しかし、絶望しているわけではない。
この世界に転生されたことを前向きに捉えるならば、前の世界では彼女が出来なかったが、この世界ではそれが可能かもしれないじゃないか。
そもそも冒険展開を望んでいたわけではない。
ただ単に興味があっただけで本当にそうなったら多分俺は行かないだろう。
だって死ぬのが怖いから。
だから、これは逆に良かったのかもしれない。
やむなし展開で冒険に出るくらいなら村人Aとしてこの世界でのんびり異世界ライフを楽しむのも悪くないだろう。
その第一歩としてさっきのキャバクラで働くことも悪くないだろう。
ということで、特に行く当てもないし、逃げ出して見つかった時に殺されそうなので先ほどのキャバクラに戻ることにした。
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「お兄さん、おかえり。ちゃんとソードさんの言うこと聞いた?」
店に戻ると、カエデさんは箒を持って店の掃除をしていた。
「まぁ話聞いてただけなので特に何も」
「そっか、それじゃあ早速お仕事してもらおうかな」
にっこりした表情で迎えてくれたけど、俺はカエデさんの二面性が怖い。
「営業時間外は基本的に洗い物なり、ごみ捨てなり雑用しておいてね」
俺はもう言われるがままにしようと決めた。
イベントが起こるまではカエデさんの言う通りにして生活費でも稼いでおくくらいしか出来ることがないから。
カエデさんと話してる間に、キャバ嬢と思わしき一人の女が出勤してきた。
「おはようございます、カエデさん」
清楚な雰囲気でスタイルも抜群、黒髪で俺と同い年くらいなのに、俺とは醸し出してるオーラが全く違う。
カエデさんとはセクシーって感じだったけど、この人はビューティフルって感じだな。
「おはよう、ハルカちゃん。今日も頑張ってね」
「隣の人は誰ですか?」
「こちら今日から入った新人の子よ、自己紹介よろしく」
「はい、本日からお世話になります遠藤修と申します。よろしくお願いします」
「エンドューって呼んであげてね」
「ふーん、エンデューね。よろしく」
ありがとう、カエデさん。
この流れはもしや…ワンチャンあるのでは?
ちなみに一瞬、ワニみたいな目つきをしたように感じたけど気のせいだろう。
「エンドューにはハルカちゃんについてもらうからよろしく。ハルカちゃんは一番人気だから大事な役目よ」
「じゃあよろしくね、エンドュー。緊張してるけど大丈夫?困ったら助けてね」
ハルカさんは俺に満面の笑みを浮かべてくれた。
はっきり言おう。好きだ。
付き合ったことのない俺がこんな一軍みたいな人を好きになるのはどう見ても釣り合ってないけど、何かがきっかけで付き合えるなんてこともあるかもしれないじゃないか。
夢見たっていいじゃないか。
「はい、ハルカさんに付きまとう悪い虫は俺が退治します。ご安心ください」
どうすか?ちょっとはユーモアある奴だって思ってくれました?
「面白いね、エンドュー、ありがと」
よし、掴みは抜群だ。
そうか、俺の異世界ライフのメインヒロインはハルカさんか。
もう冒険なんてどうでもよくなった。
ハルカさんと付き合えるならこの世界に来た甲斐もあるとしか頭の中で考えられなかった。
ハルカさんが来たのを皮切りにぞくぞくと女の子が出勤してき、開店時間になった。
カエデさんは事務室に女の子を集め、開店前の挨拶をした。
俺は今日のところは雑用係として、食事の配膳や、客のトラブルなどがないよう店を徘徊する役割となった。
「よーし、じゃあ開店するわ!」
開店し、扉が開くのと同時に客が何人も来た。
「今日もハルカちゃんいる?」
早速ハルカさんに指名が入った。
「いらっしゃいオーディンさん、今日もいるわよ、ハルカちゃーん」
ハルカさんが奥から出てきた。
「いらっしゃい、オーディンさん、今日もご指名ありがとうございます。それじゃあ、お席の方に案内しますね」
男はハルカさんに案内され、席に座った。
「今日も来てくれてありがとうございます」
「いやいや、ハルカちゃんと話せるならいつでも来るよ」
開始早々ボディータッチ多めで、全然面白くないのに自分の話がいかにも面白いと言わんばかりの話し方が鼻につく。
俺の方が笑ってたからな。
お前に向けてる笑顔は営業スマイルだからな。いい気になってんじゃねぇぞ。
「ハルカちゃん、俺と結婚すればお仕事しなくても一日中一緒にいられるよ」
「やだ、オーディンさん、冗談が上手なんだから」
「えー、本当なのに」
こいつハルカさんとイチャイチャしやがって、客じゃなかったら確実に一発は殴ってるであろうけど、キャバクラである以上これくらいでいちいちイライラしてたらキリがない。
俺もこの空気感に早く慣れないと気持ちがもたない。
「ハルカちゃん、今日は何時に上がるの?良かったらウチ来ない?」
バカかこいつ。
そんな誘い方でハルカさんがついていくわけねぇだろ。
「今日は21時上がりですよ。そのあとでいいなら家まで行きますよ」
バ、バカな、そんな簡単に夜のデートができるのか。
ハルカさん…そんなことやめてくださいよ…
「じゃあウチで待ってるから。終わったら来てね」
「OK」
そんなことが許さるのか、あっさり過ぎやしないか。
俺も今度ハルカさんをデートに誘ってみよ。
これは迷惑な客ではないかと思い、俺が出て行こうかと思ったけど特に問題もなかったのでそのままにしておくことにした。
暫くして閉店した。
女の子たちも全員帰宅し、俺は残った酒やつまみの後片付けをしていた。
ちなみに、ハルカさんは体感で3時間くらいしたらさっさと帰ってしまったので、その後何も話すことはなかった。
「エンドューも今日は帰っていいよ。あとは私がやっておくから」
カエデさんも店の掃除をしながら俺に帰宅許可を出してくれた。
それ自体はありがたいことなのですが、なんせ今日来たばっかりなので帰る家など当然ない。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。帰る家もないしやることもないので」
「あら、そうなの。じゃあよかったら今日から暫くはここに泊まっていいよ」
マジすか?男と二人で共同生活ってちょっとまずくないですか?
それとも俺を男として見てくれていないのだろうか?
「え!?いいんですか?お邪魔になりませんか?」
「部屋もいくつか空いてるし、いきなり働いてもらって悪いことしたし別に問題ないよ」
「マジすか…ありがとうございます!」
家もないような奴を信じてくれるなんて優しいなぁ。
優しすぎて以前までの俺なら好きになってたかもしれませんが、ハルカさん(メインヒロイン)に出会ってしまったので申し訳ない。
「その代わり、片付けの方は頼んだわ」
「わかりました」
「私はご飯作るからちょっと待っててね」
寝床も確保できた上に、こんな美人に飯まで作ってもらえるサービスまで付いてくるとは。
絶対こんなとこ働きたくないと思っていたけど案外悪くないかもしれないな。
「あの、一つ聞いていいですか。カエデさんもここに住んでいるのですか」
カエデさんがここに住んでいるかは非常に重要な問題だ。
住んでいなければ何の問題もないが、もし住んでいるならば俺の理性は保てそうにない。
「そうよ、ここは店でありながら私の家でもあるのよ」
「なんかお邪魔して申し訳ないです」
「いいわよ、私もたまには誰かとご飯食べたかったし」
「俺なんかですいません…」
あなたをヒロインに選べなくてすいません。
「誰でもいいのよ」
「そうですか…」
「そうよ」
まあハルカさんがいるからいいけどね!
カエデさんと談笑しているうちに片付けを済ませた。
「終わりましたけど、他に何かすることありますか?」
「ううん、特にないよ。丁度こっちもできたから食べよっか」
唐揚げ、卵焼き、ウインナー、元の世界とほぼ同じような飯が出てきた。
「いただきます」
普通に美味い。完璧な女性じゃねぇか。
「カエデさん!めちゃくちゃおいしいですよ、初めてこんなに美味しいもの食べました」
若干オーバーだけど。
「大げさね、でもありがとう。家もないってエンドューは今まで何をしていたの?」
特に隠すことでもないし、信じてもらえないだろうし正直に話すか。
「信じてもらえないかもしれないですけど、俺、今まで他の世界で過ごしていて今日初めてこの世界に来たんですよ、右も左もわからず、ふらふらしてたらカエデさんに声をかけられたんですよ」
「そうだったんだ。そういうのもある時代なんだなぁ」
え、何かあっさりとしすぎてない?そんなに興味ない感じ?
時代とかも関係ないと思うけど。
「初めはめちゃくちゃびびりましたよ。凶器持ってくるし」
「あー、あれおもちゃだよ?そういうことしてみたかっただけで、本当に騙されるとは思わなかったよ」
いや、本物のクオリティだったぞ。
「まあ慣れるまではここで生活してくれていいから」
女性と共同生活というだけで少し緊張してきたな。
「ご馳走様。じゃあ私は部屋に戻るから何かあったらいつでも言って」
「一応説明しておくと、私の部屋は三階の一番奥よ。エンドューは、二階にいくつか部屋があるから好きなところ使って。お風呂は一階のトイレの横、洗面台は二階の一番端のとこ。じゃあおやすみ」
カエデさんは夕食を済ませて、説明を終えるとさっさと階段を上がって自室に戻っていった。
その後は特に何もなく、一人寂しく夕食を済ませてから一人寂しく片付け、一人寂しく風呂に入った。
風呂までもが今までと何も変わらない普通のものだった。
マジで異世界に来た気がしない。
風呂を済ませた後、二階に上がるとカエデさんの言う通りいくつかの部屋があった。
俺はその中から適当な一つの部屋に入った。
中は意外と整理されており、ベッドも用意されている。
クローゼットや、机なども置かれており一人で生活する分には困る点が何一つとしてなかった。
俺は布団に入り、電気を消した。
まさか異世界なんて本当にあるとは思ってもみなかった。
しかも、こんな何の変哲もない俺なんかがな。
転生した感は全くないけど、別にファンタジー展開は望んでいないし、ハルカさんとハッピーエンドを遅れたらそれでいいや。
んじゃあ、一日目お疲れ様。
実質第一話です。
この世界の説明や登場人物なんかも出てきてややこしいかもしれませんがどうぞ今後ともお付き合いいただければなと思っております。
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