ハルカとデート
夢の世界で正面にイカロスがいた。礼を言いたかったし丁度いい。
「昨日はサンキューな。おかげで助かったよ」
「それはよかった」
ついでだし、あいつの事を聞いてみるか。
「なあ、一つ聞きたいんだけど。爺さんはソードって奴を知ってるか?」
「ソードはわしの孫じゃ」
「孫!?爺さん、孫がいたのか」
「失礼な、わしかて所帯をもっておるわ」
「それは驚いたな、それで、孫には能力を授けたり、修行をつけてやったりしてるのか?」
「そうじゃな。わしの孫はソードだけじゃからの、可愛がっておるよ」
「俺に能力を授けたことも伝えたのか?」
「一応な。貴様に能力を悪用されてソードが襲われたらたまったもんじゃないからの」
それであいつは能力を知ってたのか。爺さんの過保護のせいで危うく死ぬとこだったぜ。
「人の手の内明かしてんじゃねぇよ」
「貴様の能力ではないじゃろが」
「俺が持ってるから俺のものだ」
「いい気になりおって。まあ安心せぇ、ソードが貴様に危害を加えることはないはずじゃ」
いや、危うく死にかけたとこだったわ。
「もういいよ、孫以外には教えんなよ」
「貴様が能力を悪用しない限りはな」
「しねぇよ、まあカエデの居場所を教えてくれたし、もう何も言わねぇよ」
「勝手な奴じゃ」
目が覚めると、カエデはまだ寝ていた。
俺はカエデの頬を少し突いた。この人の幸せは俺が守ってやる。
「なに?人のほっぺた触って」
「起きてたの?おはよう」
「今起きたの。誰かさんが起こすから」
「ごめんごめん、もう下行く?」
「もうちょっとだけこのままがいい」
「そっか。じゃあもうちょっとこのままでいようか」
恋人のような雰囲気が漂っていたが俺たちは恋人ではない。
俺はカエデの事が好きだ。しかし、こんなに好意を向けられてもまだハルカさんのことを忘れられずにいる。
ハルカさんが可愛いからとかそういう理由じゃない。彼女にはなぜか惹かれてしまう。魅力というのだろうか、もうよくわからないけど。
一時間ほどして時刻は9時になった。流石にそろそろ起きないとな。
「カエデ、そろそろ起きよっか」
「まだこのままがいい」
「いや、そろそろエルドレッドたちを呼ばないといけないし、今日は店もあるだろ?」
「そうだけど…」
「また時間が合えばいつでも一緒に寝るから。今日はもう…」
「ダメ?」
この状況で断れる賢者がいるなら教えてくれ。
「わかった。もうちょっとこのままでいよっか」
「うん!」
カエデは俺に抱き着いたままもう一度眠った。
それから2時間して、時刻は11時を回っていた。もう時間も限界だ。
「カエデ、もうそろそろ準備しようよ」
「まだこのままがいい」
「ダメだよ、今日やらないといけないこともあるし」
「今日の事は明日やる」
「いつからそんなにわがままになったんだよ。ほら、早く行こう」
「嫌だ、行きたくない」
「どうしたんだよ、行きたくない理由でもあるのか?」
「今日はシュウと一緒にいたい」
「大丈夫、一日中一緒だよ」
「それでも今は離れたくないの」
無理矢理でも離れることはできるけど、そんなことしたら嫌われかねないのでやめておこう。今日くらい別にいいだろう。
「わかった。じゃあ、エルドレッド達に連絡してから、店に臨時休業の立て看板だけ置いとくよ、ちょっとだけ外に出てくるね」
「ちゃんと戻って来てね」
「勿論だよ」
俺は外に出て、エルドレッドに電話をした。
「もしもし、エルドレッドか?」
「おう、兄ちゃん。それでカエデは起きたか?」
「起きたけど、体がしんどいらしいんだ。悪いけど、明日来てもらってもいいか?」
「おう、元々今日だって決まってたわけじゃねぇから俺は問題ねぇよ」
「悪いな。それで、その後白髪はどうしてる?」
「それがよ、あのガキ、やたら俺の家に馴染んじまったみたくてよ、意識が戻ってもずっと家に居候してやがる。夜中なのに遊びに付き合わされてよ、丁度いいから何も言わねぇけど、はっきり言って邪魔だぜ。まぁでも、もうカエデを襲おうとはしてないみたいだな」
「そうか、それはよかった。お前の面倒見がいいからじゃないか?」
「はは、こんなガキに喜ばれても嬉しくねぇよ」
「じゃあ明日な」
「おう」
電話を切った後、店に臨時休業の立て看板をした。
店の女の子たちやお客さんには申し訳ないが、店長が営業したくないって言ってるからやむを得ないだろう。
一通りやるべきことを終えて、部屋に戻るとカエデは寝ていた。
そんなに疲れているのかな。普段の重労働もあるだろうけど、なんだか心配だな。
あ、そういえば今日まだジグロード外に出していなかった、一回出さないとな。
俺はいつもの山に行って、ジグロードを外に出した。
「どうだ?傷の方はもう治ったか?」
「まだ多少残っておるがこの程度なら問題なかろう」
「そっか、それならよかった。ちなみに全力ならあいつを倒せたか?」
「まあ余裕だろうな。あのクソガキ、ドラゴンは敵ではないとかぬかしておったがドラゴン族かて貴様など敵ではないわ。そもそもドラゴン族とはこの世界における…」
こいつのドラゴン族の話長いから嫌なんだよな。
「わかった。何も問題なければ人に見つかる前に中に戻ってくれ」
「おい、少しはわしの話聞けよ。たわけが」
ジグロードはぐちぐちを言いながら体に戻っていった。
さてと、俺も店に戻るか。
あれ?あそこで歩いてるのハルカさんじゃないか?
「おーい、ハルカさん」
ハルカさんはこちらに気づいたがシカトして逃げるように走った。
「待ってよ、ハルカさん」
俺は追いかけて、驚くほどすぐに追いついてハルカさんの手を掴んだ。
そもそも女性と男性だと足の速さが全然違う。
「待ってくださいよ、なんで逃げるんですか」
「店が休みらしいじゃない。だからこれから行くとこがあるの、放して」
「ちゃんと話をさせてください。なんで避けられてるか俺さっぱり分かりませんよ」
「避けてないわよ」
「この前から明らかに俺の事避けてるじゃないですか。何かあるなら言ってくださいよ。俺、今のままじゃ嫌ですよ」
「別にいいじゃない、私じゃなくても。カエデさんがいるんだし」
「カエデは関係ありませんよ」
「カエデ?いつから名前で呼ぶようになったのかしら。店の上司に対して随分と親しげじゃない」
しまった、さっきまで喋ってたせいもあってついうっかり出てしまった。
「いや、俺も店に住んでますから、プライベートでは名前で呼ぼうかと…」
「あっそ。私には関係ないけどね」
どうしよう、何かハルカさんの気をひくようなことはないか。
「只今、抹茶フェスを開催しております。期間限定の抹茶アイスを発売中です」
抹茶か何か知らないけど、女の子だったアイス好きな子は多いんじゃないのか。女性と付き合ったことないので知らないけど。
「ハルカさん、あそこ行きませんか?抹茶好きでしたよね?俺おごりますよ」
「いいわよ、一人で行くから」
ハルカさんは俺を置き去りにして店に入っていった。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
「大人一人で」
「かしこまりました」
「すいません、大人二人で」
俺は慌てて付け足した。
「かしこまりました」
「なんでついて来るのよ」
「話がしたくて…」
「…まあいいわ。一人で食べてたら寂しい奴だって思われそうだし」
店は予想以上に空いていて、俺たちはすぐに席に案内させられた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「この抹茶アイス一つ」
「あ、俺も同じものでお願いします」
「かしこまりました」
店員は厨房に行った。
「何で同じもの頼むのよ」
「いや、俺も抹茶好きなんで」
本当は抹茶は全然好きじゃないけれどハルカさんと同じものを食べたかっただけだが。
「そうなの!?私も好きなの。抹茶美味しいよね。苦いだけじゃなくて苦さの中にある甘さっていうかほんのりと香る特有の匂いもたまらないのよね。ここのお店は抹茶に特に力を入れている上に期間限定なんてもう食べるしかないよね」
そっけない態度のハルカさんが抹茶一つでここまで変わるとはな。
ハルカさんは思い出したかのように先ほどの態度に戻った。
「まあ君には関係ないけどね」
「ハルカさん、いい加減教えてくださいよ。俺何かしましたか?」
ハルカさんは俺の熱意に押し切られたのか、観念したかのように答えた。
「私聞いちゃったんだからね。カエデさんと楽しそうに話してるところ」
「どういうことですか?」
「セクハラされた次の日、忘れ物をしたのに気付いて店に行ったの。気付いたのは夜だし、営業してないから迷惑の掛からないようにこっそり裏口から事務所に入ったわ。一応、従業員だし鍵は持ってるの」
店の警備ザルすぎるだろ。誰に侵入されても文句言えないぞ。
「その時に店で楽しそうに二人が話してるのが聞こえてきたの。最初は、仕事仲間として今日の事でも話してるのかと思ったけど、どうやらそうでもないみたいだった」
「いや、それは…」
「別に二人がどういう関係でも私には関係のないことよ。でも、そういう仲なんだったら変に遠藤君と絡んだりしたら迷惑かなって思ったのよ」
良かった、俺が何かをしでかして避けられてたわけじゃないのか。
「そんなこと気にしなくていいですよ」
「私が嫌なの。自分が付き合ってる人が他の女と仲よさそうに話してたら嫌だもん」
「でも、俺たち別に付き合ってるわけじゃないですよ」
「え!?そうなの!だったら早く言ってよ。変に気遣ったじゃない」
「カエデと仲良くなったのは事実ですけど、まだ付き合ってないですよ」
「まだ!?じゃあ、これからそういう予定があるのかしら」
「いや…それは何とも…」
ハルカさんに自分の思いを打ち明けるべきか悩んだけど、今ではない気がした。
「まぁこのままの状態っていうのも仕事に支障をきたすかも知れないから、これからは必要な時に最低限の事だけは話すようにするわ」
「仕事以外でも話してくださいよ」
「それは結構よ」
悲しいけど、ハルカさんとこれからは普通に話せそうで良かった。
「まあでも私もう少ししたらパラダイスやめるけどね」
「え!?やめちゃうんですか?何で急に」
「本業の方が忙しくなりそうでね」
「本業って何してるんですか?」
「それは秘密。あんまり人には言いたくないのよ」
いやいや、危ない仕事の匂いしかしないぞ。
「でも、このタイミングでやめなくてもいいじゃないですか」
「まぁパラダイスでもう少し働いていたかったけど、そういうわけにもいかなくなったの」
「せっかく仲直り出来てこれからだったのに…」
「今度街で見かけたときは声かけてあげるわよ」
「それだけじゃないですか」
「カエデさんと末永くお幸せに」
「話そらさないでくださいよ」
やっぱりハルカさんと話してたら楽しいな。
でも、これは好意なのか?よくある友達以上恋人未満ってやつじゃないのか?会って話してみたらわかると思ったけど、そう甘くはないみたいだ。
「ご馳走様、あー、美味しかったわ。じゃあ私用事あるから帰るね」
さっき来たばかりの抹茶アイスをもうすでに食べ終えていた。
用事ってのはアイス屋に行くことではなかったみたいだ。
「明日は店来てくださいよ」
「言われなくても行くわよ」
少し喧々しながらハルカさんは帰っていった。
残されて一人アイスを食べる俺の姿はさながら女に振られた残念な男のようにしか見えなかった。
皆さんの意見や批評など、よろしければ何でも送ってください。
なにぶん素人なので、より面白いものを読者の皆様と作っていけたらいいなと思っております。
よろしくお願いします。