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6話 なんか寒ない?

「この本を書いたのイデアでしょう?」



「?!」



またもや驚いた表情。



「この本だけでなく、この部屋にあるすべての本も」



「なぜ、そう思うのです?」



「人を研究されてるのでしょう。それに、どれもこれも文体が同じで似たような絵文字が散見されるからですよ」



「それだけでは説得力に欠けますね」



イデアは腰に手を当ててやれやれと首を降った。



僕は手を光らせると近くにあった本を呼び寄せた。

これは、呼び寄せというエーテル術。



そして後書きにある、



神より愛を込めて、恋大き女神より(Smiling Face With Smiling Eyes)

のページを開いて見せる。



腕を振り上げ、何十という本を宙に浮かせ、後書きのページを開いた。

どれも同じ名がある。



「この恋多き女神、イデアの筆名でしょ?」



「…他の女神かもしれませんよ?」



「この間神に性別があるのは特別だと言ってました

よね」



一瞬間があり、



「と、特別なだけで私だけとは限りませんよ」



少し頬が赤らんできた。



「では、女神は複数もいるのですか」



腰から手を離し、両手を広げた。



「そーなのです!私には姉妹がいるのです。妹のイデーが。なんならここにお呼びしましょうか?」



そこまでするのか。取り繕いすぎて見てられないよ。

でも、ホントにいるのかもしれない、けどなあ。



「お願いします」



意地悪したくなってお呼びして頂くことにした。イデアは指を鳴らすと、よく似た女神が現れる。けれど後光はなく、生気がない。それに似た造形だがまるで神々しさを感じられない。



「この子が私の妹のイデーです」



イデーと呼ばれた存在は会釈をした。こちらも会釈を返す。



「…どうです?私の妹は」



目を反らし、下を見つめながら感想を求めてきた。



「あー、そうですね。初めまして」



イデーは会釈した。



「…話はできないのですか」



「どうやら、たかが人間とは言葉を交わしたくないようですね。ねー」



イデアはイデーの頭を撫でた。無反応にこちらを見つめている。なんなんだこの茶番は…それにたかが人間とか酷いな。僕はエーテル術のひとつ"見破る"を使った。するとイデーはたちまち消散した。



「…」

「…」



沈黙が続いた。広い空間に静かな空気が流れ、少し息が詰まる。エーテルたちが人間なら気まずそうに引きつった顔をしているだろう。



しばらくしてイデアは口を開いた。



「…あなたの言う通りです。これらの本は私が悠久の時の中で執筆した研究の類いです」



声のトーンに冷淡さがある。そこは空気を読んで欲しかったのだろう。あまり怒らせては駄目だと反省したが、



「やっぱりそうですよね。ところで、今のイデーというのは何だったのです?」



さらなる追い討ちをかけた。どう言い訳するのだろうか。



と思ったが、イデアの髪がだんだんと逆立ってきた。怒髪天を衝くとはこの事かもしれない。エーテルも共鳴し、怒りの感情が僕の全身を貫いた。めっちゃ痛い。



「どうやら、あなたは私を怒らせたいようですね」



これ逆ギレでは…



「いえ、そんなことは滅相もないです」



「イデーなんていませんよ。私が即席で造り上げたエーテルの虚像です」



エーテルの激怒の色は赤色で。体が熱はくなってきたし臓器まで痛い。心臓がバクバクと高鳴りだす。



「そ、そうでしたか。つまらぬことをお聞きして申し訳ありませんでした。何でもしますのでお許し下さい」



「わかればよろしいです」



そういうと、周囲のエーテルの色が無色に戻りだした。イデアの逆立つ毛も落ち着きはじめる。



「で、何の話でしたっけ?」



イデアの表情がケロッと戻った。胸はまだ少し痛い。



「僕がエーテルを使えるようになった話です」



「そうでしたね。エーテルを扱えるようになったのは素晴らしいことですわ。ですが、現実世界のエーテル量は0に等しいのですよ。なので、実用的とは言えませんね」



「僅かにあると書いてありましたが?」



「微量すぎて文字の具現化もできませんよ」



やっぱり、そうなのか。この部屋は天界と繋がっているためエーテルが充満しているが、世界にはないのか。



「では、エーテルを学ぶことは無駄なことなのでしょうか?」



イデアは腕を組み顎に手を当てる。



「んー。無駄ではないですが、実用的な点から言えば、魔法を学んでもらいたいですね」



魔法か。実際、初めてのエーテル学のあとに初めての魔法学も読んでみたが、全然駄目だった。もっとも初歩的な魔法である"火起こし"もうんともすんともいわなかった。それに、魔法を扱うには一定量の魔力が必要なのだ!と書いており、僕の世界では魔法をついぞみなかった=魔力なんてない、と思い込み、エーテル学の方にのめり込んだのだ。



「魔法はまるで駄目でした。そもそも、魔力を持ち合わせてないと思います」



イデアは僕に近づき額に指を当てると、



「うーん。たしかにあなたからは魔力を感じませんね。そう言われると、生前は魔法なんてなかったと言ってましたね」



「そうなのです。では、僕は魔法を扱うのは無理なのでしょうか」



イデアは僕の顔を覗き込んだ。間近で見ると陶器のような肌をしている。なんだか、恥ずかしくなって顔を背けた。が、顔を両手で挟むと無理やり対面させる。顔と顔の距離が余りにも近く鼻先が当たった。



「あなたに魔力を授けましょうか」

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