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5話 初めてのエーテル

「わたくしの考える、付き合ったらしてみたいことランキング、栄えある第一位の発表です!じゃかじゃかじゃかじゃかじゃん!」



あれから、イデアのランキング形式による恋愛話はずっと続いていた。わたくしの考える恋愛ランキングは何十もの部門があり今やっと"付き合ったらしてみたい"の第一位。純真と輝く彼女の周囲はエーテルを乙女色にした。



「炬燵に入りながら大晦日を迎えるです!」



世界も時間軸も無視をして過去・現在・未来の様々なシチュエーションを想定して妄想を楽しんでるようだ。最初は相づちを打っていたが、だんだんと聞くのが苦痛になり、何度か意識も飛んでいった。



ふと僕がいなくても問題ないのではと思い、側を離れて柱に隠れてみたが、お構いなしに独白を続けるので、それからは本の翻訳作業を始めた。どうぞ、話してくださいといった手前気が引けたが、時間を無視して永遠と話されるのだ。誰だって嫌になるでしょう…

時折、「どう思いますか?素敵ですよね?」とクエッションが飛んで来るので耳は傾けたまま。



「年の瀬の静寂とした雰囲気のなか、愛し合う二人で新年を迎える。ああ、お互いどんな感情を抱くのでしょう。この一年間の思い出を振り返り、あんなことあったな、こんなことあったなって…」



今や話すことに夢中になりすぎて壁に向かって話続けてるよ。やっぱり僕って必要ないよな…。



イデアの長期間の独白タイム中になんとか言語の習得ができた。発音はできないが読むことができるまで。



わからないところはイデアの話を遮ってその都度質問し(…なんて素敵な男性なこ、ん?ああ、それは~という意味で、活用形は~ですわ、とでしょうかそんな逞しいおかたと…)、本の場所を聞くとイデアは手を光らせ、腕を振り上げると僕のところまで運んでくれた。



それから、初めてのエーテル学を読破した。何度も恋多き女神に確認を繰り返しながら読み進めたため、読了するのには時間がかかった。



わかったことはエーテルは天界だけの構成物質だと思っていたが地上にも僅かにあるそう。不変の物質であり、感情にひどく反応してしまうため、扱うには精神のコントロールが重要。それに並外れた集中力が必要になるのだとか。



読み終えたあと、はじめてのエーテル学の序章、わくわく!最初の第一歩!《文字を具現化してみるぞ!》を試してみたが、全然できなかった。

微塵も反応してくれない。見えないエーテルに観念を伝搬させようと目力強く睨み付けてみたが全く駄目。空気のような、けれど存在していることは肌で感じるのだが、僕のような人間では扱えないのだろうか。



いや、そんなことはない。エーテル学の序言にも、始めは心が折れやすい、なんだって経験したことないことをするのだから、、、継続は力なり!諦めない気持ちがエーテルたちの心を動かすのだぞっと書いてあるのだ。著者=イデアが言うのだ。なら間違いない。

そう自分に言い聞かせ、めげずに繰り返し繰り返し具現化術を行ってうちに、水蒸気のような煙が現れ、天井へ向かって消えていった。



やった!もう少しだ。



徐々にコツを掴みはじめた。集中力よりも頭のなかで強くイメージすることが重要だったのだ。そして思い描いたことをエーテルに投影して表現するのだ。



そしてついには文字の輪郭が現れた。なるほど、こうすればよかったのか。

そのあとも何百と失敗し何千回と反省を行い、試行錯誤を続けたある日、宙に文字がくっきりと浮かび上がった。



たしか、イデアの金婚式を迎えた老夫婦で旅行してみたい場所ランキングの時。



"てんせい"



初めてエーテルを使ってできた文字は転生だった。



僕はあまりの嬉しさに思わず、できた!と叫んだ。



「奇跡ですね!!」



同時にイデアがそう言ったが、



「だって生涯の半分以上を共に過ごしたのですもの」



ランキングの話だった。





"てんせい"の文字はすぐに消えたが、とてつもないくらいに達成感があった。凡人だった只の人間が神の物質を扱うことができたのだから…



生前にこれ程夢中になって取り組んだことはなかったな。死ぬ気で頑張っていれば充実感を味わえたのかもしれない…死んだのだけれど。

思えば、転生してからどれくらいの時が経ったのだろう。まだそれほどの時間は過ごしてないのかな。死ぬと無になるとおもっていたのに、本の山に囲まれて女神と共に"生きる"ことになるとは考えもしなかった…





そうして、初めてのエーテル学に載っている技術を次々に身に付けていき、気がつけばほとんどをマスターしていた。一度方法がわかるとそこからはすらすらとできた。色彩術や収納術にそよ風を吹かしたり、メロディを奏でたり。今では空中浮遊もお手のものだ。



入門書なだけに日常生活の延長線上の術ばかりだが、中級編、上級編、自然編、形而上学編などまだまだエーテル学書には段階があり、またまだ知らない術があると思うとても興奮した。早くその先を知りたい…!



自然編をちらっと読んでみたが嵐に落雷、竜巻に噴火や地割れなどエーテルを介せば自然現象をも人為的に引き起こすことができるとある。エーテルとはなんとも恐ろしいものを秘めている。



そして、



「…以上でわたくしのランキングは終了となります!ご清聴ありがとうございました!…て、あれ、壁じゃないですか」



ついにイデアの恋愛ランキングが終わったようだ。あまりにも長過ぎた。もう永遠に続くのかと思ったし、終わってよかった。



「終わりましたか」



振り向いたイデアは、話終えた勢いで体から湯気が立ちのぼり顔は真っ赤になっていた。



「あ、そっちにいたのですね。どうでしたか、私の恋愛観は?」



「言葉にできません」



そういうとイデアはニコッと笑った。



「遠慮しなくていいのですよ?共感できるところだったり素敵だなと感じたなら、思ったままに答えてくれたら良いのですよ」



あまりにも長過ぎる!が素直な気持ちだけど、そんなこと言って嬉しそうな笑顔に水を差したくないしな。

うーん、ランキングで印象に残ってるのは…



「そうですね…順位は忘れましたが両思いでしてみたいことの、星降る夜に天体観測、とか好きですかね」



「第4652位のですね。へえ、あなたはそういうのが良いのですね」



腕を組んだイデアはうんうんと頷いている。僕は習得した文字の具現化を使ってみた。



"ロマンあるでしょ"



するとイデアは驚いた表情を浮かべた。



「それは文字の具現化術!いつの間にそんなことを」



"他にもありますよ"



僕は手のひらにエーテルを集中させ、天井に向かって解き放った。すると七色の虹がかかる。



「それは雨要らずの虹!ほうほう、なるほど、何か読んでるなと思っていましたが、初めてのエーテル学を勉強されたようですね。ということは言語の習得も」



「はい。言葉はある程度理解できたと思います。エーテル術もだいたいは扱えるようになりました」



「センスがあったのですね。いや、相当な努力をしたと見受けられます。まあ、著者が良いというのもあるのかもしれませんね。わかりやすく丁寧に書かれたものばかりですから」



どこか自慢気に話すイデア。それを聞いて、思わず笑った。

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