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いつだって恋する女神と一緒なら救えない世界はない  作者: おつかれ
第3章 オクシデントの世界
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40話 役者は揃ったはず

「ありゃ~、船漕いじゃってるよ」

公国宰相のエミアは、セプテン城の居壁で、こくりこくりしているデモーク公爵を見つけた。城下では魔異同士が苛烈な攻防を繰り広げている最中、我関せずと気持ち良さそうに眠りについていた。


「おーい、デモークの爺ちゃん!起きなよ〜」


返事はなかった。体を揺さぶるも目を覚ます気配は全くない。

エミアはデモーク公爵の耳元に手を当てて、鼓膜が破れるくらいの大きな声で叫んだ。


「起きて〜、デモークの馬鹿爺ちゃん〜!!」


「!!...んんっ!」


片目を半開きにし、驚いた表情を見せるデモーク。その勢いで、城壁から落下しそうになるのを慌てて支えるエミア。

だが、まだまだ微睡みから覚めない様子だった。


「どうやったら、戦場で寝れんだよ〜」


もう、と言うとエミアは背中を何度か叩いた。

その反動でゴホゴホとむせたが、眼の前にいる孫のエミアを視界に捉えると、はっきりと目を覚ました。


「なんだエミアか。久しいなあ」


笑顔を見せると、嬉しそうにエミアの手を掴む。


「いや、孫との再会を喜んでる場合じゃないよ。何しにここに来たのさ!」


「さあ。わからぬ」


「ほんとにボケたんじゃないの。リスト公がお呼びだから、とりあえずこっち来て!さっ!」

二人はゆっくりと宙に浮かぶと、孫娘に手を取られながら城下へと降り立っていった。


地上では、玉座で肩肘つきながら眼前の巨体を眺めるリスト。

マリッド級の悪魔"コリン"は完全に召喚されていた。人の5倍ほどある大きさだが、頭はデカく子どものようなずんぐりした胴体。だが、立ち上がることはなく背中を丸め、両手を前についていた。


「...」

「...」


両者は睨み合っていた。

明らかに不機嫌な"コリン"は、相も変わらず暴言を吐きながら、地面をバンバンと叩いていた。その度に大地は揺れ、両軍の攻撃の手は止まる。"ヴァルキューレ"の弓矢が突き刺さっても物ともせず、敵に堂々と背中を見せる"コリン"。魔力が枯渇しかけているため、どうにもすることができないリストはため息をつく。俺も滑られたものだなと独りごちた。


「リスト公〜!連れてきたっすよ〜」

遠くから声が聞こえ振り返ると、エミアに手を取られながら、ふらっと飛んでくるデモーク。その姿を見てリストは玉座を消し去ると、恭しくお辞儀をした。


「閣下。ご無沙汰しております」


「そう固くせんでよい。おお、"コリン"ではないか。元気にしておったかい」


デモークの姿を見るや"コリン"の態度は百八十度変わった。何かを思い出したのか、背筋を伸ばすと、片膝をつきながらゆっくりと立ち上がった。


「へえ。私めは元気ですぜ。して、閣下はいかにお過ごしで?」


「楽しく余生をすごし...おっと」


彼らに向けて"ヴァルキューレ"の弓矢が放たれたが、公爵は体を傾けて回避。"コリン"は初めて異界軍に目を向けた。そして、鬱陶し蝿を潰すかのように手を叩くと、遠くの"ヴァルキューレ"の軍隊はぺしゃんこに押し潰れた。


これには異界の指揮官デメルングも眉をひそめた。

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