39話 魔人側も疲れている
「おい、ご老公はまだ着かんのか?」
セプテン公リストはマリッド級の悪魔"コリン"を召喚し終えると流石に疲労の色がみえた。地面に描かれた複雑な魔法陣は巨大で、共に詠唱した魔人たちは力を使い果たしたのか膝をつき、幾名かは地面に突っ伏していた。
リストとしては長年付き添ったフリート級の悪魔龍"テッサロン"が倒されることを想定していなかった。
フリート級の悪魔を召喚することは伯爵以上の高位魔人にしか行えず、強さは一個連隊と同程度。だいたいの戦争では"テッサロン"一体で戦況を変えることができた。しかし、今回の相手は異界の軍勢。幼少期から共に過ごした記憶が一瞬よぎるも、悲しむ暇はなかった。リストは自身の最大魔力をつぎ込むと、さらに上位であるマリッド級の悪魔を呼び寄せた。
マリッドの悪魔"コリン"は巨体で、いまだ半身程度しかこちら側に出てきておらず、眠りを妨げられたのを嫌がっている様子。
これはまだまだ時間がかかるだろう。だが、敵軍の攻撃は休まる気配がなく、空中からは得体のしれない矢の雨が降り注いでいる。
「殿下!デモーク公爵は既にお見えです」
迎えにやった使者が答えた。
「なんと! 先に言わんか」
リストは苛立ちながら、ぎろっと睨む。
「ですが...」
「なんだ」
使者たちは顔を見合わせると、次のように答えた。デモーク公爵は首都に到着後、ふらっと浮かび上がると、戦場を一周したのちにセプテン城の居壁に着地。それからは何度呼びかけても返事はなく、また微動だにしなくなったと。
「訳がわからんな」
リストは額の汗を拭いながら、城の方向を向いた。たしかに、端のほうにうっすらと人影がみえる。
「耄碌したんすかねえ。だって、何百年も山頂に引きこもってんでしょ」
好戦派の宰相エミアはそう言いながら、呪文を唱えると敵陣に激しい雷が落ちた。
エミアはピンク色に染めたショートボブを揺らしながら、大きな目を細めると、ニヤニヤした顔をリストに向けた。
「すまないが、様子を見てきてくれないか。俺はここから動けん。まりょきゅが底をつきかけている」
「疲れすぎて甘噛みしてるっすよ。りょーかいっす」
疲労困憊のセプテン公リストを嬉しそうにチラッと見ると、エミアは城のほうへと飛び立った。
悪魔"コリン"はやっと下半身がみえてきた。子供のような顔はしかめっ面で、召喚者であるリストに悪魔語で暴言を吐いていた。
リストは飛んでくる矢をはじき返すと、"ヴァルキューレ"に向けてフレア魔法を放った。だが、威力は弱々しく彼女らに傷をつけることはできなかった。
「...少し休ませてもらう」
そういうとリストは玉座を傍に転移させ、咳ばらいをしながら深く腰を掛けた。
テッサロン...テッサロニキ。ギリシャの都市
コリン...コリントス。ギリシャの都市
悪魔の階級はマリッド>フリート>シャイタン>ジニーにします。
児童書バーティミアスが好きで子供のころにずっと読んでいました。
それによれば、マリッド>アフリート>ジン>フォリオット>インプでした。




