37話 魔異戦争の始まり
デモーク公爵は齢800はゆうに超える魔人であった。セプテン公国を200年間統治したのち、重臣リストに譲位。人魔の和解が成立した年のことであった。
「私の役目は終わったのだ」
退位後は公国の北に位置するアブダラ山にて、平穏な隠居生活を送った。
容姿は老ぼれており、魔人の特徴である灰色がかった肌はカサカサで、尖った耳は遠くなり、長く伸びた白髪は後ろで束ねていた。服装は魔人らしく、一張羅の群青色でゆったりとしたローブ。
公国の存亡の危機と駆けつけた使者から話を聞くと、異界の軍勢達に立ち向かうために首都へと向かった。
デモーク公爵が下界に降り立つのは実に100年ぶりである。
首都。
エーテルを浴びた異界の怪物は消滅したが、インペラトルに忠誠を誓った人魔は健在だった。コンスルのエクシェ敗北後、プラエトルのデメルングが臨時に指揮を引き継いだ。北方へと退却後に異界軍を立て直すとそのまま北進。
ダザイン支配地域を抜けると、エーテルの効力が弱まり、異法が使用できるようになった。デメルングは報告を受けると、北部ゲルマ地方にて異法を背景に強制徴収を行い、セプテン公国を強襲した。
異法とは異界のエネルギーを利用した技術であり、使用者によって威力は異なる。オクシデント世界では未知の代物であったが、最優先事項として国家主導のもと大規模な研究が行われ、異界研究者により解明されつつあった。
デモーク公爵は使者たちによる移動魔法にて首都に到着。
そこでは、リスト公の指揮のもと首都防衛戦が繰り広げられていた。
「閣下、ご覧の惨状です」
「はあ?」
使者の声が聞こえなかったのか、デモーク公爵は聞き返した。
「ですから、ご覧の惨状です!!」
「はあ」
使者たちは顔を見合わせた。本当にこの人物がデモーク公爵なのかと。明らかにヤバメな年寄りにしか見えなかった。




