33話 世界にエーテルを
「つまり、人魔の混成軍とインペラトルの軍勢が衝突した瞬間に、エーテルがこの世界へと流入したってこと?」
「そういうことだな。あれのせいで主人の軍隊は敗北したんだろう」
エビルは聖地イデアのある東の方角を指さした。今になって気付いたが、夜にも関わらず眩い光。聖地イデアからは天に向かって光が放たれて、世界にエーテルが降り注いでいた。
「これってもしかして僕のせい?」
「ああ、おまえのせいだ。私サイドからすれば、とんでもないことをしてくれたものだな」
「ジャッジは?」
「知らん。というか、奴も異空間に入ったのか。まあ、何処かにいるだろう」
「大丈夫だといいけど。ところで、なんで敵のエビルがここにいるの?」
それがだなとエビルは話し始めた。ホールを通過するや光の突風で、旧ダザイン帝国辺境まで飛ばされたそう。
意識朦朧と周囲を彷徨っていると、偶然、勝利に酔いしれる軍隊と遭遇。だが、運良く難民だと勘違いされるとすぐに保護され、今に至るようだ。
「本来ならばすぐにでも主人のもとに向かいたいのだが、この有り様だ」
エビルは念じると、樫の杖を空に向け異界のエネルギーを放った。
しかし、以前と同様、星形のオブジェが飛び出すと、すぐに地面に落下した。
周囲は大勢の兵士に難民たち。こんなところで、敵側の幹部だとバレると身に危険が及んでしまう。能力を使えない今、エビルは大人しくするしかなかった。
「私はただの凡人になりさがった。難民に紛れて身を隠すしかなかったのさ…」
「そういうことなんだ。ということはこの人たちは…」
「おそらく、人魔の混成軍だろう。ちっ、」
野営地に戻ると兵士たちは酒を浴びるほど飲み、陽気に歌や踊りで楽しんでいた。
従軍聖職者たちは傷ついたダザインの民や兵士たちに癒やしを唱え、エーテルの効果もあってか傷病はたちまち完治した。
ようやく理解が追いつき始めた。
つまり、意図せずに世界を救ったのか。
だけど、イデアはどこに…
突然、遠くから大歓声が聞こえると、天幕から大柄な男が現れた。
エビルはその姿を見るやフードを目深に被ると、さっと物陰に隠れた。
その男は将軍オドア。大剣を背負い、分厚い胸板に隆々とした上腕、普段は険しい顔つきが、宿敵を葬った今は穏和な表情であった。




