18話 なぜなのだろう
広い空間にイデアの声が煩いくらいに反響する。その怒気のこもった声色に審判者はビクッとし、その場から動けなくなるくらいに身体は硬直した。
そして、辺りが段々と暗くなり、空は淀んだ雲で覆われ始めた。
「イデア、見ているのですか」
僕は上空から覗いているだろうイデアに問いかけた。
「ここは私の内です。常にあなた方を見守っていると思ってもらって構いません。つまり、すべての行動は私の監視下です」
まるで、勝手な行為は決して許しはしないという想いが込められたような強い断言。その言葉の刃先は審判者に向けられていた。
"ここから出してはくれないか"
審判者は弱々しく訴える。が、イデアは突っぱねた。
「私の彼がエーテルで実戦に望める程度に上達したら、解放してあげます」
そういうと、濁った雨雲は分厚さを増していき、表面を稲妻が走る。
「ただし、その子に近付きすぎるのは厳禁です」
審判者は嫉妬の感情が包み込むその強烈な程の僕への愛情に初めて気づいたようだった。
そして、なぜか神の領域に存在している人間の特別性を自覚したように驚愕の面持ちで恐る恐る距離を取り始めた。
「分かればよろしいです」
雲間に太陽の光が差し込み始める。
「では、先に述べたようにこの子を鍛えてあげてくださいね」
語尾の跳ねる調子の物言いに、さっきまでの怒りの強さとのギャップがまた恐ろしかった。
イデアは恋愛に関しては一途すぎるかもしれない。だが、それだけの愛情を注がれている僕自身は歓喜と同時に慄きもある。
なぜ、ここまで気に入ってもらえたのか、未だに腑に落ちてはおらず、不安になった。合点のいかない愛情には、急激な冷気による裏切りも隠れていることはご存知のとおりであるから。
快晴の空の下、審判者は僕の力量を知るために様々なエーテル技で腕を試してきた。
そして、剣技や格闘など体を使うセンスは皆無だとしり、ならばと遠距離技をいくつか伝授してくれた。
そこで、僕の隠された特技を見出すこととなる。




