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17話 出れなくなった

僕も審判者を置いて、一旦秘蔵書架の方へ戻ろうと思い意識をそちらに向けたが、なぜかそれができなかった。


ん?なぜだ?


今度は身体に戻るために瞼を開けようとするもそれも上手くいかない。

これはまさか、僕も高原に閉じ込められたのだろうか。


審判者はずっと僕を見ていた。


「あの、僕も本当にこの高原に閉じ込められたようです」


"そのようだな"


途方に暮れる二人の間を涼し気なエーテルが吹き去った。


とりあえず、小屋の方へ行きましょうかと無言のまま二人並んで歩きだす。


着いてからわかったが、ログハウスはとても粗末なできだった。いかにも素人作りで、乱雑に塗りたくられた白塗りの壁、手すりは剥げており、ベニヤ板の床は踏むとギイギイときしんだ。


玄関を開け中に入ると、天井からぶら下がった丸い白熱電球の下に木目調の机があり、花瓶には枯れた向日葵が3輪飾られている。

壁紙も原色の黄色が使われており落ち着きのない空間。イデアのセンスに脱帽した。


側にあった緑色のソファに腰を下ろし、二人揃って頭を抱える。


しばらく経って、

「これからどうしよう」

と独りごちると、落ち着かない様子で貧乏ゆすりをする審判者は、

"この部屋がしんどい"

とギラギラした眼つきでこちらを見るので、外に出ることにした。


「本当にこれからどうします?」


どこまでも続く芝生の上を歩きながら、空を見上げた。


"私自身、使命を全うしなければならない。だが、私の力ではどうすることもできない"


そういうと審判者はまた脱出を試みたが、すぐに同じ位置に戻ってきた。


「ちなみにですが、いつ頃からイデアを監視していたんですか」


"100年前からだ"


「随分と長いですね。ジャッジは何を審判するのです?」


"女神イデアの逸脱行為。既に審判は下されている。が、ずっと側にいる私はいつのまにか、感化されていたようだ"


そういうと顔を覆う布を上げ、こちらに顔を向けた。陽を知らない青白い頬を少し赤くさせており、少し前髪のかかる眉尻は下を向き、眼つきは鋭いが瞳の奥は優しげで、何よりも驚いたのが、審判者は女性だった。


「女だったのですか」


"性別を知ったとき、私が女であることを理解した。女神イデアが教えてくれたことだ"


「つまりですが、ジャッジも禁忌に手を染めているのでは?」


"そうかもしれない。女神イデアは恐ろしいお方だ"


布を下ろすと、じっとこっちを見てくる。あなたは男かと聞かれ、はいそうですと答えると、審判者は僕の方に近づき、顔に触れようとした。その時、高原にイデアの声が響き渡った。


「それ以上近づいてはなりません」

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