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16話 誰か来た

「今のを防衛するのはなかなかに凄いですよ!」

目尻にしわを寄せながら、すごいすごいというイデア。


「ですが、流石に今のは危険すぎます。危うく死ぬところでした」


一部が吹き飛んだ壁を消失させながら、僕は言う。

「恐かったです」


「貴方の私への想いを試してみたかったのです。本物なら、防げることは確信していましたし」


口角を上げながら、ぐっと親指を立てるイデア。


「ですが、まだまだエーテル学の道なりは険しいです。上級編ということはこれから、どんどんと実戦を積まなければなりません。そこで…」


そういうと、指を鳴らしたイデアの横に見知らぬ人影が現れた。目のところをあけた真っ白の頭巾に真っ白の服装で身を包み、顔を覆う布には満月と重なるように太陽が描かれた紋章。眼光は鋭く、釣り上がった目尻に瞳の色は青かった。


「誰ですか」 

イデア以外の人間と対面するのは、死んでから初めてだった。だから一瞬身構えたし、それに全身真っ白の服装だが、足が長くすらっとしていて、純白のイデアと並ぶ姿はお似合いな感じがする。なぜかわからないが、嫉妬の感情が湧いてきて、少し語気を強めてしまった。


「私も誰かは知りません。けど、少し前から、ずっと監視してくるのですよ。困ったことです。そうですよね?」


そう尋ねられた白装束の人物は頷いた。


「この人関連で多忙なんですか」


「いえ、違いますよ。ところで、君、名前は何でしたっけ」


こもった声でささやくように、審判者と名乗った。


「そう、審判者でしたわね。そうですね、今から君のことをジャッジちゃんと命名するわ。いいですよね?」


ジャッジと名付けられた審判者はまたコクリと頷いた。


イデアは僕の方を向き、

「私はまた暫く留守にします。その間、こちらのジャッジちゃんとエーテルの訓練をしてもらいます」


その言葉に審判者は呆気にとられている様子だった。


僕は嫌そうに言う。

「この、えー…ジャッジとしばらく一緒に居なければならないのですか」


「ええ、そうですね…。私自身も貴方の側にいれないのは哀しいのです。けど、ずっと一人では寂しいでしょうし」

そういうと僕の手をギュッと握り、またすぐに戻りますわと、名残惜しそうに言い残すと姿を消した。



高原に哀しみのエーテルが吹き荒れる。僕は、側にいる審判者に目をやった。


イデアが姿を消すやいなや右往左往し始めた。審判者もイデアと同様に姿を消したが、すぐにまた現れた。

それからずっと、現れては消え、現れては消えを何度も繰り返し、ようやくこの高原から抜け出すことができないことを理解した様子だった。


審判者は僕の視線に気付くとこちらに寄ってきた。僕より頭1つ分背が高く、身体は華奢な方だった。


"あなたは誰だ?なぜ、神の領域に人間がいる?"


審判者は声を発するというより、脳内へ直接語り掛けるように話す。


「僕は人間です。なぜ、ここにいるのか。それは天命を与えられたからです」


そう言うと、天命などとカッコつけてしまったのが恥ずかしくなり、少し俯いた。


"天命を与えられし者か。実は私も同じだ"


「あなたこそ何者なのです?」


"女神イデアを審判する者"


「つまり、神のような存在ですか?」


"いや、違う。だが、神と想ってくれてよい"


審判者は、そんなことよりここからどうやって出ればいいか、と聞いてきたから、僕のほうが知りたいですと返事をしといた。

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