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13話 学びの実践

「そう、その感情ですよ」

イデアは、嬉しそうに手を合わせた。


「私と再会できたその歓び、今の貴方には体全体が幸福で包まれています」


確かに僕の心は幸福に満ちていて、全てが輝いてみえる。けど、私と再会して歓びを感じているなんて、恥ずかしくて言えないけどなあ、と一瞬感じたけどこれいうのは余計だよな。


僕はこの感情のエネルギーを制御させ、エーテルに転化しようと試みる。 


エーテルを扱う感覚を呼び覚まし、そうして体が段々と熱を帯びていき、生成の大洋を強く感じ解放した。

周囲にエーテルを強く感じ始める。今はとても暖かく穏やかだ。そして、いつものように心に感情を描写した。


すると、目前に文字が浮かび上がった。


"いせかい"


文字の具現化術に成功した。


「おお、やりましたね」


やったと喜んだが束の間に、すぐさま文字は消え去った。なんだか、初めてエーテルを使った時と同様の結果で少し残念な気持ちになる。あのときと比較しても扱えるエーテルの技量は上達しているはずだしなのに…


「現実世界ではこんなもんです。エーテルは貴方の周囲に張り巡らすことはできても、それを維持することはできないのですよ」


イデアもエーテルで空気の色を青や黄色と変化させるもたちまちに色あせていく。


「生成してできた微量なエーテルのコントロールは私でも難しいのですよ」


ふふっと笑うイデア。


「やっぱり僕は時間を無駄にしただけなんですね」


なんとも言えない表情を浮かべるとため息をついた。

仕方ない、か。これでは、僕はその相手と戦うことができないし、そもそも、僕が存在している価値はないのではないか。だって何もできない死人なのだから。


なんか、このやり取りがデジャブな気がして懐かしく思え、同時に陰鬱になる。


「無駄ではないですよ。しかし、貴方はかなり熟練してきましたね。一度、私の書架に戻って、今まで学んだ成果を披露してください」


僕たちはまた意識内の秘蔵書架に戻った。

散乱とした本の山は全て本棚に整頓されており、床はみえている。

集中力が切れたら、息抜きに棚の整理をし、いつのまにか図書館らしい空間になっていた。


イデアは部屋の片付き具合には特に話題にせずに、さ、あなたの努力を見してくださいと目を輝かせていた。

当然だが、この空間はエーテルは充満しており、僕たちの周囲は幸福に輝いていた。


ではひとつ、と僕は中級編325巻にあった"空飛ぶ身体"を実践した。

強くエーテルに意志を伝播させると、徐々に体が浮かび始め、重力からの解放を覚えると勢い任せて空高く飛び上がった。


天井のない空間を上へ上へと目指していく。

以前に確認したからわかるのだが、この空間は本当に無限に続いており、壁にある本棚も終わりを知らないかのように本が並んでいた。

飛行を続けると、僕がまだ手付かずの階層に辿り着いた。どういう分野で内容も全くわからないのだが、確かなのは無造作に散らばったままだということ。


すると、イデアが眼の前に現れ肩を並べると、二人で終わりなき空間を上昇し続けた。


「おお、なかなかの速度ですね」


二人の周りは光のエーテルで覆われていた。



「形而上学編はどこまで読み進めたのですか?」

という質問に、


「いえ、たまたま気分転換で手に取っただけで、僕は今上級編の15巻を読み進めている最中ですよ」

と、僕は答えた。


なるほどと相槌を打つとイデアは、そろそろ降りましょうかといい、僕はつい先日習得した瞬間移動を行うと、元いた場所へと移動した。


「瞬間移動も完璧ですね。なかなかにエーテルを扱えてますし、すごい進歩です!」

感心したように褒めてくれるイデアの表情をみると、努力が報われたような気がして僕は満足げに頷いた。

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