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12話 留守がちイデア

かなりの時間が経過したと思う。



僕はエーテルを極めようとエーテル関連の書籍を読み込んでいた。形而上学編の第2254巻、エーテルによる世界の構築という章にエーテルの生成方法とその応用についてという興味深い記述があったので、詳しく知りたいなと思いイデアに声をかけたが、また返事はなかった。



というのもあの日、誰もいない世界で天体観測をしてから、イデアは僕のそばから離れることが多かった。



曰く、私の気持ちを確認することができましたし、あなたのことも理解することができました、とかなんとか。



それ以降、全く姿を見せないまま数十年経過することもあったし(あくまで体感だけど)、急に姿を現し僕の進捗状況を確認すると、またパッとどこかへ消え去るような事が度々あった。


忙しそうにしているので、用件を聞くことはなかったが、顔つきは険しそうにしており、僕の視線に気づくとニコッと笑みを浮かべるが、すぐに無表情になるとじっと遠くを凝視するばかり。


何かあったんだろうかと不安になるが、僕のような人間が関わったところで足手まといになるのはわかりきっているので、今まで通り、目前のエーテルの習得に集中することにした。



イデアが不在であることを確認し、開いた書物に視線を戻した。エーテルは世界には存在しないと散々聞かされてきたが、どうやらある手段を行うとエーテルを産み出すことができるらしい。


とりあえず、この場にはエーテルが溢れんばかりあるので、虚無の大地に向かうことにした。(といっても意識を取り戻す、つまり目を開くだけなんだけど)



時間は正午だろうか、真上から陽が燦々と降り注ぐ。焦げた大地に立ち上がると、先程読んだエーテルの生成を行ってみた。



エーテルは感情に強く共鳴することはわかっている。

つまり、感情を強烈なくらいに爆発させれば、無からエーテルを創り出すことができる、のだそうだが…感情を爆発させるとは一体どうすればいいのだろうか。



よく考えれば、僕は感情の起伏がない人間、虚無がアイデンティティなところがあったのを忘れていた。


うーん、これは困ったな。爆発のイメージは怒りのエネルギー的なものを想起させるけど。




いや、そう言われればイデアと星を観てから妙に心がざわつくことが多い。

そう、不安だ。イデアが側にいないという寂しさ、孤独、怖れ。



それらの気持ちを強く想い、そうしてエーテルへと転換していく。段々と身体中にみえない感覚が研ぎ澄まされて、そして、膨張したそれが体全体を覆いはじめ、、、なかった。


何も変わらない。


そもそも感情の爆発とは何なんだ…。


すると、

「心のざわつきを不安と勘違いするとはなかなかに心情の読み違えですわ」

イデアが隣に立っていた。


「戻ってきたんですね」

僕はなんとか頬が緩むのを耐えようとしたが、嬉しさのあまり破顔した。久しぶりに見る横顔は一段と綺麗だった。


「ずっと、あなたの側にいたいのですが、ここのところ多忙でして。厄介な出来事を対処する必要があって、かつ、精密な計算の元に行動をする必要があるので、時間軸の調整も控えてるのですよ」


イデアもなんだか嬉しそうで、それを感じた僕は幸せな気持ちになった。

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