11話 天界
永遠に白が続く秩序の世界。
その最上に位置する、遥か遠くまで放たれる眩しき光輪の中央に広がる空間。
3人の神がいた。
力の神。知の神。美の神。
使者は力の神へ報告を終えると姿を消した。
"どうやら、またイデアが人間に惚れ込んでいるようだ"
"だから、姿を見せないのか"
"そのようで"
円卓を囲み、向かい合う神々は無言のまま遠い彼方にある星を眺めていた。
力の神が右手を上げると、空高く聳える槍、全てを護る大盾が存在した。
知の神は知恵の輪を存在させると、自身の周囲をらせん状にひねり、円環させた。
神々はお互いを混在させることで、新たな生命体を誕生させ、存在者として承認し、以降、その存在を審判者と呼ぶこととした。
"我々は判断できぬ事柄を新たな存在に委ねる"
美の神は不思議そうな顔をする。
"しかし、なぜ、ああも人に惹きつけられるのかな"
知の神は苦笑いした。
"おまえがわからんと、誰にも理解できやせんよ"
審判者は体を起こすと、周囲を見渡し、与えられた天命を悟ると姿を消した。
力の神は腕を組むと、またイデアのことで思いを悩ませた。
"我々は生命の成長を見守る、それができぬなら神ではないというのになあ"
すると、イデアが現れた。
「あら、召還に応じてあげたのに、貴方がたしかおられなくて?」
側には審判者が控えていた。しかし、イデアが手を振り上げると、審判者は頭を垂れ、後退しつつ姿をくらました。
"審判者の正義感覚の限界か、それとも、イデアの方が上手なのかな"
力の神は顎をさする。
"おかえりなさいイデアちゃん"
美の神は微笑んだ。
"そろそろ秩序を守ることを知らないと。禁忌を蹂躙しすぎだ"
知の神は顔をしかめた。
「あら、知らないの。誰かが超自然を産み出してること」
イデアは驚いた表情を浮かべた。
3人の神はお互いに顔を見合わすと、知の神は時空間を覗き込んだ。永遠の時間を一瞬で見渡すと、丁寧に隠蔽された時間軸を見つけ、卓上に取り出した。
何者かが細工した痕跡の残る箇所を拡大させると、超自然的存在者の介入により、世界そのものが歪曲され、本来の時の流れとは異なる世界が複数に分岐し枝状に広がっていた。
"いつからかな"
知の神が詳しく見ようと顔を近づけたが、突然強力な闇が吹き出した。力の神が手で闇を受け止めると、軽く握り潰す。
"これはよくない兆候だなあ"
知の神は時空間を元の位置に戻したながら、困ったように呟いた。
「この件、私に一任してくれませんこと?おそらく、全知神もまだ気付いてませんわ」
"構わないけど、いつから気づいていた?"
美の神はイデアに訪ねた。
「貴方がたが居眠りをしている間ですよ」
ニコッと笑うと、イデアは姿を消した。
イデアがいなくなった後の神の間には、気まずいエーテルが漂っていた。




