プロローグ
地平線に沈んでゆく夕陽が、広大で起伏のない大地を茜色に染める。かつて人間と魔族の最終決戦の大地となったフォアゾク平原。
何百年と続いた争いは、人間側が勝利し終止符を打った。帝都に凱旋後、将軍ダザインは人魔の和解と融和を宣言。以降、残された魔族と人間は共同体を形成し、黎明期は遺恨が残ったものの時代の流れにより互いの偏見は薄れていった。人は科学を、魔族は魔法を授けあい、互いの長所は共有財産となった。そうして文明史上最大の黄金期を迎えたのである。
その大地にかつてない脅威が迫りつつあった。
ダザイン帝国混成軍は来るべき敵の襲来を待ち構えていた。
その数は一万。
中央に陣取るダザイン四世に麾下の精鋭兵、前衛には頑強な重装歩兵が大盾を構え、後ろでは砲兵が火砲を設置、中央左右の騎馬隊は大地を踏み鳴らしていた。左翼に魔人が充当され、頑強な防御壁を二重三重に構築し、宙に何十もの魔方陣を展開、至る所で悪魔や聖霊が召喚された。右翼は戦列歩兵が整然と並び、マスケット銃と銃剣で武装されている。後衛では神への信仰心で傷を癒す聖職者たちが補助呪文を詠唱していた。女性が多く、彼女たちの強い祈りが兵士の身体能力を向上、より屈強な力を授けていた。
しかしながらよくみると、兵士のなかに子供から老人まで老若男女が多数混じっていた。着なれない甲冑は体と合っておらず、身長よりも大きい銃を担ぐ子供。さっきまで夕食の準備をしていたでだろう主婦が剣と盾を装備し、白髪の年配者が馬にまたがる。ローブを引きずりながら両手を組んで祈る年端もいかない少女の姿も。
あまりにも不揃いだった。
後方で戦争への恐怖のあまり震える少年がいた。銅でできた剣は刀こぼれしており、構えた盾は端が欠け、青銅の鎧は傷だらけであった。有り合わせの装備であることは一目でわかる。
その少年に近づき、恐怖を緩和させるために励ましの言葉をかける一人の聖騎士。
「大丈夫ですよ。安心なさい。あなたたちには女神イデアの御加護がありましてよ」
本当はよくないのですが…
そういうと少年は金色に輝き、震えはおさまる。少年は周囲を見たが、聖騎士の姿は消えていた。
しばらくすると陽が沈み、大地を照らす月を黒い雨雲が覆い始めた。周囲は暗くなり松明に火が灯る。
同時に、歪な咆哮が聞こえ平原に強く響き渡ると闇の軍勢が姿を見せた。
異形の怪物たち、見るものを絶望させるこの世には存在してはいけない形相。何万と蠢く怪物たちは通る大地を枯らし腐敗させた。
そして、天より雷鳴が轟くと、漆黒の外套を身に纏う一人の男が現れた。
全体に緊張が走る。自然と身構え、剣を握る手が強ばる。
ダザイン王は剣を抜いた。
「諸君、今目の前に現れし存在は人魔の不倶戴天の敵である。そして今宵、雌雄を決するのだ。無論我々の勝利であり、それは確信されている。勝利を掴み、世界を未来永劫に平和へと導くのだ。女神イデアの御加護があらんことを!」
兵士たちは王に和し、会戦した。
聖騎士は甲冑を脱ぎ捨てると茫然とした。眼前では一方的な殺戮が繰り広げられていた。怪物に振るった剣はなぎ倒され、大盾はいとも簡単に貫通し、闇から放たれた弾丸が防御壁を破る。大地には屍の山ができており草木の枯れ果てた地面は真っ赤に染まっていた。
こんなことがあって…
先程の少年の姿があった。どす黒い剣が胸に刺さっており、だが、女神の加護のお陰か心臓には達していなかった。けれど、、、
剣からは闇が止めどなく溢れ続け、全身の血管が真っ黒に浮き出ていた。顔には絶望の色が浮かんでいる。私を視認すると唇がかすかに震え、ころして、と呟いた。
聖騎士は顔を覆った。
呟くように詠唱すると、突き刺さった剣が抜け落ちる。少年の顔に安堵の表情が浮かんだと思うとゆっくりと瞼を閉じた。
聖騎士は蹂躙を続ける闇の軍勢に対して腕を振り上げた。しかし、すぐに降ろす。私ではいけない。人の世は人が治めなければならない。私ではない。
許してください。
そういうと、女神はこの大地を後にした。
異世界転生ものは初心者です!
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