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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: はじめ みのる
そして僕たちの関係が始まる
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栞里と由佳の約束(2)


悠人の家の前に居た女の子に声を掛けた。


「もしかして、栞里ちゃん?」


相手は驚いて目を見開く。


「あ、はい、そうですが、何処かでお会いしましたか?」

「ううん、いま初めて。少し話さない? 急いでる?」

「大丈夫、です。」


栞里ちゃんは玄関の方を見た。悠人に会いに来たのだろう。


「約束してた?」

「ううん、何も言わずに来たから。」

「じゃあ少し時間頂戴。あたしの家に行こうか。10分くらい歩くけど、いい?」

「はい。」


歩き出す。栞里ちゃんも隣を歩いてついてくる。


「あたしは下川由佳。悠人のクラスメート。悠人に会いに来たんでしょ。あたしもそう。会った帰りなの。ごめんね、会う前に連れ出しちゃって。」

「ううん、大丈夫。」

「悠人と付き合ってるの?」

「・・・。」

「ま、いいや、後で教えて。妹さんが亡くなったって聞いたわ。残念だったわね。悠人を好きなもの同士、話しをしたかった。」

「あなたも悠くんが好きなの?」

「そうよ。あなたもでしょ?」

「・・・うん。」

「いま、悠人は苦しんでいるわ。あたしが知る悠人からは想像できないくらいに。助けたいの。だから協力して頂戴。」

「えっ、苦しんでる?」

「知らないのね?」

「うん。」

「今日は、さっき眠ったところなの。だから慌てないで。」


家に着いた。玄関を開けて入る。


「さあどうぞ、遠慮しないでいいから。」

「お邪魔します。」

「お母さん、友達寄せるね。」

「由佳おかえり。あら、いらっしゃい。」

「部屋に居るから、何か持ってきて。」

「はいはい。」


階段をあがりドアを開ける。


「あたしの部屋。どうぞ、適当に座って。」


あたしが座り、栞里ちゃんが座った。お母さんがジュースとクッキーを持ってきた。お母さんの行動が相変わらず早いが、いま気にするのはそこではない。


「改めて。下川由佳よ。悠人のクラスメートで、中学1年からずっと同じクラスなの。」

「真木栞里です。悠くんとは従兄弟で幼馴染。学年はひとつ上の3年生。」

「年上なんだ。下かと思ってた。」

「よく言われるの。詩衿の妹って思われることが多くて。詩衿は妹よ。」

「残念だったね。」

「ずっと病気で覚悟してたから。病気のことは悠くんには伝えなかったから、いきなりだったからショックが大きかったのかな。」

「勉強頑張るからって、言ったんだよね。」

「うん。悠くんにはわたしから言ったの。詩衿からは別れることにしてって言われてたんだけど。」

「付き合ってるのは詩衿ちゃんと聞いてたんだけど、あなたがどう絡んでたのか教えて。」

「中2のときは詩衿。中3から詩衿が病気がちになって、行けないときはわたしが代わりに悠くんと会ってた。」

「悠人は気がつかなかったの?」

「そっくりだから。髪の色が違うけど、これ染めてるの。詩衿と同じ色。話し方を真似ればわからないかな。」

「しーちゃんって、あなた?」

「デートのときに悠くんが詩衿を呼ぶときに使うの。家族が一緒のときは衿ちゃんって呼んでるわ。わたしのことは栞里ちゃん。」


違う。しーちゃんとはこの子のことだ。入れ替わったことを悠人は気が付いていたんだろう。入れ替わりに気が付いたときに悠人はどう思ったのか。そしていつの間にか詩衿よりも栞里を好きになっていて、その気持ちを詩衿の最後のときに気がついた。

彼の苦しみがわかった気がした。


「どうしたの?」


栞里が心配そうな顔で聞いてきた。あたしは自分が涙を流していることに気が付く。


「ううん、なんでもない。悠人の気持ちが少し分かった気がしただけ。...ごめんね、その理由は言えないわ。悠人からあなたに伝えることだと思う。」

「・・・。」

「代わりに、あたしが悠人を好きになった理由を話すね。」

「うん。」

「中学2年のとき、、、」



話し込んで、すっかり暗くなっていた。お母さんから声がかかる。


「ご飯よ。お友達も食べてくでしょ?」

「えっ、あ、もうこんな時間。栞里ちゃん食べてって。」

「はい、お言葉に甘えます。」

「食べるって。今行く。」


階下に降り居間に行く。あたしの隣に栞里を座らせた。


「そういえば、今夜はどうするの?」

「悠くんのところに泊まろうと思ってる。」

「学校は休み?」

「うん。休んでる。」

「ん、そうか~。...うち泊まってく? まだ話したいことあるし。良いよね、お母さん。」

「いいわよ。」

「え? え~っと、、」

「いいのよ、遠慮しないで。」

「では、お言葉に甘えます。ありがとうございます。」

「いえいえ。」


一緒にご飯を食べ、風呂に入り、布団に入った。布団を並べて敷いて、二人で横になっている。


「詩衿ちゃんはどんな子だったの?」

「由佳ちゃんにどことなく似てる。行動的ではっきりものを言う。強い子だった。わたしはいつも詩衿の後ろで隠れてた。」

「だけど悠人とのデートは栞里ちゃんひとりで行ってたんでしょ? あなたも十分に行動的だわ。今日だって自分の判断で来たのよね。」

「んー、そうだけど、そうなのかな?」

「そうよ。自信持って。」

「ん、ありがと。」


あたし何してるんだろ。敵に塩を送っている気がする。だけど黙っていられない。ま、これがあたしってことなんだろうけど。


「栞里ちゃんとして、悠人に会うのよね?」

「うん。」

「髪の色を戻してほしい。いまは詩衿ちゃんとそっくりなのよね。悠人が可哀相。」

「ん、そうね。そうする。」

「お母さんが理容師だから、朝、頼んでみるよ。」

「ありがと。」

「それからもうひとつ。もう詩衿ちゃんの真似はしないで。」

「え? うん、分かった。由佳ちゃん優しいね。悠くんみたい。」

「えっ、そうかな?」

「うん、考え方が似てるのかな。周りに気を使ってて。」

「あいつは極端だけどね。」

「うん。言葉は優しくないの。そのときは何で?って思う。だけどやっぱりわたしの為だったって、後から気が付いて。不器用だけど優しいんだ。」

「あたしは気が付かずに迷惑かけちゃった。結局最後まで助けられちゃって。無愛想で冷淡なんだけど、とても優しくて。」

「由佳ちゃん、ずっと友達でいてくれるかな。」

「あたしでよければ。だけど、あたし達ライバルよ。悠人をどっちが捕るか。」

「うん。由佳ちゃんが悠くんと結婚しても、友達でいたいから。」

「分かった。ずっと友達ね。」



翌朝

お母さんにお願いして、栞里ちゃんの髪の色を戻すのに立ち会った。学校は休んだ。初めての自主休み。後ろめたい感じがあるが、学校よりも優先することだから。栞里の髪の色が落ちるのを待って、悠人のところに送り出すだけなんだけど。

悠人は大丈夫だろう。根拠はないが、過去の経験がそう思わせる。栞里ちゃんが悠人を励ませば、直ぐに立ち直るだろう。

放っておいて、あたしが悠人を支えるという方法もあったと思う。だけど目の前で苦しんでいるのを見て、手を差し伸べずにいられない。「なにやってるのかな、あたし。」そうつぶやいた。


髪色の戻しが終わり、悠人の家に向かう。


「しっかしその髪、ほんとに綺麗ね。染めてたのが勿体無いわ。日焼けしたらもっと綺麗になるって、嘘でしょって思う。」

「ありがと。由佳ちゃんのお母さんの腕がいいのよ。」

「いやいやいや。うーん、悠人が見たら一目惚れしそう。行くの止めようか。」

「うふふ。」

「なにその余裕の笑い。もう嫌になっちゃう。」

「由佳ちゃんにはとても助けてもらって。感謝してる、ありがと。」

「えへへ、今度電話するよ。遊びに行こ?」

「うん」

「やっぱスマホ要るよね。強請ってみよ。」

「買ったら教えてね。」

「もちろん。」


悠人の家に着いた。


「じゃあ、あたしここで帰るから。」

「えっ、一緒に行かないの?」

「うん、二人きりで話すこともあるだろうから、邪魔者は帰るよ。」

「ん、分かった。ありがと。」

「じゃあ、頑張って。」

「うん。またね。」

「またね」


互いに手を振って別れた。物陰に隠れて栞里が玄関に入っていくのを見送る。

悠人はやっぱり栞里ちゃんを選ぶのかな。可愛いから勝てないかも。それでもあたしなりに頑張ろ。学校で会えるのがあたしの有利なところね。




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