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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: はじめ みのる
そして僕たちの関係が始まる
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栞里と由佳の約束(1)


- 1年前 -


☆下川由佳の視点


新学期から悠人が登校していない。既に2週間となる。


「悠人、今日も来ていない。大丈夫かな。」


親戚に不幸があって、悠人は暫く休むと先生から聞いた。それでも2週間は長いのではないかと思い心配になる。

学校の授業が終わり、帰りに寄り道して悠人の家に寄った。呼び鈴を鳴らすと悠人の母が出てきた。


「こんにちは。悠人くんのクラスメートの下川です。悠人くんがしばらく学校に来ないので、様子を見に来ました。」

「あらまあ。どうぞ上がって。」


居間に通され、座るように促される。


「お友達? 悠人とは仲良しなの?」

「中学からのクラスメートで、よく話をしますし、仲は良いと思います。」

「あ、あのとき、中学2年のときの。」

「あ、はい、そうです。」

「ありがとね。悠人を気にかけてくれて。」

「いいえ、私が助けられてばっかりで。」

「ううん、あの子も助けられていると思うわ。これからもよろしくね。特に今は、、。」

「悠人くんはどうしたのですか?」

「うーん、ちょっと待ってね。お茶を入れるわ。」


緑茶とカステラを出してくれた。


「あのね、あなたの他にもう一人、あの子を想ってくれる()が居るの。そして恐らく悠人はその娘が好きよ。それでも助けてくれる?」

「付き合っている彼女が居ると聞いてます。」

「んー、うん、そうね。分かってて来てくれたってことだよね。」

「はい、友達、だから。」

「実はね、あの子が付き合ってた()が亡くなったの。しばらく病気で入院してたんだけど、始業式の日に。それで悠人は塞ぎ込んでる。」


学校の先生から、悠人の親戚に不幸があったと聞いていた。だけど恋人だとは思ってもいなかった。

少し考えれば分かることだった。親戚に不幸があって、あの悠人が学校に来ないほどのショックを受けていて、悠人の彼女は従姉妹だ。なぜあたしはそれに気が付かなかったのか。


「あの子に声を掛けてくれる?」

「はい。あたしで良ければ。」

「お願い。」


一緒に二階に上がり、ドアの前に立った。悠人のお母さんがドアを叩く。


「悠人、友達来てくれたから出て来て。」

「岡田くん、あたし。下川よ。」


間を置いて、悠人の返答があった。


「下川さんか。ちょっと待って、片付けるから。」

「ん。」


悠人の部屋に入れるかなと期待をしていた。だけど、いざ入るとなると緊張する。男の子の家に来たのは初めてで、部屋に入るのも当然だが初めてになる。


「いいよ、どうぞ。」


悠人がドアを開けた。部屋に入るのに躊躇していると、悠人のお母さんが肩に手を当て「ごめん」と言いながらあたしを突き飛ばす。数歩前によろめいて、悠人の腕に支えられた。悠人の顔が近くてドキっとする。


「大丈夫か?」

「うん」


悠人が離れる。僅かな時間であったが感じた温もりが離れて行くのに未練を感じた。


「まあ座って。」


そう言いながら悠人はベッドを背にして床に座る。続いてあたしも隣に座った。

悠人の顔を見る。少しやつれて目が赤いが、見た目は変わっていない。


「元気そうね。落ち込んでいるのかと思った。」

「残念ながら落ち込んでいるよ。とはいえ落ち込んでても仕様がないからな、って思っているけど、やっぱキツいかな。...理由を聞いたのか?」

「うん、ごめん。彼女だったって、おばさんから聞いた。...悠人なら辛い時でも落ち着いていると思ってた。内心は我慢してさ。」

「僕もそう思ってた。」

「あたしに甘えてもいいのよ?」


自分の口から出た言葉に驚く。甘えられたら断れないかもと思い、恥ずかしくなった。


「ありがとう。...少し彼女の話をしてもいいかな。」

「ん、いいよ。」

「子供のときから三人でよく遊んでいたんだ。詩衿ちゃんと栞里ちゃんの姉妹と僕で。中学のとき僕が衿ちゃんに告白して付き合うことにしたんだ。高校に入った頃に彼女の都合でしばらく会わないことになって、それから2年経った。次に会ったのが一か月前で、病院だった。病気が進行していて長くないんだと聞いた。僕はその時、悲しくなると同時にほっとしたんだ。しーちゃんでなくて良かったと。僕は酷いやつだ。衿ちゃんが病気で苦しんでいるのに。...その罪に苛まれながら、衿ちゃんの病室に通った。衿ちゃんに上辺だけの優しい言葉を掛けながら。亡くなるその日まで。」


悠人の涙が落ちる。苦しそうに顔を歪ませている。あたしは思わず悠人の頭を両腕で抱えて、胸で抱きしめた。

悠人はしばらく嗚咽を漏らしていたが、気がつくと寝息を立てていた。


付き合っていた彼女が亡くなった。だけど苦しんでいる理由はそうではないんだ。なんだか理解が追いつかなかった。


階下に降り、悠人のお母さんに会う。


「悠人くんは眠りました。」

「ありがとう、悠人の話し相手をしてくれて。あの子、私には何も言ってくれなくて、ずっとひとりで悩んでいたから。少しでも楽になるといいのだけれど。」

「もうひとりって、誰ですか?」

「栞里ちゃん。亡くなった詩衿ちゃんのお姉さん。」

「悠人くんはどっちと付き合ってたのですか?」

「たぶん二人とも。まえは三人で遊んでて、いつだったか詩衿ちゃんを選んだみたいなんだけど、栞里ちゃんとも付き合っていたみたいなの。私も気がつかなくて、この前、妹から聞いたの。あ、妹は二人の母親ね。...栞里ちゃんと悠人、なんだかよそよそしいの。詩衿ちゃんの手前ってのはあると思うけど、見ている限りでは一度も話をしてないのよ。好き同士なら、どんな状況でも傍に居ようとするでしょ?...ごめんね、変な話しして。」

「いえ、大丈夫です。じゃあ今日は帰ります。」

「ん、今日はありがと。また来てね。」


なんだかモヤモヤしたまま玄関を出る。おばさんにお辞儀をしてドアを閉めた。振り返ると門のところに女子がいる。肩までの黒髪。少し太めだが可愛い感じ。同年か少し下に見える。


「こんにちは」


あたしから声を掛けると、相手はお辞儀で返した。歩いて近づきながら話しかける。


「もしかして、栞里ちゃん?」




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