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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: はじめ みのる
そして僕たちの関係が始まる
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ふたりでサイクリング



土曜日。

春の柔らかい日差しを浴びながら、自転車に乗り、栞里さんとふたりで川沿いのサイクリングコースを走っている。


「この道をいつも走っているんだ。終点まで行くと海に出る。このペースで走ると、海まではあと1時間半くらいかな。無理しないのが一番大事だから、疲れてきたら言ってよ。」

「わかったわ。まだ疲れていないから大丈夫よ。」

「オーケー。ゆっくり行くよ。速い自転車が通るから出来るだけ左側を走って。」

「うん。」


道程の半分ほど走ったところで喫茶店で休憩をする。人の良さそうな店主のオジサンが注文を聞いてきて、僕は紅茶、彼女はミルクティを頼んだ。


「今日はなぜサイクリングを?」

「悠くんと遊びに行きたいと思ってたの。サイクリングが趣味って以前に聞いたから丁度良いかなって。それに、大学が始まるとどうしても掃除などの家事をするのが土日になるから、遊びに行けるのは今だけかな。」

「なるほど。家事を分担しようか?」

「ううん、私の仕事だから。それでお給料貰っているし。」

「わかった。無理そうなら言って、手伝うから。」

「ありがと。」


「ここから海までどれくらいなの?」

「ここで半分くらいかな。あと1時間はかからない。」

「いつもはどれくらいで走るの?」

「片道1時間かからないくらいかな。いつもはロードバイクだから速く走れるんだ。今日は時間掛かってるけど、シティサイクルでは良いペースだと思うよ。」

「ごめんね。わたしが付いてきたから時間掛かっちゃって。」

「運動するのが目的で、距離ではないから気にしないで。あと、栞里さんと一緒に走れて楽しいから。」

「そう?、嬉しいわ。」


「そろそろ行こうか。痛いところはない?」

「うん、大丈夫。ちょっと疲れたけど頑張るよ。海が見たいし。」


サイクリングを再開して1時間ほど走る。潮の香りを感じながら走り、交差点を曲がると海が見えた。


「わぁ、すごい、海がきれい。」


栞里さんが感動の声を上げる。海を見ると穏やかな水面(みなも)がきらきらと宝石のように(きら)めいている。

栞里さんの笑顔を見て可愛いと思い、しばらく会っていない彼女のことを思い出す。彼女と最後にデートしたのがこの海だ。記憶の中の彼女の笑顔と栞里さんの笑顔が重なって見えた。


「ちょっと早いけど、お昼にしよう。もう少ししたら混むから。」

「ん、わかったわ。どこに行くの?」

「すぐそこだ。父さんのお勧めを聞いてきた。」


レストランに入り、定番だという定食を頼む。


「これを食べないとここに来た意味がないんだって父さんが言っていたんだ。以前に母さんのお勧めを食べたんだけど僕の口には合わなくて。その話をしたら父さんと母さんが口論になってね。ふたりの喧嘩は初めて見たよ。」

「ここのは美味しいの?」

「今日が初めてなんだ。」

「うふふ、また失敗かもよ?」

「ふふっ、どうかな。父さんを信じるよ。」


料理が出され、箸をつける。


「天婦羅がおいしいわ。生のはちょっと苦手かも。」

「ああ、わかる。」


ふたりで顔を合わせて苦笑いをする。


昼食の後、水族館に行った。

クラゲのエリアに彼女が釘付けとなり、何が楽しいのかと思いながら見ていたが、いつの間にか一緒になって楽しんでいた。



帰りのサイクリングは追い風もありスムーズに進む。

途中で自転車を止めて栞里さんに声を掛けた。


「この近くでアイスクリームが食べれるんだ。」

「うん、食べたいな。」

「こっちだ。行こう。」


彼女はチョコチップ、僕は抹茶を頼む。


「おいしい。ミルクの風味が広がって、その中でチョコチップがプチプチって、おいしいよ。」

「こっちは、抹茶とミルクが丁度よいかな。」


ふたりでおいしいと微笑み合い、交換しながら食べる。以前の無邪気だった頃を思い出して懐かしく感じた。


家に着き、栞里さんは家事を始め、僕は車庫で自転車の整備をする。

栞里さんと過ごした一日がとても楽しかった。以前に戻ったような感じがして、嬉しいのか悲しいのか、複雑な気分になる。

車庫で考え事をしていて、いつの間にか1時間が過ぎていたようだ。栞里さんが心配そうな顔をして車庫まで来た。


「ごはんにしましょ?」

「わかった、すぐ行く。」




衿ちゃんにメールをする。


「君と行ったあの海で、栞里さんと食事をしてきた。あれからもうすぐ2年になる。懐かしいな。

水族館に行って来た。クラゲがふわふわ泳いでいるのが楽しかった。時間が足らなくて全部は見れなかったから、また行きたいと思ってる。

お昼には父さんのお勧めの料理を食べたんだけど、あの時と同じで、僕にはまだ早い食べ物だった。」


「楽しめてよかったね。水族館は小学校の頃に3人で行ったんだけど、憶えてない?」


「憶えていないな。」


「一緒にイルカのショーを見たの。そういえば悠くんを無理やり大きなエビの前につれていったら、怖いって騒いでたね。懐かしいな。」


「イルカショーを忘れていた。今日は見るの忘れたよ。それから、エビは足が多いから苦手なんだ。」


「イルカショー、残念だったね。」


「思い出した。衿ちゃんがイルカが見たいと騒いでたんだけど、栞里さんがクラゲをずっと見てて、栞里さんを置いてイルカを見に行ったんだ。その後、栞里さんが泣いているのを僕が宥めていたような憶えがある。」


「また来ようって言ってたけど、今になったのね。」


「ごめん、忘れていた。」


「お姉ちゃんに言ってあげて。ではそろそろ終わるね。じゃあね。」


「ああ、またね。」




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