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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: はじめ みのる
そして僕たちの関係が始まる
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日常


栞里さんが掃除をしている。

もうすぐ15時になるため、お茶にしようと準備をする。

ティーポットに茶葉を入れ、沸いたばかりの湯を注ぎ、湯の入っていたケトルをもとの場所に戻していると、掃除を終わらせた栞里さんが居間に来て、台所の入り口で鉢合わせした。

衝突しそうになるが僅かな隙間で止まり目が合った。先ほどもドアの前でぶつかりそうになり顔を見合わせており、まただねと心の中でつぶやき、互いに苦笑する。

栞里さんが僕の脇をすり抜け、オーブンの前に行った。


「パウンドケーキを作ったの。上手く出来ていると良いのだけれど。」


シンプルな見た目のパウンドケーキが出てきて、僕の目の前で切り分けられていく。美味しそうなバターの香りが漂う。


「美味しそうだ。」

「初めて作ったの。中まで火が通っていて良かった。」


本当にホッとしたようだ。栞里さんの頬が緩む。


テーブルに戻り、紅茶に湯を注いでからの時刻を確認する。


「丁度良く紅茶が出来たよ。ティーカップではないところが残念だけど。」


白磁のティーポットからマグカップに紅茶を注ぐ。紅茶の良い香りに、僕は頬を緩める。

栞里さんがパウンドケーキを持ってきてテーブルに着いた。


「良い香りね。」

「ああ。どうぞ。」

「うん、頂きます。」


紅茶を一口飲み、ささやかな甘みと柔らかい渋みを感じ、香りが鼻に広がる。


「ん、良い具合だ。」

「美味しい。上手ね。」

「ありがとう。前に喫茶店で飲んだのが美味しくて、それから嵌まっているんだ。」

「そう。」


栞里さんが、にこりとして目を細める。


パウンドケーキに手を伸ばし、一口食べると、ふわりとした歯触りがあり、口の中にバターの風味が広がる。


「美味しい。」

「ん、ありがと。わたしもびっくり。とても美味しく出来たね。」


僕に向けて笑顔を見せた。


「お菓子はよく作るの?」

「ううん、今日が初めて。」

「そうなんだ。それでこれが作れるのはすごいな。」

「レシピの通りに作っただけなのよ。」

「腕が良いからだよ。」

「あまり褒めないで。」


彼女は恥ずかしそうに頬を染めて顔を伏せた。



家で栞里さんとお茶をした後、まだ15時半なのでサイクリングに行こうと決めた。ロードバイクに乗っており、当初は体力を付ける目的で買ってもらったが、今では趣味を兼ねている。

車庫に行き、自転車の状態を確かめたあと、栞里さんに声を掛けた。


「ちょっと走ってくる。2時間くらいで戻るから。」

「自転車ね。どこまで行くの?」

「海まで行ってくるよ。」

「海? いいわね、今度連れてってもらえる?」

「わかった、考えとく。では行ってくる。」

「はい、行ってらっしゃい。」


栞里さんが笑顔で見送ってくれた。僕も笑顔になり、手を振ってから出発する。

坂を下り、近くの川のわき道を下り、サイクリングロードに入る。終点まで片道で1時間ほど走ると海に出る。海で折り返し、途中でどこにも寄ることもなく全力で走り続ける。走っている間は走ることに集中し、余計なことは考えない。

2時間だといつもこのルートだ。しーちゃんと会わなくなってから、暇があれば走るようになった。走っている間は嫌なことを忘れることができる。

家に着き、簡単に自転車を掃除してから家に入る。


「ただいま」

「お帰りなさい。」

「シャワー浴びるよ。ついでにバスタブを洗っておくから。」

「うん、わかった、ありがと。」


自転車に乗った後は、帰宅してすぐにシャワーを浴びて汗を流す。バスタブをついでに洗うのは、栞里さんが来る以前からやっていることだ。なお、またあとで風呂にも入る。


18時過ぎ。居間に行くと、栞里さんが台所で、忙しなく料理をしている。


「栞里さん、2階にいるから。」

「わかったわ。ご飯になったら呼ぶね。」


19時になり夕食の時間。

鯖の味噌煮と豆腐の味噌汁。ふたり揃っていただきますをして箸をつける。


「鯖は少しパサパサね。ごめんね。」


食べると少し身が硬く、味が染みていない。


「十分だよ。作ってくれてありがとう。」

「次は上手く作るわ。レシピ通りに作っても上手くいかなくて、火加減なのかなって思うのだけれど。」

「何度でも作って。失敗しても食べるから。」

「ありがと。」


ふと、先程の料理中での食材が使われていないことに気がついた。


「さっき覗いたとき、人参を切っていたと思うけど、無いね。」

「作り置きをしているの。朝全部作ると大変で、知り合いから作り置きをすると良いって教えてもらったの。」

「へぇ、知らなかった。」

「今朝は大変だったんだから。沢山作ったから、明日は楽出来ると思うわ。」


栞里さんが楽しそうに話す。僕は相槌をしながら彼女を褒めた。




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