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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: はじめ みのる
そして僕たちの関係が始まる
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お弁当


「はい、お弁当。」


朝、学校に行く前に、栞里さんから弁当を手渡された。そういえば作ると言っていたなと思い出す。


「ありがとう。では行ってくる。」



今日の学校は、午前中のみの授業となる。3月の期末試験が先週で終わっており、残りの終業式までの2週間は午前中のみの授業だ。午後は希望者のみでの勉強会を予定しており、僕も参加しているため、弁当があるのはありがたい。

午前中の授業が終わり、帰宅する者、部活に行く者と、多くが教室を出て行く。勉強会のメンバーも多くは教室の外で食事を取っており、僕も普段は学食に行くのだが、今日は栞里さんが用意してくれた弁当があることから教室で食べることにした。

自席で弁当を広げると、隣の席の高橋さん(女子)が珍しいものを見るように僕を見る。高橋さんも勉強会のメンバーだ。近くには同じくメンバーの下川さんの姿も見える。


「岡田くん、お弁当持ってきたの? 珍しいね。」

「ああ。作ってくれたんだ。」

「可愛い感じのお弁当ね。ゆかちゃん、岡田くんのお弁当が可愛いの。見て見て~」


高橋さんと一緒に食事をするのだろう、机を移動している下川さんが、僕の弁当を見てニヤリとする。


「彼女の手作り?」

「違うぞ。なぜそう思う?」


高橋さんと下川さんが、いたずらっ子のような表情で顔を合わせた後、ふたりで交互に話す。


「卵焼きのぐるぐる~」

「仕切りのカップがカラフル」

「肉巻きの具が全部違うの~」

「飾り切りのにんじん」

「のりを巻いた俵むすび~」

「おかずの並べ方が女の子っぽい」


「「どう見ても彼女の手作り!」」


ふたり揃って言い、周りの視線が集まった気がした。とはいえ教室には数えるほどしか人がいない。


「えーと、両親がしばらく出掛けていて、家政婦さんに来てもらったんだ。弁当は家政婦さんが作ってくれた。」

「ふ~ん。綺麗な人~?」

「朝、起こしてもらってるの? ゆうく~ん、なんて呼ばれてたりして。」


きゃあきゃあと騒がしい。頭が痛くなってきた。


「それで、可愛いとはどういうこと?」


僕が再度質問をすると、下川さんが呆れた顔をしながら答えた。


「女の子っぽいところだよ。いろいろ工夫している感じ? あと色が多い。飾り切りなんて普通やらないよ。手間掛けてるところが可愛い。」

「なるほど、わかった。ありがとう。」


そのまま彼女達と、食事をしながら雑談をした。

下川さんとは中学から高校と同じクラスで、話をする機会が多い。中学でのトラブルで友達は離れて行ったが、彼女は変わらずに接してくれる。


「このあいだ、お母さんと焼肉屋さんに行ってね。阿野バス停の前のお店。焼肉は別に~って思ってたんだけど、デザートが食べ放題のメニューがあって、小さいんだけどケーキもあってね、焼肉そっちのけで、ずっとデザート食べてたわ。」


下川さんが楽しそうに次々と話しをする。僕は相槌をしながら時々それっぽい意見を言って機嫌を取る。高橋さんを見ると黙って話を聞いている。おそらく僕が彼女の役割を取ってしまったのだろう。

僕が高橋さんを見ていることに気が付いた下川さんが、ニヤリとしながら突っ込みをする。


「岡田くん、彼女がいるのにケイちゃんに色目使っちゃ駄目よ。」


高橋さんが驚いて、僕を見てから顔を背けた。


「いや、高橋さんの役目を僕が取っちゃってるなって思って。下川さんの話し相手の役目をね。それで申し訳ないと思って見たんだ。」

「ほら、やっぱり見ていたんじゃない。」

「え~!」


高橋さんがクスッと笑い、その後僕たちも笑った。



勉強会が終わり、帰り支度を始める。

部活には入らず、授業のあとに教室で勉強してから帰るため、多くのクラスメートとの時間が合わない。勉強会のメンバーとはそりが合わなかった。そのため一緒に遊びに行こうと言う友達は出来ていない。

メンバーの面々は忙しそうに教室を出て行った。相変わらず出て行くのが早いなと思う。下川さんの姿が見えたので、また明日と声を掛けてから教室を出た。


暖かい日差しを浴びながら今日は何をしようかと考える。歩いて数分の距離のため、考えが纏まらないうちに家に着いた。


玄関のドアを開け、ただいまと言うと、ドアを隔てた向こうから、おかえりなさいと声が掛かる。

靴を脱ぎ廊下に踏み出すと、目の前のドアが開き、栞里さんが顔を出した。50センチほどの距離で顔を見合わせて目が合い、気恥かしくて視線を逸らす。


「ただいま」

「おかえりなさい」


再度の挨拶を交わしながら少し離れ、微笑み合った。

彼女が顔を引っ込めて洗面所の掃除を始める。僕は無心にその姿を見ている。


「どうしたの?」

「掃除をしている姿を毎日見ていると思って。学校から帰ると、いつもね。」

「毎日少しづつ掃除してるの。偶々時間が合うのね。」

「毎日、掃除してくれてありがとう。」

「どういたしまして。」


「明日からは2階も掃除をしようと思ってるけど、悠くんの部屋も掃除していい? 布団を干したりするけど。」

「僕の部屋は自分でやるから。あ~、布団を干すのはやって貰えると助かる。」

「わかった干しておくわ。見られたら不味いものとかあれば、しまっておいてね。」

「特には無いけど、チェックしておくよ。」

「うん、お願い。」


「あっそうだ。お昼のお弁当ありがとう。美味しかった。」

「よかった。明日も作るわね。」

「女子に、可愛い弁当だと人気だった。僕にはよくわからなかったが、手間を掛けてるところが可愛いらしい。だけど、僕は見た目を気にしないから、作るのに時間をかけなくてもいいよ。」

「ん、ありがと。いまは料理の勉強をしながら作っていて、慣れてきたら工夫するわ。大学が始まったらどうしても手を抜くことになるから、今だけと思って我慢してね。」

「わかった。我慢はしていないから、任せるよ。」

「ありがと。」





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