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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: 海來島オーデ
そして僕たちは新たな関係を始める
36/39

昼食会再び



月曜日の学校。

昼休みに高橋さんが由佳の席の前に机を移動している。ふたりで昼食とするのだろう。

彼女達を横目に僕は弁当を出す。目の前に座る友幸も鞄から弁当を出している。

そんな僕たちを見て高橋さんが誘ってきた。


「悠くんは机をくっつけないの~? 一緒に食べようよ」

「前に3人で食べるのは最後だと言っただろ?」

「ん~、4人だから違うよ? ねっ、ト~モ~くん。」


友幸を見てニヤリとする。友幸は座ったまま器用に後ずさりしたが、高橋さんの笑顔に屈した。


「致し方ない。今日は偶々弁当を持参したから共にするか」


友幸が机を移動する。口調は渋々で表情も硬いが、どこか嬉しそうだ。

僕が断ったら友幸の居心地が悪そうだと思い、仕方が無いと呟いて机を移動した。



椅子に座り弁当の包みを解く。栞里さんが作ってくれた弁当だ。

昨日はふたりでスーパーに買い物に行ったのだが、買い物の途中で栞里さんが辛そうにしていることに気が付いた。体調が悪いのを僕に気が付かれないように頑張っていたが、誤魔化しきれなくなったのだろう。今日の弁当は作らなくていいと伝えていたが、今朝になると渡されて、ひとつ作るのもふたつでも一緒だからと言われた。

そのことを思い出して心配になる。


「どうしたの?」


僕の態度に出ていたのだろうか、由佳が心配そうに聞いて来た。


「何でもない。大丈夫だ。」


言葉では大丈夫と答える。だが思い出した不安は心の中で広がった。

カバンからスマホを取り出して連絡がなかったか確認する。何も連絡が無くホッとしたが、不安は無くなりはしなかった。




「では会長、挨拶をどうぞ」


高橋さんが僕を見て会長と呼称する。由佳も何故かうんうんと頷いている。


「いやいや、会長じゃないから。というか何の会長だ?」

「この場の。昼食会?」

「普通は目配せとかしながら適当に食べ始めるんじゃないかな?」

「そだね~。由佳ちゃん何故?」

「中学の修学旅行で自由時間に喫茶店に入ったんだ。そこで最初に料理が届いたけど手を付けない男子がいて、理由を聞いたら、みんな揃ってから食べようっていうんだ。その男子が悠人なんだ」

「...だって。」


ああ、そんなこともあった。皆よりも先に食べ始めるのが嫌で適当に理由を作った時だ。よく覚えていたなと感心する。


「では、メンバーが集まったので昼食会を始める。少なくともこの場では仲良くしようか。美味しくご飯を食べるためによろしく頼む。...では食べよう。いただきます」

「「いただきます」」


友幸が苦笑する。


「何を笑ってるんだ?」

「見慣れない姿だと思ってな。昼食会会長と言う役職も良いな。面白いものを見せて貰った。...誰かに導かれるのを好むお前が、細やかな場だが率いる立場になった。それが不自然に思ったんだ」

「ん?」

「良い意味だ。成長した弟を見るようで嬉しく思った。それで自嘲した」

「難しく言ってるが、褒めてくれたんだな」

「そうだ」

「もっと素直に言えよ。だから友達が少ない」

「致し方ない。お前には言われたくないがな。お互い様だろ」


ふたりで苦笑する。



中学3年の春。

僕には友達がいなくなっていた。人付き合いが面倒に感じ、新しい友達を作ろうとは思わなかった。


1学期の中間試験の結果が渡された。クラス順位が貼り出され、それを見た友幸が声を掛けてきた。


「お前に負けた。何処で負けたのか知りたいからテスト結果を見せてくれ」


険しい顔をしている。テストの点数で負けて怒っているように見えた。これは面倒くさい奴だと思い「勝手に見ろ」とテスト結果を机の上に広げる。友幸は驚いたように僕を見てから「すまぬ」とひと言発し、指差して何かを呟きながらテスト結果を見る。

それが僕と友幸の最初の会話だった。態度が悪いが、悪い奴とは思わなかった。


それから度々、友幸が何かと理由をつけて話しかけてくる。難しい言葉を話し何を言っているか分かりにくいが、慣れてくるとどんな奴だか分かってきて、優しくて性根がまっすぐな奴だと分かった。プライドが高く言動が素直ではないため面倒くさい奴だとは思ったが。


「友達と呼んでいいか」と聞くと、憮然とした顔で「何を言ってるんだ?」と言う。友達だと思っていたので残念だった。その日の帰り際に友幸が言った。「友達に決まっているだろ、今頃聞くか?」と言う。本当に面倒くさい奴だ。そして友幸から見ればたぶん僕も面倒くさい。

そして僕と友幸は友達となった。



そういえばあの頃、僕はいつも由佳と友幸のどちらかと一緒に居たように思う。だが3人で居たことは無かった。




「面白い。トモくんはこんな感じに話すんだね」


高橋さんが話しかけてきた。友幸が憮然とする。


「面白いとは?」

「わたし人間観察をしているのだけど、こういうタイプは初めてかな~。悠くんが友達だと言わなかったら話すこともなかっただろうし、怖い人だと思って避けていたかも。由佳ちゃんはどう?」

「えっ、あたし? あたしは...うん、あたしも避けていたかもしれないかな」

「ふっふ~ん。じゃあもう慣れたね、友達だね。よかったねトモくん、友達が増えたよ」


高橋さんの思考が分からないが、友達として認めたと言うことは分かる。ならばこれに乗っておいたほうが和やかであろう。友幸が引き攣った顔をして椅子の上で出来るだけ離れようとしているが、逃げたいなら立ち上がればいい。少しくらいは嬉しいのだろう、相変わらずの天邪鬼だ。


「よかったな友幸。女子の友達が出来たぞ」

「まだ分からんぞ、ふざけているだけかもしれん」


高橋さんが、にやりと意地の悪い顔をする。だがそれは友幸が面倒くさいやつだと分かったからだろう。僕もそう思う。


「それじゃ、これから友達ね。よろしくトモくん」

「ああ、よろしく」


高橋さんが握手のために右手を差し出す。それを見て友幸が固まった。

「ん。」と高橋さんが催促するようにさらに手を突き出す。

友幸は苦虫を噛んだように食いしばった後、うろたえながら答えた。


「すまないが触れられない。ある人となら頑張るが、それは君ではない。ええと、君が嫌いと言うわけではなく、友達でよいと思っている。ある人というのはその...」

「いいよ。それじゃ友達だね、よろしく」


高橋さんが手を翻して小さく手を振った。


「それじゃ、次は由佳だね。どうぞ。」


由佳が「えっ」と言う。友幸がひと呼吸してから答えた。


「下川さんとは小学校の時から知り合いだ。家が近いから同じ学校だった」

「そうなんだ~」


ふたりが同じ学区なのは間違いないが、歩くとだいぶ遠いように思う。ぐねぐねと曲がりながら200メートルはあるだろう。家が近いと言ったことに疑問を感じた。


「だいぶ遠そうだが、近いか?」

「道が繋がっていないから歩くと遠いな。立地だとすぐ裏なんだ。数建挟んでるから隣ではないが、脇の溝川を通るとすぐだ。なお、髪をカットして貰いに行くときによく通る」

「そうなのか、気が付かなかった」

「まあ、近隣の住人なら通るが、ときどき遊びに来る程度なら普通は通らないからな。それにお前の家からだと通る必要が無い」

「そうか。そういえばどちらも同じくらいの距離だな。通る道も違う」

「そうだな」

「心配する必要は無いぞ、昔からの知り合いってだけだ。お前たちは付き合っているんだろ? 仲良くしろよ」

「ああ、ありがとう」


高橋さんがにやにやと笑っている。


「ふたりの話を聞いているとおじさん同士みたいだね、話し方?なのかな。仲が良いってことはわかるよ。...デートの時もこんな感じ?」

「俺は経験が無いからな、悠人の事だろ」

「僕か。どうだろう?」

「あたし? うーん、1度しかデートしてないけどこんな感じだったよ。箱根に行ったときもこんな感じだったかな。淡々と話す感じ? 落ち着いていてお父さんみたいだよね」

「お父さんに憧れてる? お母さんは再婚しないの?」

「うわさも聞かないかな。見た目は若いのにね」

「そうだな、知らなかったら由佳と姉妹といっても気が付かないかもしれない」

「お母さんは駄目だからね」

「それは悠人でもさすがに無いだろ」

「悠人だから心配。美代先生の例もあるから」

「おいおい、何もないから」

「だめ。絶対だめ。...(だけど悠人がお父さんでもいいな)」

「小声で何か言ったか?」

「ううん、何でもない」


高橋さんのにやにやが強くなった。


「親子丼?」

「ん? なんだ?」

「知らんでいい。高橋さん、悠人はそういうの疎いから気を付けて。ほら分かっていない顔をしている」

「トモくんは分かるんだ?」

「まあ、それなりに知識はある」

「手も握れないのに?」

「言うな」

「ふふーん、可愛いの~。ケイって呼んでいいよ」

「な、に?」

「ほら呼んで」

「くっ、分かったから明日でいいか?」

「だ~め!」


言い争っているふたりを見て由佳が嬉しそうに目を細める。


「トモくん、ケイと仲よくなったね」

「これで仲良く見えるか? それに腐女子には興味がない」

「あ~、酷いんだ~。仲良くしてたら良いことあるかもよ?」

「どんなだ?」

「やだ、女の口から言わせる気? なーんて。宿題を見せたりとかかな」


友幸は深く溜息をつく。だが楽しそうだ。


「俺は宿題を忘れないよ。さて、そろそろ終わりにしないか、昼休みが終わる」

「そうだな、終わりにしよう」

「いいよ~」

「あたしもいいよ」

「では、ご馳走様でした」

「「ご馳走様でした」」





5限目の後、由佳から話しがあった。


「栞里ちゃん、今日は休んだんだって。心配だから帰りに寄っていい?」

「そうか...では頼む」

「じゃあ、今日は勉強会は休もうか」

「そうだな」


由佳が高橋さんの背中を(つつ)く。


「今日、勉強会休むね。言っといてくれる?」

「いいよ~。話し聞こえてたから、分かったよ」

「ごめんね~」




帰り道。由佳とふたりで歩いている。


「栞里さんと昼にやり取りしているのか?」

「今日は偶々だよ。昼に悠人の様子がおかしかったから栞里ちゃんに聞いたんだ。...栞里ちゃんのことを心配してたんだね」

「土日に調子が悪かったんだ。だから弁当は要らないって言ったんだが、今朝用意していた。それで心配したんだが、登校したら忘れていて、弁当を見て思い出した」

「そっかー。...こっちに来てから他にあった? 今回が初めて?」

「こっちに来てからだと今回が初めてだ。もっと前でなら体調が悪いことがときどきあったな」

「それは心配になるね。...えーっと、あたしが聞くから悠人は気が付いてないフリをしてて。悠人が心配してたら栞里ちゃんが不安になるから。いいね?」

「...わかった」





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