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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: 海來島オーデ
そして僕たちは新たな関係を始める
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栞里の涙


由佳の家からの帰宅する道程。少し遠回りをして、八百屋で鶏卵を購入してから家に帰った。玄関の鍵を開けて、ただいまと呟いて家の中に入る。栞里さんはまだ学校から帰っておらず、家の中の空気が止まっているように感じ、寂しさを感じた。

制服を脱いでブラシをかけた後、シャワーを浴びてから台所に向かう。ネットで調べてから、鍋に水と鶏卵を数個放り込んでから火をつけて、タイマーをセットした。

茹であがるまでの間にパソコンで日記を書き、書き終えたところでアラームが鳴った。台所に行って鍋の火を消し、鶏卵を湯から取り出してボウルに入れて、蛇口からボウルに水を注ぐ。


「このまま20分か。」


独り言を呟いて、ゆで卵を見下ろした。



学校が始まって栞里さんも学校に通う。4時前くらいに帰ると言っていたが、毎日その時間で帰れるとは思えない。家事手伝いとして僕にできることは風呂掃除と洗濯物を取り込むくらいだが、出来ることを増やしておきたいと思った。全ては無理だがおかずの一品でも作れるようになっておこうと思い立ち、手始めにゆで卵を作るに至る。

20分が経ってゆで卵を取り出し、栞里さんが作った弁当と一緒に食べることにした。卵の殻を剥こうとするが、うまく剥けずに白身ごと剥がれてしまう。なんとか剥いた後にぱくりと一口食べると、黄身が偏っていた。


「ゆで卵もうまく作れないとは。」


呟いて先行きの困難なことを思い苦笑する。残ったゆで卵はそのままにして弁当を食べ終えた後、弁当箱を洗うくらいは出来ると思いシンクに立ってみたが、洗剤の場所が分からず水で流しただけで諦めた。


居間では落ち着かず自部屋に移動する。小説を書くことに没頭し、いつの間にか夕方6時になっていた。慌ててパソコンを持ち、部屋から出てベランダを見ると洗濯物は取り込まれていた。階下に降りて居間に向かうと台所から料理をする音が聞こえる。栞里さんの後姿が見えて「おかえり」と声を掛けた。栞里さんが振り向いて「ただいま」と答え、くすくすと笑った。


「ゆで卵、ありがとね。ポテトサラダを作るから待ってて。」

「うまく出来なかったんだ、使えるかな。」

「え? 普通に出来ていたわよ。どうだったの?」

「殻が綺麗に剥けなかった。」

「冷める前だったのかしら。綺麗に剥けたよ。ほら。」

「えっ...綺麗だな。ネットで調べて、水につけて20分とあったんだ。」

「粗熱を取ってからか、氷水ではないかしら。」

「そうか。難しいな。」

「うふふ。経験して覚えていくの。1度で駄目だからって諦めないでね。」

「ははっ。昔、同じことを言ってたね。覚えてる。」


彼女がにこりと笑って料理を続ける。その後ろ姿を見て穏やかな気持ちになり、ソファーに座ってパソコンを操作する。

7時になって「夕ご飯だよ」と声を掛けられ、意識が現実に戻って「ああ」と答えた。


食卓に着いて料理を見渡す。いつもより時間がなかったはずなのに、いつもと同じボリューム感に「すごいな」と感嘆の声が出た。

栞里さんがご飯を盛った茶碗を持ってきて、「いつもどおりに出来たかな」と恥じらう。

彼女が席に着いて、一緒に「いただきます」をした。


「大学は、どうだった?」


僕が先に話しかけると、彼女がもぐもぐとしながら僕を見て、飲み込んでから答える。


「最初から何処に行ったらいいのかって戸惑って大変だったの。明日からは落ち着けると思う。高校と雰囲気違ってて戸惑ったけど...大丈夫だよ。」

「そうか。」

「うふふ、心配してくれてたの?」

「ああ。」

「そう。ありがと。...悠くんは学校どうだったの?」

「あまり変わらないが、昔の友達が同じクラスになり、友達だと言ってくれた。嬉しかった。」

「そう。よかったね。」

「ああ。...そういえば、先生が家庭訪問をすると言っていた。栞里さんの予定を聞かれたよ。来週の金曜なんだが、何時ころに帰ってこれる?」

「4時には帰ってこれると思うわ。だけどわたしでいいの?」

「栞里さんに会いたいらしい。信用できる先生だ。悪い話にはならないと思う。」

「ん。」

「では、来週の金曜の夕方は空けておいてくれ。」

「分かったわ。」


いつもより時間をかけて夕食を取り、今日感じたことを互いに話し、穏やかな時間を過ごした。


夕食後、僕は台所に立って食器を洗っている。隣に栞里さんが立って一緒に食器を洗う。食器を洗い終わった後にシンクの掃除をして、生ごみの処理をする。栞里さんが指導して僕はそれに従う。


「食器を洗って終わりだと思ってた。」

「使ったときに掃除をするといつも綺麗だから。お願いね。」

「ああ。」

「台所の掃除は伯母さまから教わったの。この場所で。懐かしいな。」

「そうか。母さんから。」


シンクの中を流してから手を拭いて、次の指示を聞くために栞里さんを見る。彼女はシンクを見つめたままで涙を流していた。突然のことにどうしたらいいか分からず、僕も立ち尽くす。彼女は僕が見ていることに気が付いて、慌てて涙を拭った。


「ごめんなさい。なんだか懐かしくて。」

「そうか。」


栞里さんは、大丈夫だよと言わんばかりに笑顔を作り、にこりと僕に微笑む。安心した僕は、自然に手が出て彼女の頭を撫でた。


「風呂を用意するよ。」

「ん、お願い。」


風呂場に向かうために台所を出る。栞里さんが僕を見ていて、僕は軽く手を挙げて答えた。栞里さんの微笑みが柔らかくなったように感じた。



風呂から上がった後、いつものように自室で机でパソコンを使い執筆する。夜10時前にアラームが鳴り、パソコンを閉じてから、縮こまった体を伸ばすように両腕を上げて伸びをする。

階段を上りドアを閉める音が聞こえ、栞里さんが部屋に入ったことを認識する。今日は少し笑顔が多かったなと思い出していると、シンクの前で涙を流していた姿を思い出す。あれは何だったのだろうかと考えるが思いつくものはない。溜息を吐いて気持ちを切り替え、教科書を開いて勉強を始めた。





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