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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: はじめ みのる
そして僕たちの関係が始まる
3/39

約束


夢を見た。

高校生になって間もない時。彼女の希望で海辺の観光地に来ている。


真木詩衿。彼女の名前だ。以前は「衿ちゃん」と呼んでいたが、いつからか「しーちゃん」と呼ぶようになった。

ショートの黒髪、眉毛の太い、ぽっちゃりとした女の子。

僕の従姉妹で同い年。子供の時から仲が良く、高校生になった今では恋人となっている。



「悠くん、あの展望台に登ろうよ。」

「ああ、行こう。」


ふたり並んで手をつなぎ、ゆっくり歩きながら木々のトンネルを抜けて展望台に向かう。展望台の周りは開けており、春の日差しがまぶしい。

展望台に昇ると眼下に海原が広がる。陸地のほうを見ると富士山が見えた。


「わぁ、すごいよ。こんな大きい富士山は初めて見る。」

「ああ。裾野まで見えるのは初めて見た。」

(うち)からだと頭のほうしか見えないの。来てよかった~。」

「喜んでくれてよかった。嬉しいよ。」

「ん、わたしも嬉しい。」


展望台で景色を楽しんだ後、昼食にする。

海岸が見える見晴らしの良いレストランに入り、テラス席に座った。波しぶきが見え、展望台でみた穏やかな景色とは違い、岩場に波が打ちつける姿に驚く。


「わたし、岩場の海を見るの初めて。波がこんなに激しいのね。」

「僕も驚いている。穏やかな波なのに岩場では波しぶきがこんなに打ち上がるんだ。いままで落ち着いて見たことなかったから気が付かなかったよ。」

「海にはよく来るの?」

「海岸まではね。サイクリングでよく来るんだ。海岸で折り返すから、こっちまでは来ないけどね。」


注文した丼が運ばれてきた。母のお勧めで名物らしい。


「美味しそうだね。」

「うん、黒いところがすこし気になるけど・・・」

「そうだね。・・・食べようか。」

「そうね。」彼女が苦笑いをする。

「では」

「「いただきます」」


彼女は無難に身のほうを食べたようだ。僕は黒いところを食べる。


「どう?」

「食感は特にないかな。少し苦い。」

「身のほうを食べたけど、少し苦いよ。」

「なるほど。どこを食べても苦いのかな?」

「ん、そうみたい。」


いろいろなところを食べるが、少し苦い。


「うーん、大人の味って感じなのかな。」

「うん、わたしも。」


ふたりで顔を合わせて苦笑いをした。


昼食後、長い階段を下りて海辺の洞窟に行く。

ふたり手をつないで中に入っていき、暗くなったところで彼女が僕の腕を抱きしめる。彼女の温もりを感じながら、ゆっくり足を進める。海が見える場所で彼女を背中から抱き、ふたりで海を見る。


「悠くん、いつまでもこうしていたい。」

「僕もだ。」


しばらく彼女の温もりを感じながら佇む。

潮が満ちていき、波しぶきが脚にかかる。そろそろ出なければならない。


「そろそろ行こうか。」

「あのね、わたし、、、」

「ごめん、まずは外に出よう。潮が満ちるのが早い。」


洞窟から出て岩場に登る。


「ここなら大丈夫だろう。さっき何か言いかけていたけど、なに?」

「ううん、なんでもない。・・・もう少し、海を見ていたいな。」

「ん。海岸を歩いてから帰ろう。」


階段を上る。彼女の手をしっかりと掴んでいる。


「足場が悪いから気をつけて。」

「ん。」

「もうひとつ、行きたいところがあるんだ。」


永遠の愛が叶うという場所に向かう小道を、ふたり手をつないで登っていく。疲れているのか彼女は浮かぬ顔をしているが、僕に手を引かれて素直についてくる。


「僕と一緒に、、。いいかな。」

「・・・うん。」



夕方

彼女を家まで送る途中。彼女の家の近くの公園で、ふたりでベンチに座る。

彼女は俯いており、見慣れないその姿を不思議に感じ、彼女が口を開くのを僕は静かに待った。


「大学に行こうと思ってて、頑張らないといけないの。だから暫くゆうくんと会えないよ」

「どれくらい?」

「・・・大学に入るまで? 出るまでかも?」


最低でも3年間になる。その長さに僕は言葉を失う。


「時々は会えないのかな。」

「・・・会うと頑張れなくなると思うの。」

「電話はダメかな。」

「声を聞いたら会いたくなっちゃう。。。」

「メールならどう?」

「ん~、メールなら良いかも。」

「分かった。メールするよ。」

「時々にしてね。」

「ああ、週に1回くらいにしておく。邪魔したくないから。」

「ん、ありがと。」


黙っていると彼女は行ってしまうと思い、思い切って彼女の肩を抱いて引き寄せた。彼女は驚いたのかビクッとしたが、そのまま僕の肩に頭を乗せる。


「学校を卒業したら結婚しよう。」

「え?」

「約束してほしい。そしたら待てると思う。」

「ん、・・・わかった。約束する。」

「ありがとう。」


僕たちは初めてのキスをした。




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