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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: 海來島オーデ
そして僕たちの関係が始まる
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僕は君の笑顔が見たい(1)



詩衿の命日の日の朝。

いつものように起きて居間に向かい、おはようと声を掛け合う。栞里さんの様子はいつもと変わらないように見える。

学校は始業式だったが休んでおり、栞里さんも入学式だが出席しない。学校が始まることもあり、通学に関する話をしながら朝食を取った。

朝食後、僕はソファーに座りパソコンを使う。栞里さんは、しばらく台所に立っていたが、その後に食卓の席に座り、僕が渡した小説を読んでいる。

朝食後にソファーに座っていれば栞里さんが隣に座るかと期待していたが、それは実現せず、気落ちした気持ちとほっとした気持ちが同居していた。

栞里さんと何を話せばいいのか分からない。衿ちゃんの命日ということが頭を離れず、どうしても衿ちゃんとの思い出を考えてしまう。この1年、いや、会えないと言われてからの2年。もしくは僕が衿ちゃんと恋人になった日からいままで。栞里さんがどのような思いで過ごしたかはわからないが、聞くのが怖かった。


一言も話すことなく居た堪れない時間が過ぎていき、10時半を回ったところで玄関のチャイムが鳴り、制服姿の由佳ちゃんが顔を出す。


「おはよう、悠人。」

「おはよう。」


僕はホッと胸を撫でおろして苦笑する。栞里さんが台所からお茶を持ってきた。


「お茶にしましょう。またパウンドケーキを焼いたのよ。」



三人でお茶を飲みながら話をする。いつものように手作りのお菓子を褒めた後、学校の話題になった。

由佳ちゃんがいつもと変わらない笑顔で話す。


「悠人、また同じクラスだったから。席替えがあったけど同じ席にしといた。あたしが隣ね。」

「そうか、またよろしくな。」

「ん。それで、あたしの前がケイで、悠人の前はクラス替えで来た男子。岡本って言ったかな。」

「岡本なら知っている。同じ中学で、中学3年のときに同じクラスだぞ。高校1年のとき学年7位で、2年の期末で学年5位だ。国語が弱くて違うクラスになったが、頑張ったんだな。同じクラスになったってことは文系を選んだのか。」

「友達?」

「中学では普通に話していた。友達と言っていい。クラス順位が1位違いだったことが切っ掛けだな。少し変わったやつだが、真面目で信用できる。高校では接点がなくて話す機会がなかったな。」

「ああ、変わったやつってのは分かるな。今日少し話したんだけど、変わった考え方してた。」

「明日、話してみるよ。以前と同じいいやつだったらいいな。」

「そうだね。ところで今日は何をしてるの?」

「詩衿が好きだった料理を作ってるの。お昼はちらし寿司よ。由佳ちゃんも食べていくよね?」

「いいの? 食べたい。」

「みんなで食べたほうが、詩衿も喜ぶから。ね?」

「そうだな。食べていきな。」

「ありがと。」


栞里さんが席を立った。


「それじゃ、わたしそろそろ始めるね。」

「あっ、あたしも手伝おうか。」

「お魚をさばくけど、手伝う?」

「えっ、じゃあやめとく。」


由佳は一度立ち上がってからまた座った。栞里さんがくすくすと笑っている。


「そんなに嫌だったか。」

「あの感触は忘れられないかな。思い出すだけでもぞわーっとする。悠人もやってみれば?わかるから。」

「一度は経験してみるってのはいいかもな。将来役に立つかもしれない。」

「そうだね、いい経験になった。ま、理容師には魚を切るスキルはいらないけどね。」

「はは、そうだな。理容師には成れそうか? アルバイト頑張ったんだろ?」

「あたしだからね、成れるよ。問題はお金なんだ。うちは貧乏だから、親に頼るわけにもいかない。だから貯めてるんだけど、足りないかな。学校終わった後にコンビニとかで出来ないかなって探してるところ。」

「そうか、頑張ってるんだな。」

「悠人は将来何になるか決めてる?」

「言ってなかったか? 小説家だ。」

「初めて聞いたかな。いつから書いてるの?」

「物語が書きたいと思ったのは中学1年。今書いているのは1年前から。」

「書いたの、読ませてもらうことできる?」

「構わないが、僕と衿ちゃん栞里ちゃんを元にした話だが、それでもいいか?」

「それでいいよ。」

「栞里さん、由佳ちゃんに見せてもいいか?

「うん、いいよ。」

「ん。印刷したのがあるから持ってくる。」


自室から持ってきて由佳ちゃんに渡した。彼女はページをめくり読み始める。



------


『僕は君の笑顔が見たい』


ユウの携帯電話が鳴る。エリの母親からの電話。病院に駆けつけて病床を見ると、酸素マスクを付けたエリの姿があった。

様子を見に来た母親が、エリが倒れているのを発見して病院に運んだが、そのまま意識が戻らない。医師は回復しないだろうと言う。


ユウはブラックな会社で働いており、あまり家に帰れなかった。同棲中のエリはユウが帰ると笑顔で迎えた。ユウはエリにプロポーズをしたが、その返事をもらう前に会社からの呼び出しで出勤した。

そしてその日、エリが倒れた。


ユウは慟哭した後、意識を失う。


目が覚めたのは病院だった。ユウの枕元にエリが座り、優しく語りかける。

ユウの四肢はマヒしていたが、リハビリの生活を続け、エリの看病の甲斐があり回復していく。


数か月の入院の後に退院し、ユウとエリの幸せな生活が始まった。

ふたりで様々な場所に出かけて思い出を作っていく。

四肢のマヒは軽度に残っていたが、穏やかに生活するには問題がなかった。弁護士の指示で会社を辞め、ユウは近所のコンビニでアルバイトをしている。


ユウは時々夢を見る。

幼いころ。ユウの傍らにエリとリカがいる。エリとリカは双子。三人はお幼馴染で仲が良い。

中学生になった。ユウと双子のふたりは変わらず仲が良く、ユウはふたりとも好ましいと感じている。

高校生になった。ユウはエリを選び告白をする。エリは肯定の返事をする。

大人になった。ユウはエリにプロポーズをする。そのときの幸せな気持ち。


ユウがぶらりと街に出かけ、偶然にリカと出会う。楽しく会話をして、ユウは未練を感じた。

エリの提案で3人で旅行に出かける。大人になった3人での楽しい思い出。


ユウの隣にいたのはいつの間にかリカになっている。ユウは気が付いておらず、エリだと思っている。

暫くしてユウは隣にいるのがリカだと気が付く。いつからリカなのか思い出す。意識を戻したときから今まで。その全てがリカだった。

ユウは混乱し、エリはどうしたのか不安になり、エリの居た病院に駆けつける。そこには酸素マスクを付けたエリの姿があった。

ユウはエリに声をかける。遅れて、リカが病室に入る。


エリが目を覚ます。それはエリが倒れてから初めての覚醒。

エリは、わたし幸せだったと、ユウに気持ちを伝える。

彼女の最後は笑顔だった。ユウはいつか渡し損ねた指輪を彼女の指にはめる。


エリの葬儀。泣き出すリカ。ユウは怖い顔をしている。

ユウはリカと過ごした幸せな日々を思い出す。リカのことを想い、リカに微笑みを向け、リカを抱きしめた。


ユウとリカは今までのように一緒に暮らし、穏やかで幸せな日々を送る。


------



由佳がページを閉じ、肘をついて目を閉じた。

暫くして僕を呼ぶ。


「悠人、こっち来て。」

「ああ、ちょっと待て。」


ソファーから食卓の椅子に移動した。


「これ、この後どうするの?」

「栞里さんの許可を貰ったらになるが、出版社の担当さんと協力して本にする予定だ。これを原本に手直ししていく。」

「あたしの意見を言ってもいい?」

「いいよ。」

「主人公はエリの何が好きなのか教えてほしい。いや、質問を変えるよ。あんたは、詩衿ちゃんの何が好きだったんだ?」




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